2003年1月30日(木)「しんぶん赤旗」
ブッシュ米大統領は二十八日の一般教書演説で、イラクや北朝鮮などの「無法者政権」が「米国と世界が直面する最も重大な危険」だとし、北朝鮮問題では「平和解決」を探求すると述べる一方、イラクに対しては先制攻撃も辞さない姿勢を改めて表明しました。しかし、世界中が求めている、イラクの大量破壊兵器保有の証拠は示さず、二月五日の安全保障理事会でパウエル国務長官が提示すると述べるにとどまりました。
ブッシュ政権は当初、米同時テロ事件により米国の武力行使への許容度が高いうちに、フセイン政権打倒のための対イラク先制攻撃を強行しようとしました。しかし、国連憲章を無視した横暴な姿勢への批判が同盟国からも高まるもと、昨年九月以降、国連を通じたイラク問題対処に合意。十一月には、安保理決議一四四一が全会一致で採択され、新たな査察が開始されました。
二十七日の国連査察団の報告でも、イラクが大量破壊兵器を開発してきた決定的な証拠は指摘されていません。この間ブッシュ政権は、イラクが安保理決議の「重大な違反」を犯していると非難しながら、それを示す情報の提供を拒否。その一方で、イラク周辺に展開する兵力を増強し、二月中下旬には約二十万人に達する予定です。
この姿勢への批判が米国内外でさらに増大しています。特に仏、独などの同盟国が戦争反対の声を強めることに、ブッシュ政権は、いら立ちを募らせていました。フセイン政権打倒の戦争に固執するブッシュ大統領は、今回の演説で、戦争が不可避だとする主導権を取り戻そうとしました。
しかし演説は、「神の摂理」や「神のおぼしめし」など神がかりの色合いの強さが目立つばかりで、国際的な説得力を欠いたものでした。
例えばブッシュ氏は、イラクが核兵器を開発している証拠として、「核兵器開発に適した強化アルミニウム管を購入しようと試みた」と改めて指摘しました。しかし、これについてエルバラダイ国際原子力機関事務局長は前日の報告で、今日までの査察団の分析によれば、“アルミ管は通常ロケット用のもので、改造しなければ遠心分離機の製造に適さない″とのイラク側の説明は妥当だと認めているのです。
にもかかわらず米政権は、イラク攻撃の軍事態勢を増強するばかりか、イラクへの核攻撃計画を立案しているとされます。米軍事専門家のウィリアム・アーキン氏はロサンゼルス・タイムズ二十六日付論評で、イラクへの核兵器使用の可能性に備えていると指摘しました。
同氏が米戦略軍司令部の文書などに基づいて明らかにしたところによれば、戦略軍は世界中の大量破壊兵器施設を評価する「戦域立案活動」部門を新たに設置しました。また、イラク攻撃を担当する米中央軍用に、イラクに対する「戦域核立案文書」が作成されたとしています。
ブッシュ大統領の側近中の側近であるカード首席補佐官は二十六日のテレビ・インタビューで、「米国はあらゆる手段を使う」と述べ、イラクへの核兵器使用の可能性も排除しませんでした。ジョーンズ国務次官補(欧州・ユーラシア担当)は二十八日、イラクへの核使用を否定しましたが、核攻撃計画が検討されている事実は否定されていません。
米国は当面、イラクの安保理決議違反の「証拠」を小出しにしつつ、フランスなどが拒否権を行使しない見通しが立てば、イラク先制攻撃を容認する新たな安保理決議の採択を目指すもようです。しかし、その成算は決して高くありません。他方で、今回の演説でも「この国の進路は他の諸国の決定に依存しない」と述べ、単独武力行使の可能性を排除していません。
「地獄の門を開く」といわれるイラク攻撃の開始を今日まで先送りさせてきた原動力は、米国の無法な戦争を阻止しようとする世界の多くの人々の声です。査察遂行による問題の平和解決の道は開かれています。国際合意の誠実な実行をイラク側に迫りつつ、国連憲章の平和のルールを守り、戦争に反対する世論をいっそう拡大することが、いま求められています。(坂口明記者)
ブッシュ大統領は昨年の一般教書演説で、イラクや北朝鮮、イランを「悪の枢軸」と名指しして批判しながら、対テロ戦争の拡大を宣言しました。今年の演説では、これらの国を「無法者政権」とくくり、大量破壊兵器の脅威を持ち出して、イラクへの武力行使に備え国民に結束を訴えました。
国連による査察が続くイラクの大量破壊兵器の問題についてブッシュ大統領は、「フセイン(イラク大統領)は生物・化学兵器を廃棄したとの証拠を示していない」との主張を繰り返し、フセインが完全に武装解除しないなら、「連合を率いて武装解除する」と強調しました。
加えて、国際テロ組織アルカイダとイラクが関連があるとして、継続する対テロ戦争と対イラク戦争を強引に結びつけ、フセイン大統領が「政権から取り除かれる日は、あなた方の解放の日だ」とイラク国民に呼びかけました。
米国内では経済問題を軽視して戦争を急ぐブッシュ政権に批判が強まっています。これを意識してブッシュ大統領は、演説の前半を国内問題にあて、経済、医療改革、環境、貧困、麻薬問題などで新政策を提示しました。
演説後半の外交問題でも、パレスチナ問題の解決とエイズに苦しむアフリカ、カリブ諸国への援助計画を真っ先にあげ、「思いやりのある」政権の演出に努めました。しかし、後半の約二十分は、うってかわって「無法者政権」の非難と糾弾に集中し、昨年同様の戦争演説となりました。
「他国の決定に依存せず、どんな行動がいつ必要であっても、わたしは米国民の自由と安全を守る」。ブッシュ氏のこうした主張からは、世界から孤立しても単独行動を辞さない米国の独善性が透けて見えます。(ワシントンで遠藤誠二)
米一般教書 米大統領が憲法の規定に基づき、議会に内外情勢を報告し、政府の基本政策を説明する一種の施政方針。例年、一月下旬に大統領自ら、上下両院合同会議で演説を行って発表するため年頭教書とも呼ばれます。大統領は議会に法案を提出できませんが、教書で示された内容は議会での立法に大きな影響を与えます。予算教書、経済報告とともに「三大教書」の一つとされます。
ブッシュ大統領は二〇〇二年一月二十九日の一般教書演説で、北朝鮮、イラク、イランを「悪の枢軸」と呼び、内外に大きな波紋を引き起こしました。