2011年7月23日(土)「しんぶん赤旗」
あす地デジ完全移行
準備不足抱えたまま
弱者対策遅れ チューナー不足
地上波テレビが24日正午、デジタル放送に完全移行しアナログ放送は打ち切られます(岩手、宮城、福島の被災3県を除く)。5000万世帯、約1億3000万台といわれるテレビが一斉に切り替わる放送史上例のない大事業。“テレビ難民”は出ないのか、政府の移行計画は万全だったのでしょうか。(萩原真里、佐藤研二)
日本でアナログ放送が始まったのは、1953年。60年代後半に白黒からカラーへの移行はありましたが、テレビはそのまま使えました。ところが、地デジに完全移行する24日以降、テレビを買い替えるか、アナログテレビにチューナーを取り付けるかの対応が迫られます。ケーブルテレビが「デジアナ変換」されている場合はそのまま使用できます。
未対応の世帯が百万超える予想
NHKの調査によると、共同住宅や戸建てのアンテナが地デジに対応していないのは、6月末までで約29万世帯。ジャーナリストの坂本衛さんは「地デジ対応が遅れている高齢者や低所得層の実態は把握すらされていない」と危惧します。
坂本さんら有識者グループは3月、このままアナログ停波を強行すると「100万単位の家庭でテレビを見ることができない」と警鐘を鳴らし、「地上アナログ放送の終了延期」を求める要求書を発表しています。
円滑な地デジ移行の鍵となる安価なチューナーの普及も、停波が迫るにつれ全国で品薄が顕在化しています。群馬県伊勢崎市の男性は「家電量販店やホームセンターを回ったがすべて売り切れ。テレビの買い替えは無理なので困った」と日本共産党事務所へファクスを寄せてきました。
名古屋市西区で町内会長を務める西田一廣さん(63)も、近隣住民の地デジ相談に乗るなかで「チューナー不足の混乱」を実感しています。「デジサポの窓口で訴えても『インターネットで探して』と言うだけ。このままでは、台風が来る8月にテレビが見られない人が続出してしまいます」と、アナログ放送の継続を訴えます。
総務省地上放送課でも「一部地方では品物が足りない」と認め、メーカーにも協力を要請していると言います。しかし、茨城県内の電器店経営者は「メーカー側は近い将来必要なくなるチューナーを余分に作りたくない。チューナーが手に入っても、アンテナ工事をする業者自体も人員不足。つまり政府の準備不足です」と指摘します。
政府の移行策は「国策に値せず」
「7月24日」のアナログ停波が決められたのは、2001年の電波法「改正」。それ以前の1998年10月の段階では、アナログ停波時期については「世帯普及率が85%に達した段階で決める」とした報告が郵政省(当時)の「地上デジタル放送懇談会」でまとめられていました。視聴者代表も含んだ懇談会の合意を無視し、衆参各2時間だけの議論で日本共産党以外の各党が強行したのでした。
地デジ化について「テレビ画面が高画質・高音質になる」「電波を整理し有効利用できる」「放送と通信の融合は世界のすう勢」などのメリットが語られました。日本共産党は地デジ化の意義を認めつつ、国民のテレビ買い替えサイクルを無視して機械的に「10年後アナログ停波」を求めた政府案に反対し、国民の準備が整った段階で停波時期を決めるとした修正案を提案しました。
実際、地デジへの移行への準備期間がまるまる10年あったわけではありません。日本で地デジ放送がスタートしたのは2003年12月で、全国に広がったのは06年12月のこと。沖縄県先島諸島では09年10月。地域ごとで準備期間に大きな差がありました。
弱者対策はさらに遅れました。生活保護世帯など「NHK受信料全額免除世帯」へのチューナー支給(アンテナ工事も含む)が始まったのは09年10月から。対象が「市町村民税非課税世帯」に拡大されたのは今年1月でした。しかも、アンテナは含まずチューナーの送付のみ。周知・広報不足と手続きの複雑さも相まって、申し込みは5月末で6万件にとどまっています。
「政府の地デジ移行策は国策に値しない」と坂本さん。発表した「要求書」では、7月25日以降も「実用化試験放送」としてアナログ放送を継続することを求めています。