2008年2月11日(月)「しんぶん赤旗」

TAC(東南アジア友好協力条約)

ユーラシア覆う

平和の共同体 9条と共鳴


 憲法九条と響きあう「戦争放棄」の流れが世界に広がっています。東南アジア友好協力条約(TAC)です。五カ国でスタートした同条約にはいま二十四カ国が加入。ユーラシア全体を覆いつつあります。TACはどういう歴史をへて誕生し、どうやって平和を作り出そうとしているのでしょうか。


「TAC」って?

 TACは一九七六年に、「世界の平和、安定、調和をいっそう促進するために、東南アジアの内外のすべての平和愛好国との協力が必要」(前文)という考えから結ばれました。当初の加入国はインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの五カ国です。

 条約の最大の特徴は、「武力による威嚇または行使の放棄」や「紛争の平和的手段による解決」、つまり戦争放棄を定めた日本国憲法と共通する目標を明記していることです。

 加入国間で争いが起きたら、「武力による威嚇や武力の行使を慎み、常に加入国間で友好的な交渉を通じて、その紛争を解決する」と定めています。当事国だけで解決することが難しい場合は、加入国の閣僚級代表でつくる理事会が仲介することも明記されています。

 国連憲章の諸原則、バンドン会議(一九五五年)の平和十原則、東南アジア諸国連合(ASEAN)設立宣言、「平和・自由・中立地帯(ZOPFAN)宣言」を再確認し、加盟国間の永遠の平和と経済、社会、文化などでの協力をめざしています。

 二〇〇五年から三回、「東アジアにおける平和、安定及び経済的繁栄を促進することを目的とした対話フォーラム」で共同体形成をめざす東アジア首脳会議が開かれており、TAC加入が参加条件です。

なぜ戦争放棄?

 東南アジアの国々が長年にわたり、戦争によって苦しんだことが背景にあります。

 一九五五年にインドネシアのバンドンで、第二次世界大戦後に独立したアジア・アフリカの旧植民地国など二十九カ国が国際会議を開きました。日本も参加しています。

 会議が採択した「バンドン十原則」は、国連憲章の原則をふまえ、主権尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決、武力行使の放棄が盛り込まれています。欧米の植民地支配や日本の侵略戦争に苦しんだ国々は、自分たちの運命は自分たちで決めることに合意したのです。

 TACの精神の原型はここにあります。

 ところがバンドン会議後、東南アジアは米国のベトナム侵略戦争に巻き込まれます。米国は南ベトナムに親米独裁政権を据えて介入を深めます。南ベトナムでは米国と独裁政権に対する解放闘争が拡大。米国はベトナム北部への空爆や南部での米軍の投入など侵略をエスカレートさせました。

 こうしたなか、東南アジア条約機構(SEATO)加盟国のタイとフィリピンの米軍基地などが戦争の足場にされました。

 ベトナム侵略戦争が続く中で、一九六七年には、東南アジア諸国連合(ASEAN)が結成されます。ASEANは七一年、「平和・自由・中立地帯(ZOPFAN)宣言」を発表し「中立志向」を明確にしました。

 七五年四月、米国がベトナム侵略戦争に敗れ、南北ベトナムは統一されました。翌七六年二月、ASEANはインドネシアのバリ島で初めての首脳会議を開き、ベトナムなどインドシナ三カ国との友好関係樹立の意思を表明するとともに、TACを締結したのです。

日米の態度は?

 日本は〇四年にTACに加入しました。〇三年のASEAN首脳会議では加入を拒否しましたが、理由は「相互不可侵を基本とするTACと日米安保条約との整合性がとれないため」でした。

 日本が一転してTAC加入を決めた背景には、ASEAN側の不満とともに、日本政府内、経済界の一部からの批判がありました。とりわけ、急速に力を増しつつある中国とインドが加入したことに、日本政府はアジアで取り残されるという危機感を感じていました。

 米国はTACへの加入申請をしていません。

 それでも、〇五年十一月に韓国・釜山で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、ブッシュ大統領とASEAN首脳が「ASEANと米国のパートナーシップ強化に関する共同ビジョン声明」を発表。米国はTACを「地域の平和と安全促進のために国家間の関係を律する行動規範」と認め、「同条約の精神と原則を尊重する」と表明しました。

 マレーシアのアブドラ首相は〇五年九月の訪米でTAC加入を検討するよう要請。同年十二月の東アジア首脳会議では「米国もTACに加入すれば首脳会議に参加できる」と呼び掛ける一方で、東アジア共同体は米国からの自立の過程と語り、アジア諸国の共同による平和を強調しました。

 軍事同盟を結んでいる日本や米国も、軍事力偏重の外交ではなくTACの精神を言葉だけでなく実践で生かすことが求められています。

戦争どう防ぐ?

 ASEANは、一九八七年にTAC加入を域外に開放し、九八年に加入手続きを整備しました。加入国は〇三年以降に急増しています。〇三年三月に米国がイラク戦争を強行する一方、東アジアからは平和の共同が広がっていったのです。

 理由の一つは、ASEANが東アジア首脳会議への参加の条件にTAC加入を挙げたことがあります。さらに重要な理由は、TACへの加入で地域の平和と安定を実現しようという意志です。

 〇七年に加入したフランスは「欧州連合(EU)やASEANのような地域組織間の緊密な協力を通じて、世界の安定を促進したい」と表明。EUもすでに加入を申請しています。

 TACは欧州連合(EU)に見られる欧州統合を参考につくられました。ただ、EUは欧州の平和維持を軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に大きく依存しており、域外の「脅威」に対し集団的に軍事力を行使することもあります。

 一方のTACは、域外の「脅威」に集団的に軍事力で対応せず、戦争放棄を決めた条約の加入国を増やしていくことで平和を実現しようとします。

 加入国が広がるなかで、中国とベトナムは海域の国境問題を残しながらも、陸上国境問題を対話で解決。インドと中国が数十年にわたる紛争と対立に終止符を打ち、インドとパキスタンは領土問題での深刻な対立を平和的に解決しようと試みています。

 宮崎清明、小林俊哉、面川誠が担当しました。


TAC加入国

 ASEAN加盟国十カ国のほか、東ティモール、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、日本、中国、韓国、ロシア、モンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、フランス。計二十四カ国。人口は三十七億人で、地球人口の57%に達します。

地図


東南アジア諸国連合(ASEAN)

 一九六七年、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピンの五カ国が「豊かで平和な共同体がつくられる基盤を強化する」(結成宣言)目的で結成。外国軍基地が域内諸国の民族の独立と自由をくつがえしてはならないと憲章で宣言。加盟国は現在、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーを加え十カ国。


 東南アジア条約機構(SEATO) 一九五四年九月、米国主導で結成された軍事同盟。加盟国は米国、英国、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、タイの八カ国。フランスがインドシナ(ベトナム、ラオス、カンボジア)侵略戦争で敗退した後、インドシナ半島での民族解放運動を封じ込めるのが当初の目的。七七年に解体。


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