2007年5月14日(月)「しんぶん赤旗」
諫早湾閉め切り10年 第2部
まやかしの公共事業(4)
防災効果は最良か
■第2部 まやかしの公共事業
- 「角栄」への贈り物[2007.5.10]
- 漁民の闘争 半世紀に[2007.5.11]
- 「防災」を殺し文句に[2007.5.12]
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諫早地域では干潟を少しずつ農地にかえる「地先干拓」といわれる方法が六百年の昔から営々と続けられてきました。
自然環境への打撃が少ない「地先干拓方式」に対し、海湾を閉め切る「複式干拓方式」は自然改変の規模が大きく、海洋環境や漁業に与える打撃も甚大です(連載1部参照)。
しかし、農水省は、「複式干拓」による防災対策を諫早地域では「最も有効な手法」と主張し、自然破壊を意に介さず防災を目玉に干拓事業を続けてきました。
それなら「複式干拓」の防災効果はどれほどのものなのか?
海洋物理学者の宇野木早苗・元東海大教授と干拓事業の防災問題を研究してきた市民グループの菅波完、羽入洋三両氏が最近、その効果を科学的に検討した成果をまとめました。三月下旬、東京で開かれた日本海洋学会で宇野木さんが研究結果を発表しました。「複式干拓」の防災効果が科学的に検討されたのは初めてです。
長崎県諫早湾干拓協議会の広報資料は「潮受堤防をつくることで、まず高潮を防ぐことができます。また、調整池の水の高さをマイナス1mに保つことで、排水が改善され、洪水が防げます」と断定しています。
高潮対策
ついで「今までは、高潮で海の水位が上昇している時に大雨が降ると、川の水が海に出にくくなり、川の水位が上昇し、標高の低い土地へあふれていました。このため事前に、川の出口に7200万m3もの大量の水を貯(た)めることができる調整池をつくります。これなら諫早大水害の時のような大雨が降っても大丈夫」と効果を強調しています。
宇野木さんらは、「複式干拓方式」が潮受け堤防内部の「高潮に対する安全性を高めた」と評価しながらも、日本各地の従来の高潮対策を「諫早湾だけ排除しなければならない特別な理由は見いだせない」と指摘しています。
洪水防止
宇野木さんらは、河川下流域の洪水について「複式干拓方式」の効果を概略次のようにまとめています。
(1)国土交通省のシミュレーション結果によると、干拓事業が実施された後でも下流域の安全性は確保されていない。洪水を防ぐには河道整備が必要
(2)調整池の河川水の溜(た)め込みは、むしろ調整池周辺地域へ水害を広げる可能性もある
(3)複式干拓方式は、調整池の水位が低い時だけ有効だが、それは大雨の初期段階だけである
(4)潮受け堤防建設後の数多くの実例は、大雨の場合のはんらんを防げなかった。従来の低平地対策と同じに排水設備を完備する必要がある―。
宇野木さんは、研究の結果をこう話します。
「複式干拓方式は、海洋環境、漁業生産や工事費の面ではなはだしいマイナス効果をともないます。これらを総合すると複式干拓による防災対策は、最も有効な手法であるとはいえず、むしろ避けるべき手法だというのが私たちの結論です」(つづく)