2003年1月14日(火)「しんぶん赤旗」
「最近、『赤旗』紙面によく出てくる“貸しはがし”って、なんですか」―。経済部にこんな質問の電話がかかってきました。いまでは日常的に使われている“貸し渋り”“貸しはがし”。そのルーツをたどってみると―。(大小島美和子記者)
“貸し渋り”“貸しはがし”という言葉を最初に聞いたのは、たしか、中小企業経営者でつくる「東京中小企業家同友会」の勉強会でした。もう何年も前のことです。そこで、中小企業の経営者で東京同友会の副代表をしている、三宅一男さんを訪ねました。
「一九九七年春ころだね」
メガネの奥で、思い出すように視線を泳がせながら、三宅さんはいいます。
「私の取引先の都市銀行が、貸し付けを『ちょっと待ってくれ』とか、『応じられない』とかいい出し、従来と態度が違ってきた。他の中小企業にも同じことが広範に広がっていることが分かってね。当時は“貸し渋り”・債権回収といっていた」
以後、同会はシンポジウムや学習会などをたびたび開き、中小企業を苦しめる“貸し渋り”“貸しはがし”の実態の告発や、中小企業への金融を守るための提案などをしてきたといいます。
“貸し渋り”は、金融機関が文字どおり新規融資などを「渋る」ことです。一方、“貸しはがし”はどうか―。
実際に“貸しはがし”されそうになった関東地方のある中小企業の社長はいいます。
「中小企業にとって、なくなれば経営がたちゆかなくなる融資金を“まるで布団を引っぺがすように無理やり回収する”こと。許せない」
“貸す”という銀行の社会的責任の放棄です。
日本の中小企業は、経営資金を銀行などからの借入金にたよる割合が高く、融資回収は、中小企業にとって“致命的”です。“貸しはがし”はどうして生まれるのでしょうか。
「“貸しはがし”というと、いかにも金融機関が“悪者”のようですが、金融機関の職員は決してこれを望んでいるのではありません。政府の金融政策がそうさせているのです」。これはある信用金庫の関係者の率直な声です。
信金関係者の話はつづきます。小泉政権による不良債権処理の加速策のもとで「金融機関は、一方で自分の体力をそぐ不良債権処理をしながら、もう一方で高い体力を維持するように求められているのです。そこで金融機関はもうかる企業だけに貸したり、貸し付け全体を減らしたりしています。これが中小企業への貸し渋り、貸しはがしを生んでいます」。
中小企業は“貸し渋り”“貸しはがし”をどのようになくしていったらいいのでしょうか。静岡大学人文学部教授の鳥畑与一さんに聞きました。
「政府は、収益力・自己資本比率でみた銀行の『健全性』悪化が構造改革の障害とみています。そこで、収益追求のために、経営が悪化した企業を切り捨てる銀行ほど『健全』と評価するような金融システムづくりを追求しているのです」
そして、「“貸しはがし”は、企業活動や地域経済に必要な資金を安定的に供給するという銀行の公共性、社会的責任の放棄です」と批判します。
一部の地域金融機関では、困難に陥っている中小企業の経営を支援し、融資もしていこうとする動きも起き始めています。それが「不良債権」を減らし、地域経済やみずからの体質を立て直す道でもあるという位置づけです。このような動きが本流となる金融条件づくりの運動も始まっています。
その点で鳥畑さんは、「中小企業家同友会が制定を求めている金融アセスメント法や、日本共産党の地域金融活性化法などの実現、各地での『貸しはがし防止条例』制定などへのとりくみは、銀行などの社会的責任の回復や地域金融の再生に貢献するという点で重要です」と指摘します。