2003年1月7日(火)「しんぶん赤旗」
![]() 汚泥からメタンをつくる卵型の消化タンク=横浜市鶴見区 |
![]() |
「あなたの家の下水が、地球を温暖化から救う?」――。生物と人類の存亡にとって、一刻も早く解決を迫られている地球温暖化防止の課題。二酸化炭素など温暖化ガス放出を抑えるとりくみや新しい挑戦が始まっています。横浜市や山形市の下水処理場で始まっているユニークな「燃料電池発電」は、その模索のひとつです。
首都圏の工場が集まる横浜市鶴見区の埋め立て地の一角。抜けるような青空に真っ白な巨大な卵型の「物体」が十二個並んでいます。
高さは約三十一メートル。夜になると下から青っぽい光でうっすらとライトアップされる光景は、どことなくSFの世界。この卵は、いつのころからか「ゴジラのたまご」と呼ばれるようになりました。
「このたまごの中身は?」――。「横浜市内の下水汚泥を集め、それを発酵させてメタンガスをつくるための消化タンクなんです」と、横浜市北部汚泥処理センター所長の阿部信幸さん。
特筆されるのが、メタンガスによる発電方式。一九九九年から全国に先駆け、その一部を使って水の電気分解の逆の反応をさせて電気にする「燃料電池発電」を導入しました。従来の内燃機関の発電方式に比べ、小型で、騒音もすくないシステム。二酸化炭素や、健康によくない二酸化窒素などの排ガスの発生もありません。
廃熱を再利用するため、熱効率はトータルで約八割にも。原発の熱効率約三割と比べるとむだのなさがわかります。ガスエンジン発電と燃料電池発電による電力は約五千キロワット。「燃料電池発電をしているのは二百キロワットですが、供給できるのは約四百二十世帯分。騒音が少ないし、屋外にそのまま置けるので、建築コストもかからない。病院などでの利用もいいでしょうね」。同処理センターの担当者も胸を張ります。
人口約三百五十万人の横浜市で発生する汚泥は年間八万三千二百トン(乾燥重量)。
年間一人あたりの汚泥は二十四キログラム。これを三十日間発酵させてできるメタンはそれほど多くはありませんが、「汚泥をそれなりに大量に集めれば、メタンを有効に利用できるようになる。卵型のタンクも、効率よく中でかくはんをおこし、大量のメタンをとりだせるように工夫された結果なんです」と、阿部所長。
ドイツから技術導入した卵型の消化タンクでできるメタンは、年間約千六百二十四万七千立方メートル。このメタンを発電に使い、隣接のごみ焼却工場の発電施設からも一部買っている電力を含めると、同センターの電力がほとんどまかなえます。東京電力からの電力供給は全施設のわずか0・02%以下です。メタンを発電に使っていることで、年間九千八百トンの二酸化炭素排出を抑えている勘定といいます。