2003年1月5日(日)「しんぶん赤旗」
今月、岐阜県で開かれる二〇〇二年度教育研究全国集会で、校舎の保存運動が広がっている滋賀県豊郷(とよさと)町の町立豊郷小学校の一年生の担任教師が、校舎内の彫刻を教材にした生活科の授業の実践報告をします。
報告するのは竹腰宏見さん(46)。これまで生活科の実践として、柿の葉茶つくり、梅干しつくり、卵からひなをかえす、桜島大根の栽培などに地域の人たちの協力をえてとりくんできました。そんななかで校舎の保存問題が町民の大きな関心事となってきたのです。
豊郷小学校は同町出身の近江商人古川鉄次郎(故人)が私財をなげうってつくり、一九三七年に完成しました。設計はアメリカ人の建築家ヴォーリズ。当時として最新の設備を備え、文化的価値の高い建築物です。
竹腰さんは「この建物のすばらしさをなんとかして子どもたちに伝えたい」と考えました。「しかし、小学校一年生にどうやってそれを伝えるか」。さまざまに思案し、思いついたのが、校舎の三カ所の階段にある彫刻を使った授業です。
彫刻は「ウサギとカメ」。イソップの寓話(ぐうわ)として知られています。しかし、「なぜウサギとカメの彫刻がこの小学校にあるのか」。竹腰さんの疑問でもありました。ある人が『負けたらあかん』という本に古川鉄次郎のことが出ていて、それを読めばわかると教えてくれました。ところがその本は絶版。やっと捜しあてた先は石川県立図書館。読んでみてわかりました。
彫刻の「カメ」は鉄次郎自身でした。鉄次郎は兄弟が多く、家も貧乏で学校の給食費もろくに払えないときがありました。しかし、担任の先生は「そういう苦労もあるが、一歩一歩着実にすすむことが大事だよ」と励ましてくれました。この励ましが鉄次郎にがんばる力を与えました。
鉄次郎が校舎の竣工(しゅんこう)式でその話をしたとき、出席していた鉄次郎の担任だった先生は涙を流して聞いていたといいます。
竹腰さんはこの“古川鉄次郎物語”を紙芝居にして一年生に読み聞かせました。
竹腰さんは「校舎の保存をめぐって町内がゆれるなかで、一年生にどんな授業をするか悩みました。しかし、わずか一時間の授業で紙芝居を読み聞かせただけですが、子どもたちが『この学校だいじにせなあかんな』といってくれたときはうれしかったです。生活科の他の実践例とともに、教科書だけにとらわれない生きた教材を使った授業の実践例として報告したい」と話します。
豊郷小学校の保存をめぐっては、解体強行派の町長も保存を求める世論の高まりに昨年十二月二十四日、解体断念を表明し、保存運動は新たな段階を迎えています。