2002年12月25日(水)「しんぶん赤旗」
「『改革断行』予算」(小泉純一郎首相)だそうです。何を「断行」しようというのでしょうか。小泉内閣が二十四日決めた二〇〇三年度予算政府案を読み解く五つのポイントは――。
![]() 病院の窓口で会計を待つ人たち |
“予算案は景気にニュートラル(中立)”。〇三年度予算案について、財務省内では、こんな評価が流れています。「先行減税」による景気「対策」はしたものの、国民生活関連の予算をバッサリ削ったため、景気が良くなるか分からないという不安のあらわれです。
来年度予算案は国民からみれば、「中立」どころか、生活をますます切り詰めなければならない「国民生活マイナス」予算です。
きびしい不況だからこそ充実して国民生活を支えなければならない社会保障関係費はわずか3・9%増。“増加”といっても、実際には高齢化などで自然に増える経費まで切り詰めた大幅減です。年金、医療、介護、雇用、福祉のどれをとっても負担増や給付減です。
その中でもとくにひどいのが、世界でも低水準の年金給付額の引き下げで、これは年金制度の歴史にかつてないことです。年金生活者の収入に配慮した物価スライド制を逆手にとって、物価下落分の1%を削減します。
介護保険、医療費の負担増で打撃を受けたお年寄りの暮らしに追い打ちをかける冷たい予算案です。
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ある財務省幹部は、「保険料を上げても、給付をカットしても国民負担増といわれる。それなら国債を増やせばいいというのか」と、財政”危機”を強調します。
財政がきびしいなら、まずムダな支出をなくすべきです。ところがムダ遣いや環境破壊と批判が高まる公共投資や軍事費は聖域あつかいです。
公共投資はわずか3・9%減っただけ。財務省も認めるように、物価下落で単価が下がった分で、事業量はそのままです。自民党議員や秘書が公共事業でとる口利き料が3%、5%ですから、利権をなくしただけでもこれぐらいは減ります。
しかも内容はひどくなっています。実際の発着回数実績からみればまったく必要のない関西国際空港第二期工事のほか、大都市圏の環状道路などが「重点化」事業になり、11〜34%増になっています。
軍事費も五兆円水準のままです。一隻だけで中小企業対策費に迫るイージス艦をまた購入します。米国の無法なイラク攻撃をにらんでインド洋に派遣されたイージス艦よりさらに最新鋭のイージス艦に巨費を投じようとしています。
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「不良債権最終処理の加速」路線を突き進む小泉政権は、来春設立予定の「産業再生機構」に十兆円の政府保証枠を設定しました。これまで銀行には七十兆円の公的資金枠が設定されていましたが、それに加えて「産業再生機構」が政府系や民間の金融機関などからの資金調達に政府保証を付与するものです。不良債権処理の加速で中小企業には倒産を強いる一方、一部の大企業には人も金もつぎ込んでリストラを後押しし、中核事業を「再生」することを狙っています。
さらに、地域金融機関の再編・合併を促進するため預金保険機構に「金融機関等経営基盤強化勘定」を新設します。地域金融機関にたいする合併・再編の促進は、地域経済と中小企業を支えてきた地域金融機関に店舗の削減を押し付け、リストラを強要します。不況で資金繰りに苦しむ中小企業にとって事業を進めるための「血液」が吸い上げられるようなものです。
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来年度予算案の景気対策の目玉は二兆円の「先行減税」です。研究開発やIT(情報技術)投資が対象ですが、投資を減らしても「減税」になる仕組みで、投資促進、経済活性化になりません。しかも、減税になるのは法人税を納めている黒字企業です。七割を占める赤字企業への恩恵はありません。
一方、庶民や中小企業には大増税です。発泡酒とたばこの庶民増税が来年から始まります。
個人所得税の各種控除縮小の第一弾として決まった配偶者特別控除(三十八万円)廃止は、〇四年一月から。年間収入三百万円から千二百万円以下の世帯すべてに、国・地方税合計で最高十万千円もの負担を強います。影響は千二百万人におよびます。
日本経済を支える中小企業への増税も深刻です。「第二の消費税」と批判される外形標準課税や消費税の税率引き上げの「条件整備」とされる中小企業向け特別措置の縮小が〇四年度から導入されます。
黒字企業にだけ減税し、庶民や中小企業に大増税では日本経済をいっそう弱めるだけです。
「国と地方の財政負担というものを改めて再構築」すると宣言する塩川正十郎財務相。そのために政府が切り込んだのが義務教育費です。国庫負担金の二千百八十四億円を削減(一般財源化)しました。各自治体は教員の削減と学校の統廃合を迫られることになりかねません。
自治体が住民の暮らしや営業を支えるためにおこなっている事業への国庫補助金も大幅にカットしました。介護保険事業費は百十二億円も減少。中小企業活性化補助金は六十一億円減。農業経営対策事業費補助金も二十四億円減らしました。
国の財政破たんを地方財政にしわ寄せする一方、増額しているのが市町村合併のための推進事業費です。今年度より四億九千万円増やし、三十二億八千万円を計上しました。
地域経済の崩壊に苦しむ地方自治体を“兵糧(ひょうろう)攻め”にして合併を強要するものにほかなりません。
(2002年度当初予算ないし現行→2003年度予算政府案)
■医療費の患者負担
健保本人
自己負担2割→3割
■年金(物価下落分の年金カット、1%の場合)
厚生年金(夫婦2人、モデル支給額)
月23万8000円→月23万5620円
国民年金(夫婦2人、満額支給で)
月13万4000円→月13万2660円
■私学助成(私立学校への経常費補助)
私立大学
3198億円→3218億円
私立高校
978億円→1002億円
■育英奨学金
無利子貸与
40万6000人→42万7000人
有利子貸与
39万2000人→43万9000人
■失業給付
給付日額を引き下げ
(45歳〜59歳、月額賃金48.9万円の場合)
9780円→8040円(17.8%減)
給付日数の短縮
(定年・自発的離職の場合)
最大180日→150日
■一般歳出に占める中小企業対策費の割合
0.39%(1861億円)
→0.36%(1729億円)
■住宅供給
住宅金融公庫の融資戸数
50万戸→37万戸
都市基盤整備公団の住宅建設
戸数 1万1800戸→9900戸
■酒税
発泡酒(350ミリリットル)
約37円→約47円
ワイン(720ミリリットル)
約41円→約51円
■たばこ税
たばこ(1本あたり)
約6円→約7円
■個人所得課税
配偶者特別控除廃止
(2004年1月から)
■外形標準課税
資本金1億円を超える企業に適用
(2004年4月から)
■消費税
事業者免税点制度の適用上限の引き下げ
(2004年4月から)
3000万円→1000万円
簡易課税制度の適用上限の引き下げ
(2004年4月から)
2億円→5000万円