2002年12月16日(月)「しんぶん赤旗」
十六日に出航するイージス艦。どういう機能を持つ船で、どのような対米支援をおこなうことになるのかみてみましょう。(田中一郎、山崎伸治記者)
イージス艦とは、「イージス戦闘システム」という対空戦闘装置を搭載した軍艦のことです。
最初に導入した米海軍は、同システムについて「(敵の)探知から抹殺までの総合的な兵器システム。レーダーは、百以上の標的を追跡する能力を持ち、捜索・追跡・ミサイル誘導を同時におこなうことができる」(米海軍ホームページから)と説明しています。
もともと空母護衛用に開発されたもので、空母などに多数のミサイルや航空機による攻撃がかけられた際、同時に対処するため、通常の護衛艦をはるかに上回る高性能レーダーで探知し、標的にあわせた迎撃武器を選択することをコンピューターで自動化したシステムです。探知から攻撃までに、人間の判断をなるべく間にはさまないことによって、高速で近づく”敵”に、すばやく対処することをねらったものです。
米軍(約六十隻)以外に保有しているのは、日本とスペイン海軍(一隻)だけです。
空母をもたない日本が、導入を決め、予算化したのは八八年。旧ソ連の空からの”脅威”を口実にしていましたが、事実上、米空母”防衛”のためでした。
現在、海上自衛隊が保有するイージス艦は四隻。すべて「こんごう」型の護衛艦で、「きりしま」はその二番艦です。
これらのイージス艦は、米空母との共同訓練を頻繁におこなっています。
防衛庁によると、「こんごう」型は、ほかの護衛艦に比べ、五倍程度にあたる数百キロメートルまでレーダーによる探知が可能。とらえた”敵”への同時攻撃能力は、通常の護衛艦を上回る十目標以上とされています。また洋上の艦船についても、レーダーでとらえた情報の分析能力にすぐれていると説明しています。
これだけの強力な装備のため、一隻あたり約千二百億円という、他の護衛艦に比べて約二倍もの調達費用がかかります。
政府・防衛庁は二〇〇〇年十二月の中期防衛力整備計画で、さらに二隻の新鋭イージス艦(一隻あたり約千四百億円)の調達を決定しています。
イージス艦には、戦闘情報交換の高度な能力があります。データリンクシステムとよばれるものです。
データリンクシステムそのものは、日本の多くの護衛艦に搭載されています。リンク11といわれるそのシステムは、レーダーでとらえた標的の位置、敵か味方かどうか、それがミサイルか戦闘機かといった情報を、同じシステムを持っている艦船などに伝達し、各艦船に搭載されたディスプレーに映し出すことができます。
防衛庁は、海自艦隊が収集した戦闘情報が米軍に対し「機械的には一応自動的に流れる」(西川徹矢・防衛庁運用局長、十一月十九日の衆院安全保障委員会)仕組みになっていることも認めています。
しかも渡された戦闘情報を米軍がどう活用するかは、「米軍の判断」(海自関係者)にまかせられています。もともと戦闘情報の共有を目的にしたシステムであり、交換した標的情報を米軍が攻撃目標とするのは、十分ありえることです。
海上自衛隊のイージス艦には、リンク11に比べて百倍の容量をもち、より詳しい標的情報の交換が可能なリンク16を搭載したものもあります。今後の派遣艦船の交代で、リンク16を搭載したイージス艦派遣の可能性もあります。
現在、護衛艦「ひえい」「さみだれ」、補給艦「とわだ」が洋上補給活動を実施中。このほか護衛艦「はるさめ」、補給艦「ときわ」が、現場海域に向かっています。
「きりしま」は「ひえい」と交代し、洋上補給活動での護衛にあたると防衛庁は説明します。
現在でさえ、こうした給油や戦闘情報の面でも米軍の軍事作戦に組みこまれていますが、イージス艦の派遣によって、いっそう深く組みこまれることになります。
日本政府はなぜいま、こうした能力をもつイージス艦を派遣するのでしょうか。
そもそも自衛隊を戦地に派遣することが憲法に違反する重大問題ですが、イージス艦の派遣をめぐっては、与党内にさえ、「集団的自衛権の行使にあたる」などといった批判の声があり、これまで何度か派遣が検討されながらも見送られてきました。
しかし、米軍がイラクに対する武力攻撃の準備を本格的にすすめるなかで、日本に対する派遣要求を強化。それを受け、「インド洋内での(自衛隊の)活動を強化することをもって対イラク(攻撃作戦)に浸透するようにする」(自民党・山崎拓幹事長)としておこなわれるのが、イージス艦派遣です。
もともと「旗を見せろ」(ショー・ザ・フラッグ)で始まったインド洋への自衛隊派遣。イージス艦というだれの目にも見える「旗」を掲げることで、米国への「貢献」ぶりを示そうとした日本政府の卑屈な姿勢の表れです。