日本共産党

2002年12月12日(木)「しんぶん赤旗」

林真須美被告に死刑判決

カレー事件 「ヒ素混入」断定 和歌山地裁


 和歌山市園部で一九九八年七月、自治会の夏祭りでカレーを食べた四人が死亡、六十三人が急性ヒ素中毒になった毒物カレー事件で、殺人罪などに問われた林真須美被告(41)に対する判決公判が十一日、和歌山地裁で開かれました。小川育央裁判長は、ヒ素を入手し、カレーにヒ素を混入し得るのは「被告だけ」と指摘。「極めて悪質かつ冷酷。社会に与えた影響は大きい」などと述べ、求刑通り死刑を言い渡しました。同被告側は控訴しました。

 判決で裁判長は、ヒ素(亜ヒ酸)について「三回の鑑定の分析結果から、カレーの中の亜ヒ酸は被告周辺で見つかった亜ヒ酸の可能性が極めて高い」と認定しました。

 検察側が犯行の直接的な原因とした「激高」については、主婦らの証言などから、同被告が近所の住民に対して疎外感を抱いていたことは認めたものの、「具体的な証拠がない」と否定。その上で同被告がヒ素の危険性を知っていたことなどを挙げ、「未必的な殺意で敢行した」と述べました。

 事件前の一年半の間に、保険金目的で四回も人にヒ素を摂取させたとされる起訴事実も含む類似事実を認定。これらを「犯人性を肯定する重要な間接事実」とした上で「午後零時二十分から午後一時までの間にヒ素を紙コップに入れて混入した」と断定しました。

鑑定の検証不十分

弁護団メンバーが会見

 死刑判決を受けた林真須美被告が閉廷直後、法廷内で「間違いなく控訴してくれますね」という趣旨の問い掛けをしてきたことを、弁護団が十一日夕、明らかにしました。

 記者会見した弁護団のメンバーは「住民の証言が捜査段階から変わったこともあり、信頼性に問題がある」「(先端技術を使った)今回のような亜ヒ酸の鑑定は初めてのケース。鑑定が正しいかどうかが十分に検証できていない」などと口々に判決を批判しました。


“家族は帰らない”

被害者に今も後遺症

 和歌山カレー事件で十一日、林真須美被告(41)にいいわたされた死刑判決。事件発生から約四年五カ月。遺族の一人は、「どんな判決でも家族は帰ってこない」と話します。ヒ素中毒で後遺症が残る被害者は「法廷で真須美被告に真相を語ってほしかった」と語ります。司法の厳罰が下っても、遺族の悲しみ、被害者の苦しみは癒えません。

 判決後、遺族二人が和歌山市内で記者会見。娘の幸さん=当時(16)=を亡くした鳥居百合江さん(52)は「判決は希望通り」と語る一方、「裁判上では区切りですが、私たちの生活には一生区切りはありません」と胸の内を明かしました。事件からこれまでを振り返り、「苦しみました。あの子のいない生活がどれだけ長く感じたことか」とうつむいて涙を流しました。

 自治会長だった夫の孝寿さん=同(64)=を亡くした谷中千鶴子さん(65)は「娘と一緒に墓前に判決を報告したい」と話しました。しかし、事件について「黙秘では何も真実が分からない。クエスチョンばかりだった」とやり切れない思いをのぞかせました。

 亡くなった四人の遺族は、カレー事件の判決を受けて、真須美被告を相手取り、損害賠償を求める訴えを和歌山地裁に起こす考えです。

 今も後遺症に苦しむ被害者も少なくありません。楠山育子さん(52)は今も、足の指にしびれを感じます。事件後、十八日間入院。その後、一年ほど通院しましたが、完治しませんでした。

 仕事中は感じない足のしびれが、夜のほっとした時間によみがえります。そんな時、事件について何も語らない同被告に怒りを感じるといいます。

 「不安と納得のいかない気持ちでいっぱい」と楠山さん。「こんな事件は二度と起きてほしくない」と、被害者の気持ちを代弁しました。


ヒ素同一性で判断

 和歌山カレー事件で、犯行を物的に証明するうえで大きな争点となったのは、(1)住民が食べた夏祭り会場のカレーなべから検出されたヒ素(亜ヒ酸)(2)同会場で発見された紙コップに付着していたヒ素(3)林真須美被告の自宅にあったプラスチック容器に残っていたヒ素(4)真須美被告の親族が預かっていたヒ素―の四つの同一性という問題でした。

 検察側から鑑定を依頼された大学教授らは、微量でも鑑定できる最先端の「SPring―8」(スプリング・エイト)といわれる大型の放射光設備を使用しました。犯罪の捜査では初めての使用。その結果はいずれのヒ素も「同一」というものでした。

 裁判のなかで、弁護側は再鑑定を求め、裁判所が別の大学教授らに鑑定を依頼。当初、ヒ素が微量のため「判断できない」とされましたが、裁判所は鑑定書の補充を命じ、出た結果が「同種」か「類似」でした。

 製造段階で微妙に成分が異なるといわれるヒ素。真須美被告の夫、健治受刑者=詐欺罪で懲役六年=がシロアリ駆除の仕事をしていた関係で、自宅や親族の倉庫など真須美被告の周辺にヒ素は存在していました。このヒ素とカレー事件に使用されたヒ素が同じものかどうか――。

 判決は「カレーに混入された亜ヒ酸は、会場で見つかった紙コップを介して真須美被告周辺で見つかった亜ヒ酸の蓋然(がいぜん)性が極めて高い」とし、製造段階での同一の可能性がきわめて高いことを認めました。

 被告が黙秘と否認を貫くなか、ヒ素の同一性が高く、犯行当時、ヒ素をカレーに混入できたのは被告しかあり得ない、というのが裁判所の判断でした。

 それにしても鑑定結果には「同一」「類似・同種」といった微妙なぶれがありました。鑑定するヒ素の量が微量だったためです。最初の大学教授による鑑定の前に警察庁の科学警察研究所(科警研)が行った鑑定で紙コップに付着していたヒ素をほとんど使ってしまった、との指摘もあり、今後の科学的犯罪捜査のあり方に問題を残した面もあります。(栗田敏夫記者)


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