2002年12月2日(月)「しんぶん赤旗」
北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が十一月二十一、二十二の両日、同機構の半世紀にわたる歴史上初めて旧東欧の首都、チェコのプラハで開催されました。同首脳会議は、テロ対策などを口実に世界各地で行動する即応部隊の創設などNATOの軍備・機構の改革と旧東欧諸国七カ国の新規加盟の方針を決めました。米国を中心に全世界的規模で軍事介入を行う巨大な軍事同盟は、どこにむかおうとしているのか。
首脳会議が採択した「プラハ宣言」は、即応部隊の任務を、「テロと大量破壊兵器の拡散、その運搬手段」などNATO加盟国が直面する脅威に対処するために「必要なあらゆる地域に速やかに展開する部隊を所有すべきだ」と強調しています。その口実には昨年九月の米国同時テロが最大限に利用されています
即応部隊は「高度な技術と機動力、持続力を持つ」とされ、二〇〇四年十月までに立ち上げ、〇六年十月までに完全な作戦可能能力を有するものになります。
首脳会議ではまた、司令系統の効率化で一致したほか、個々の加盟国が、生物・化学・核兵器への防護、監視体制、精密誘導兵器、空中・海上輸送などの分野で、軍近代化の促進を宣言、米国が進めるミサイル防衛構想(MD)への協力を表明しています。
NATOは、旧ソ連圏の「脅威」を強調し、それとの対決を目的としてきましたが、ソ連・東欧諸国の旧体制崩壊後、その存在理由を失いました。そしてその活路を同盟国の枠を超えた「域外介入」に求めてきました。一九九九年四月にワシントンで開かれたNATO創設五十周年記念首脳会議では、周辺地域での地域紛争が加盟国に波及する事態を安全保障上の脅威だとし、NATOの任務に「域外地域を対象にした紛争予防、危機管理」を加えるなどの「新戦略概念」を採択しました。
NATO条約第五条は「締約国への武力攻撃を全締約国への攻撃とみなす」と規定し、その性格を集団防衛機構としています。ロバートソンNATO事務局長は、新たな事態のなかで集団防衛は「国家以外のテロリストによる攻撃にたいするものに拡大された」と主張しています。米国の思惑に沿った「改革」で同国が各地で引き起こす戦争に同盟国を巻き込む危険性が高まります。
首脳会議では、旧東欧の七カ国の新規加盟が承認されました。NATO加盟国は現在の加盟国十九カ国から一気に二十六カ国に拡大します。ことし五月にロシアを準加盟国として取り込んだことと合わせ、NATO軍事同盟は北米とユーラシア大陸の広大な地域に広がります
新規にNATO加盟が認められた国は、ブルガリア、ルーマニア、スロベニア、スロバキアの旧東欧諸国と旧ソ連のリトアニア、エストニア、ラトビアのバルト三国。加盟実現の時期は遅くとも〇四年五月とされます。旧東欧諸国ではすでにハンガリー、チェコ、ポーランドの三カ国が一九九九年三月に加盟しています。残るアルバニアとマケドニアも将来の加盟国と想定されています。旧ソ連のウクライナも五月に加盟の手続き開始を決定しています。
東西対決の時代にNATOと対立していた旧ワルシャワ条約機構諸国について、NATOは早くから経済援助などをてこにして、軍事同盟への取り込みに動き「東方拡大」をすすめてきました。
独自の核政略を持ち、東方拡大に抵抗してきたロシアも、今回のNATO拡大を事実上承認しました。その背景には、ことし五月に「NATO・ロシア理事会」が発足、ロシアがNATOの行動に拒否権は認められないものの、加盟国と同様の資格が与えられ、部分的にNATOの共同決定に加わる「準加盟」の地位が与えられたことがあります。
NATO拡大で、広大な地域に対する米国の主導権がいっそう強化されることになります。
プラハ首脳会議は、イラクの大量破壊兵器査察再開に関する国連安全保障理事会決議一四四一を支持し、イラクに同決議の順守を求める声明を採択しました。米国はこの声明を同国が固執する対イラク武力行使を容認するものと強引に解釈しようとしていますが、一部の欧州加盟国はこれに強く反発しています
この声明は首脳会議の日程になく、米国のごり押しで採択されたものでした。米国などの武力行使への支持については、独仏を中心に反対意見が相次ぎ、文言上は盛り込まれませんでした。
しかし、ライス米大統領補佐官は「イラクが武装解除に応じない場合の効果的行動を支持するものだ」とのべています。これに対し、ドイツのシュレーダー首相とフィッシャー外相は、従来のドイツの軍事行動不参加の立場を表明、フランス当局者も武力攻撃には国連安保理での再決議が必要だとの立場を再確認しました。
ブッシュ政権はNATO内での主導権をいっそう強化し、加盟国に軍事増強を迫り、域外活動に動員しようとしています。プラハ理事会の決めたNATOの軍備・態勢の改革はこれに沿ったもので、欧州同盟国にとっては大きな経済的な負担ともなっています。欧州連合(EU)を軸に欧州独自の安全保障体制を進めようとしてきた欧州同盟国と米国の間の亀裂は、軍事同盟そのものの矛盾を拡大することになりそうです。