日本共産党

2002年11月30日(土)「しんぶん赤旗」

薬害エイズ控訴審

患者の視点欠落

検察が主張


 薬害エイズ事件で、業務上過失致死罪に問われ、一審の東京地裁で無罪判決を受けた元帝京大副学長・安部英被告(86)の第一回控訴審公判が二十九日、東京高裁(河辺義正裁判長)で開かれ、検察側は「患者側の視点が欠落している」と批判して、一審判決の棄却を求め、有罪を主張しました。


 検察側はこの日の公判で、控訴趣意書を朗読。一審判決は(1)非加熱製剤投与で患者が死亡する危険性を不当に低く評価した(2)安全とされた国内血漿(けっしょう)を原料としたクリオ製剤の有用性を過小評価した(3)事情が大きく異なる他施設の専門医と被告を同一視している―などと主張。「被告は二人の患者がエイズで死亡するのを目の当たりにしている。現場の医師として何をすべきだったかを重視すべきだ」と強調しました。さらに「資金提供を受けていた製薬会社の利益を第一に考え、加熱製剤の導入に強硬に反対したという背景事実を軽視すべきではない」と述べました。

 これに対し、弁護側は「一審判決は精緻(せいち)かつ論理的で、個別の論点についても厳密な検討を加えており、無罪は明らか」などとして、控訴棄却を求めました。

 一審の東京地裁は昨年三月、「当時の大多数の血友病専門医は非加熱製剤を使っており、被告だけに過失があったとは言えない」などとして、安部被告に無罪(求刑禁固三年)を言い渡しました。

 事件は一九八五年に血友病患者がエイズウイルスの混入した非加熱血液製剤を投与されエイズで死亡したもの。次回は来年一月二十一日で、八五年当時に非加熱製剤の投与を止めた医師の証人尋問を行います。


安部被告欠席を批判

原告団弁護団 自分の口で真実語れ

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記者会見する東京HIV訴訟原告団と同弁護団=29日、東京・霞が関の司法記者クラブ

 「安部被告は真実を語ってほしい」。薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われた元帝京大副学長・安部英被告(86)の控訴審初公判を傍聴した東京HIV訴訟原告団と同弁護団が二十九日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見しました。

 「安部被告は自分の口で話さなければならない責任がある」と、「主役」不在のまま始まった審理を批判するのは、北海道のHIV訴訟原告・井上昌和さん(38)と妻の身奈栄さん(39)。「検察側の控訴趣意書の主張は患者被害者の立場を代弁してくれているもので、全体として評価できる」と語りました。

 同訴訟原告の三十代の男性は「控訴審での安部被告が無罪になるようではこの国の防疫や医療はどうなってしまうのか不安を覚えます。危険を分かっていた安部被告が自分の家族に非加熱製剤を使いますかと問いたい」と、被告人質問がない審理を批判しました。

 法廷には帝京大学病院で一九八五年に非加熱製剤を投与され息子を死亡させられた母親も傍聴。「(検察側の主張に)少し力づけられました。次回から証人尋問に入ることになり元気になった」と話していました。

 控訴審は被告の出廷が義務付けられていません。無罪判決から約一年八カ月。安部被告の弁護団によると、同被告はほとんどを自宅で過ごし、外出は週一回程度、病院の診察をうけにいくときぐらいです。


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