2002年10月25日(金)「しんぶん赤旗」
ワシントン近郊で相次ぐ狙撃事件は二十三日、発生から三週間がたちました。捜査当局は同日夜、事件に関する情報を持っている可能性があるとして湾岸戦争帰還兵(40)とその息子(17)の二人に逮捕状を発し、行方を追っていると発表しました。また、メリーランド州モンゴメリー郡で路線バスの運転手が射殺された二十二日の狙撃と一連の事件が同一犯のものであると断定。犠牲者はこれで、死者十人、負傷者三人となりました。「銃社会」米国の首都圏で続く無差別殺人は、市民、とくに子どもの生活に深刻な影響を与えています。(米東部メリーランド州ロックビルで遠藤誠二)
事件はすべてワシントンから郊外にのびる幹線沿いで発生しました。数百メートル離れた場所から高性能ライフル銃で射殺する手口は、銃が絡む殺傷が後を絶たない米国でも国民に大きな衝撃を与えています。
犯人はこれまで、警察と接触を試み、十九日の犯行現場にはメッセージを残しました。ワシントンポスト紙二十三日付は、メッセージは手書きメモで、捜査本部に電話したが無視されたのでさらに五人を殺害したことや、二十一日までに一千万ドル(十二億五千万円)を支払うよう要求し、拒否したら新たな「遺体バッグ」が必要になる、などと指摘しているといい、犯人の異常な心理が浮かび上がっています。
モンゴメリー郡警察のムース署長は二十二日夜、犯人にたいし捜査当局へ連絡をとるよう呼び掛けました。二十三日に記者会見した同署長は、米国民以外からの情報提供も募り、犯行と移民・外国人との関連も示唆しています。
ワシントン周辺の子どもたちは普段と違う生活を強いられています。七日に起きた九件目の銃撃は、登校した十三歳の中学生が標的にされ、市民は子どもも対象外でないことを認識しました。
ムース署長は二十二日の記者会見で、「お前らの子どもたちは、どこにいても、いかなる時も安全ではない」との犯人のメッセージを読み上げました。同日発生した事件でも犯人は新たなメモを残しているといわれ、子どもを狙撃の対象にすると脅迫しています。
二十三日、ブッシュ大統領はこの事件について言及。「子どもは危険にさらされやすい」と指摘し、「犯人を捕まえるため、地方捜査当局への支援を最大限に行うよう連邦政府に指示した」ことを明らかにしました。
十九日にバージニア州リッチモンド近郊で起きた狙撃事件を受け、地域の学校は週明けの二十一、二十二の両日、休校となりました。ワシントン近郊の学校では、校舎の施錠、屋外での活動禁止が継続され、放課後の各種スポーツ行事・レクリエーションも自粛措置がとられています。
小学生のいる主婦(三十六歳、ロックビル在住)は、「学校でも家に帰っても外で遊べない日々を過ごし、子どもはストレスがたまっています。いつまでこんな状態が続くのでしょうか」と表情を曇らせました。
モンゴメリー郡野球連盟(MCBA)は、開催中の少年野球秋季リーグの実質中止を決定。同リーグに参加していた野球チームのマネジャーを務めるジーンさんは、「一人の異常な人間のおかげでこんな事態になるのは本当に遺憾です。でも子どもの安全を考えると仕方がない」と語りました。
おとなの日常生活にも変化がみられます。これまで狙撃された何人かがガソリンスタンドにいたため、市民の間では、ガソリン給油中は車の中か建物の陰に隠れる習慣がつきました。駐米日本大使館は在留邦人あてに、外出するときは「なるべく動き」「ジグザグに速足で歩く」などの警察のアドバイスを通知しました。
一部民主党議員からは、銃規制強化を求める意見が出ており、十一月五日投票の中間選挙の争点となる可能性があります。ワシントン周辺では、投票日に外出を控える有権者が多数出て投票率の低下が懸念されています。
同時多発テロ発生後、主に米東部の国民を狙った炭疽(たんそ)菌連続殺人事件発生から一年目を迎えるワシントンは昨年同様、緊迫した秋を迎えました。十月三十一日のハロウィーンの祭りは今年も屋内での行事が多くなります。
当局は最初から犯人はアルカイダ一味と決めてかかっていたのが、その後国内犯と分かった時には、捜査は完全に立ち遅れていました。外に向かっては一部の国を「悪の枢軸」国家呼ばわりして戦争も辞さずというブッシュ政権のもと、内なる“悪”の病巣の広がりはあまりにも深刻です。この銃撃事件地帯に家族とともに住む“住民”の一人として、疑問と不安、怒りをひしひしと感じる毎日です。