2002年10月2日(水)「しんぶん赤旗」
新任の防衛庁長官に、戦争体験をもたない新世代の自民党国防族の中心的な一人とされてきた石破茂衆院議員が就任したことで、波紋が広がっています。衆院有事特別委のメンバーである同氏を有事法案の担当閣僚の一人にしたことは、官邸の有事法案シフト(福田康夫官房長官、安倍晋三官房副長官の留任)とあわせて、小泉首相の有事法案成立にかける執念がみえたという評価があるからです。
こうした見方を裏付けるように、石破新長官は就任早々「有事法制をきちんとやっていくのが、(周辺国の)日本への野心を抑止することになる」「一歩でも前に進めたい」(三十日)などと発言。一日の初閣議後の記者会見でも「防衛庁の抱える課題に一刻も早く結論を出したい」と意欲を示しました。
こうした言動も突然出たものではないことが重大です。石破新長官は、自民党安保調査会副会長、党基地対策特別委副委員長を務めるほか、自民、民主の若手議員百人余でつくる「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」世話人や、国防議連幹事などの経歴をもち、自衛隊制服組とも深い付き合いがあることで知られています。
一方、国会でも繰り返し、有事法制の必要性を強調。「有事」に業務従事命令を出しても憲法違反ではないなど、政府の立場に“理論的”な口実を与えるような「合理化」論を展開してきました。五月の衆院有事法制特別委では、自衛権の行使として、いつ武力行使ができるかをめぐって、攻撃を受けた後とする小泉首相と、相手が攻撃に着手した段階とする福田官房長官の答弁が食い違った際には“お助け”質問。「先制攻撃も憲法上、あり得る」などと重大発言をして議場を驚かせました。
また、政府でさえ憲法上許されないとする徴兵制について、「国を守ることが奴隷的な苦役だというような国は、国家の名に値しない」など公然と徴兵制合憲論を展開しています。自衛隊を所管する防衛庁長官の資質を問われる発言です。
こうした石破氏ら新世代の国防族のあからさまなタカ派発言には、自民党内長老などから苦言が出ています。石破氏もそれを意識したのか、五月十六日の衆院有事特別委では「反論」を試みました。石破氏は、「日本における防空計画は、国民の冷淡と無関心、民間と軍当局との間の混乱、調整の欠乏につきまとわれ(ていた)」とする終戦直後の米国戦略爆撃調査団の報告をひいて、「いまでもそのまま通用する」「おまえたちは戦争を知らないじゃないか、戦争を知らない者が何を言うんだというふうに言われてきたが、じゃ、このような戦争の反省はどのように生きてきたのか」などと、戦争体験者を「非難」したのです。
戦時中の「防空計画」の反省を生かして、戦後も戦時中を上回る防空体制をつくっておくべきだったという、時空を飛び越えた珍論でした。
先制攻撃は憲法上あり得る 「座して死を待つことが日本国憲法の予定するところではない、ほかに何も打つ手がなければ先制攻撃も憲法上は、法理論上はあり得るということで、あたり前のことです」(五月十六日、衆院有事法制特別委)
「徴兵制」は憲法違反でない 「日本において、徴兵制は憲法違反だといってはばからない人がいますが、そんな議論は世界中どこにもない。国を守ることが意に反した奴隷的な苦役だというような国は、国家の名に値しない。…徴兵制が憲法違反であるということには、そのような議論にはどうしても賛成しかねる」(五月二十三日、衆院憲法調査会)
業務従事命令は「苦役」でない 「有事法制によって業務従事命令をかけられることは、極端にいえば憲法一八条(苦役の禁止)違反だとまで言いきる人もおられます。…災害であれあるいは有事であれ、これは強制労働には当たらないと考えるのが理の当然ではないか」(七月二十四日、衆院憲法調査会)
自衛隊に海外での武力行使の権限を 「正規戦を想定した訓練を積んできた自衛隊に、海外における自衛権行使としての武力行使の権限を与えることなく、危害許容要件を正当防衛と緊急避難のみに限定したままで、危険な地域に派遣することがあってはなりません」(〇一年十月十日、衆院本会議)