日本共産党

2002年9月29日(日)「しんぶん赤旗」

どうなってるの?

国連のイラク大量破壊兵器査察


 米国のブッシュ政権はいま、イラクの大量破壊兵器の脅威を宣伝しながら、これを理由に先制攻撃をおこなう準備を着々と進めています。国連によるイラクの大量破壊兵器査察の歴史と問題点、さらにこれを利用した米国のイラク攻撃の狙いをみました。


なぜ査察なのか

 査察の根拠となっているのは、一九九〇年のイラクのクウェート侵略に端を発した湾岸戦争(九一年)の停戦決議、国連安保理決議六八七です

 同決議は、イラクが無条件で、すべての化学・生物兵器、それに核兵器とその原料および研究開発施設、射程百五十キロ以上のすべての弾道ミサイルと関連部品や生産施設を廃棄、撤去、無害化することを求めました。イラクはこの決議を受け入れました。

 決議に基づき、大量破壊兵器の廃棄を監視する国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)が設立されました。核兵器の査察は国際原子力機関(IAEA)が行います。

 大量破壊兵器の廃棄を要求する理由として同決議は、イラクが湾岸危機のさいにジュネーブ議定書(一九二五年採択)が禁止する神経ガスや細菌兵器の使用を威嚇の手段にするとともに、かつて化学兵器を使用したこと、湾岸戦争で弾道ミサイルを使用したことをあげています。

査察の現状は

 国連は約七年間にわたる査察で一定の成果(別項)をあげたとしています。しかし、九八年十二月以来、今日まで中断した状況がつづいています

 査察が中断したのは、イラクが協力を拒否、これを口実に米英軍がイラクを大規模爆撃したからです。九九年十二月に新たな安保理決議一二八四で国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)が設立されました。イラク政府は十六日、国連事務総長あての書簡で査察を無条件で受け入れると表明しました。

 査察問題で対立が続く背景には米国の干渉政策があります。他方、イラクが非協力的態度をとってきたこともあります。

 イラクが査察開始直後の九一年六月、威嚇射撃を行って核開発関連の装置を運ぶ車両への査察団の接近を妨害したとされるのはその一例です。九八年十月の査察協力拒否は、査察に協力しても経済制裁解除への動きがみられないことへのいらだちに加え、査察が大統領宮殿にまで及ぼうとしたこと、査察と称して米国がスパイを行っていることなどが理由でした。

 米国は査察を利用してさまざまな干渉を行ってきました。UNSCOM元委員長のエケウス氏は、米国が査察を政治目的に利用し、「イラク側の妨害を引き出し、直接軍事攻撃の正当化に使おうとした」と認め(英紙フィナンシャル・タイムズ七月三十日付)、UNSCOMに参加した米軍の情報部員の経歴をもつリッター氏は、査察を通しスパイ活動を行ったと告白しています。

攻撃の理由は

 ブッシュ米政権はフセイン政権打倒のための武力攻撃の姿勢を繰り返し明らかにしています。その口実に、同政権と国際テロ組織アルカイダとの関係もあげていますが、その明確な証拠を示せないでいます。そこで持ちだしてきたのが大量破壊兵器開発問題です

 しかし、ブッシュ政権の狙いは査察再開とは関係なく、フセイン政権をとにかく打倒するということにあります。

 ブッシュ大統領は五月の演説で「フセイン政権を代えなければならないというのが米国の政策だ」と主張、チェイニー副大統領は八月に、「査察再開は(イラクによる)国連決議履行のなんらの保障にもならない」とのべています。

 ブッシュ大統領は九月二十日、「国家安全保障戦略」を発表し、その中で、大量破壊兵器の開発や拡散を「米国が直面する最も重大な脅威」と位置づけ、「現れつつある脅威にたいし行動する」とし、先制攻撃を軍事戦略の中心にすえました。

 米国は現在、イラクに対し期限付きの査察受け入れと、拒否した場合に軍事攻撃に踏み切るための新たな国連安保理決議の採択にむけ躍起になっています。これに対し、仏、中国、ロシアなどは戦争回避を前面に押し出しています。

 また、ブッシュ大統領は新たな国連決議なしでも戦争に踏み切る可能性すら語っています。

問題解決の道は

 イラクの査察受け入れ表明を受けて、その具体化のための国連とイラクの協議が三十日からウィーンで行われます。これに沿って査察が疑問の余地なく実施され、同時に、国連憲章と国際法に基づいて平和的に問題を解決することが求められています

 イラクは九八年末の査察中断以降、(1)国連制裁の解除(2)米英の一方的イラク攻撃の回避―を査察受け入れの条件としてきました。無条件査察受け入れは大きな変化です。

 この背景には、アラブ諸国をはじめ世界の多くの国がイラクに査察受け入れを求めたことがあります。

 一方で、米国の対イラク戦争計画に同盟国である欧州諸国からも強い批判が出ています。シュレーダー独首相は連邦議会選挙(二十二日投票)期間中、「欧州の協力、国連を通じてなど、あらゆる手段で防ぐ」と訴え、これが大きな要因の一つとなって、劣勢にあった与党勢力の勝利に導きました。七―九割が戦争に反対というドイツ世論を背景にしたものです。

 米国や英国の宗教者などの間でも反対の声が巻き起こっています。

 米国の先制攻撃計画は国連憲章を侵害する無法行為です。アジア十カ国と欧州連合(EU)十五カ国の協議機関であるアジア欧州会議(ASEM)の首脳会合は「テロリズムとのたたかいは国連憲章の原則と国際法の軌範に基づかなければならない」とくぎをさしました。


イラク査察年表
1990年8・2イラクがクウェートに侵攻
 91年1・17湾岸戦争開始

4・3安保理決議687採択

4・6イラクが同決議受諾

6・9国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)、査察を開始。

9・6UNSCOMのヘリ使用をイラクが妨害
 92年UNSCOM、化学兵器とその生産施設の大規模廃棄を開始
 95年7・1イラク、攻撃的生物兵器開発計画の存在を初めて認める

8・8イラクのカミル元軍事産業相が亡命し、大量破壊兵器情報を暴露。以後、査察方法が厳しくなる
 96年3・19安保理議長がイラクの査察妨害に懸念表明
 97年査察団、大統領関連施設への立ち入りを拒否される

10・29イラク副首相、米国籍をもつ査察官の退去をもとめる手紙を安保理議長に送る
 98年2・20アナン国連事務総長がイラク入り。査察へのイラクの全面協力とひきかえに、スパイ疑惑の解消のため査察に「特別チーム」を同行させると約束

10・31イラク、査察への協力全面拒否

12・16査察官全員がイラクから撤退

12・17〜20米英軍が大規模なイラク攻撃
 99年12・17UNSCOMを引き継ぐ国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)設置
2002年1・29ブッシュ米大統領、イラクを「悪の枢軸」と演説

5・26ブッシュ大統領、「フセイン政権をかえなければならないというのが米国の政策」と発言

9・16イラク政府、大量破壊兵器の無条件査察受け入れを表明

9・17ブッシュ米大統領、改めてフセイン政権打倒を強調

9・20ブッシュ米政権、先制攻撃戦略を基軸にすえた「国家安全保障戦略」を発表

UNSCOMの監視の下で破壊されたイラクの大量破壊兵器

 国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)は98年3月、イラクの隠ぺい工作にもかかわらず、次の兵器の破壊を監視したと発表しました。

 〈ミサイル〉△長距離ミサイル(実戦配備)48基△通常ミサイル弾頭14個△移動式発射機(実戦配備)6基△固定式発射台(同)28台△固定式発射台(建設中)32台△ミサイル用化学兵器搭載弾頭30個△ミサイル支援機器・原料△「スパーガン」用コンポネント

 〈化学兵器分野〉△満杯または空の化学兵器弾薬38537個△化学兵器用薬品690トン△化学物質3000トン以上△製造中の化学兵器426ピース△関連分析装置91ピース

 〈生物兵器分野〉△生物兵器アルハカム製造設備一式△さまざまな生物兵器生産装置と原料

 


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