2002年9月24日(火)「しんぶん赤旗」
肩こり、腰痛、なんとなくだるい…。そんなとき頼りになるのが、マッサージやはり・きゅうです。ちょっとしたブームで、雑誌でも特集が組まれるほど。ところが、この仕事を支えてきた視覚障害者が、苦しい立場に立たされています。
七月。照りつける日差しに耐えながら、国会前で座り込む視覚障害者たちの姿が、行き交う人の目を引きました。
「盲人用郵便無料などの三種、四種郵便を守れ」の要求といっしょに掲げられていたのが、「あん摩はりきゅう法を改正せよ」でした。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(「あはき法」)第一九条は、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が困難とならないよう、視覚障害者以外(晴眼者)のマッサージ指圧師を養成する学校・養成施設の認定や定員増を承認しないことができる、と規定しています。条文では、“あん摩マッサージ師”とありますが、長い間、はり師、きゅう師についても同様の扱いがされていました。
ところが一九九八年、福岡地裁で「法に定めのない理由による専門学校の不指定処分は無効」との判断が示されたことから、はり師、きゅう師の学校・施設の新・増設が相次ぎました。
その結果、現在、はり師、きゅう師ともに視覚障害者の四倍程度いる晴眼者の合格者が、二〇〇四年度には八倍に膨れ上がると予想されます。
全日本視覚障害者協議会総務局長の東郷進さんは、次のように語ります。
「一九条に“はり師、きゅう師”も加えてほしい。一九条は、視覚障害者の就業率が障害者のなかでも最低であることなどを考慮し、優先措置として制定されました。いまでも、視覚障害者の主な就業先はあん摩マッサージ指圧師、はり・きゅう師です。私たちは、晴眼者を排除しようと考えているわけではありません。全就業者に占める視覚障害者の割合は、ピーク時の八割から二割強まで減っています。せめて、この数字を維持したいのです」
「あはき法」一九条の改正を求める請願は、先の国会最終日、参院厚生労働委員会で採択されました。議員立法としての手続きが始まります。
「ここがスタート。法整備までがんばりたい」。東郷さんらは、気持ちを新たにしています。
「障害があっても、職業をもって自立し、きちんと税金を払うようになりたい。あん摩・はり・きゅう業を守ると同時に、職域の拡大が急務です」。そう語るのは、東京・杉並区で治療院を開業している菅井孝雄さん(54)。
「マッサージは、健康をデザインする仕事。生活環境や労働条件を聞き、生活改善も含めて治療しています」という菅井さんは、二十三歳で開業しました。当時は一軒しかなかった医院が、今では駅からの目抜き通りは数軒あります。患者さんが多かった二十年ほど前は、月にのべ百四十人を診ていましたが、現在はその半分です。
一回の治療は一時間で四千五百円。収入は一カ月で約三十万円です。ほかに月八万円の障害年金を受給していますが、自宅と医院の家賃、維持費などを考えると、けっして楽ではありません。
もうひとつ、菅井さんが心配するのが質の低下です。以前は実技と筆記だった試験が、筆記だけになりました。「確かな技術の習得を第一とすべきです」と菅井さんは指摘します。
全国マッサージ問題連絡会事務局長の小日向光夫事務局長は、「あん摩、マッサージの仕事が正当に評価されることが大事」と主張します。
今年四月の診療報酬改定で、診療報酬が大きく引き下げられました。一点十円で評価される診療報酬。マッサージの点数は、四十二点から三十五点に下げられました。
「だから、少しでも多くの患者さんを診ることが求められ、一人にかける時間が短くなってしまう。患者さんに十分な治療ができにくくなっています」と、小日向さんは顔を曇らせます。
「雇用が守られ、安心して働くことができてこそ、いい医療を提供できる。診療報酬の改定を望みます」