2002年9月7日(土)「しんぶん赤旗」
「住基ネット」(住民基本台帳ネットワークシステム)が八月五日に稼働してから一カ月。配布された住民票コード(番号)などをめぐってトラブルが続出。プライバシー漏えいへの国民の不信は強く、中止・見直しを求める声が広がっています。(深山直人記者)
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「知らない人の番号じゃないか。気味悪い」
大阪府守口市の大橋豊光さん(49)は、住民票コードの通知はがきを見て驚きました。
家族四人分の氏名、生年月日、性別と十一ケタ番号のほかに、まったく別の二人分の情報が記載されていたからです。原因は、コンピューターのプログラムミス。市全体で三百六十世帯分のデータが流出しました。
「市役所に電話したら職員が新しい通知はがきを持ってきました。信用できない、番号を取り消してくれといったけど、何の返事もありません。番号で管理されること自体がいやだけど、プライバシーが守られないなら話にもならない。このさいやめてほしい」と大橋さん。
住民票コードをめぐるトラブルは全国各地で続出しました。通知書の受け取りを拒否したり返送する住民も、高知市では五千二百三十七世帯、熊本市では千五百四十九世帯(五日現在)にのぼっています。
住基ネットに参加した市町村のなかに、今でもネットワークに常時接続できない自治体が目立ちます。
総務省は八月五日の運用直前、自治体の庁内LAN(情報通信網)をインターネットで外部と接続しているいくつかの市町村について、不正侵入防止など安全性の確認ができないと判断。外部との接続を遮断するか、庁内LANを使わない時間帯に接続するよう指示しました。
滋賀県守山市もその一つ。情報システム課の担当者は「総務省の基準に従いファイアーウオール(防護障壁)を設けるなど安全対策を講じてきたのに…。四千万円かけて新たにLANを設けることにしましたが、十一月末の完成まで業務が制限される」と訴えます。
総務省では全自治体のシステムについて検査中で、新たに遮断を指示する自治体も出ています。
同省市町村課の担当者は、「自治体の数が多く検査の完了日は分かりません。もっと早くやるべきだったといわれればその通りですが…」。
総務省がセキュリティー(安全性)基準を各自治体に示したのは、わずか稼働二カ月前の六月。それなのに「万全の措置を講じてある」(片山総務相)といって見切り発車したのです。
九九年の住民基本台帳法「改正」で住基ネット導入を決めたさい、小渕首相(当時)は「個人情報保護整備が実施の前提」と答弁していました。
その保護法がつくられないまま、運用を強行しました。各種免許、恩給支給など国や地方の行政機関が住基ネットを利用する事務を現在の三倍にあたる二百六十四事務に拡大する計画。各種の個人情報が一つの番号を介してつながることになります。コンピューターの世界では「絶対に大丈夫はない」のが常識。情報が集まるほど被害が出たら大きくなるため、分散管理するのが基本なのに、まったく逆行しているのです。
日本共産党は、住基ネット導入に反対してきました。
個人情報保護法がないもとでの強行は許されないし、個人情報の漏えいと不当使用の危険性が避けられず、すべての国民に十一ケタの番号をふりあてることへの国民的合意もないからです。
八月末に開かれた全国地方議員代表者会議では、志位和夫委員長が「今からでも中止すべきだ」とあらためて表明。自治体の対応として、東京・狛江市のように、個人情報を守る最大限の措置をとり、漏えいの恐れがあればネットを切断するなど、住民の権利や自由が侵害されないように、知恵と力をつくす必要があるとのべました。
住基ネットには、福島県矢祭町、東京都杉並区、国分寺市が参加していません。「市民選択制」を導入した横浜市では、今月から、県への「非通知」の申し出を受けつけ、申請する市民が相次いでいます。
長野県の田中康夫知事は再選後、「住基ネットはまさに(住民を)管理するもので、システムに多大な疑問をもっている」とのべ、中止・見直しに取り組むと表明。埼玉県羽生市では、人権侵害の恐れがある場合には接続を停止するよう個人情報保護条例の改正を決めました。
名古屋では、市民オンブズマンの呼びかけで、住民票コードを配布した自治体にたいして、個人の権利尊重を定めた憲法一三条などに反するとして「異議」を申し立てる運動が広がっています。
住基ネットが施行されて、これが住民の利便性向上のためではなく、国家が個人の人格まで管理するためのものであることが改めてはっきりしました。ただちに中止・見直しをするべきです。
国民の多くは従っているように見えますが、それは自分の意思を表明する機会がないだけであって、国民の大多数は、番号によって管理されることに強い拒否感を持っており、国民的合意などできていません。
問題は、政治家や自治体の首長に官僚出身者が多いこともあって、この声を無視した政治がおこなわれていることです。
近年、プライバシー保護にたいする関心はますます高くなっており、この問題で政治家の姿勢が鋭く問われます。高まった国民の意識や関心を一過性のものとさせないとりくみが求められます。