2002年9月6日(金)「しんぶん赤旗」
八月二十六日から九月四日まで南アフリカ共和国のヨハネスブルクで開催されていた「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(環境・開発サミット)は、百九十カ国の首脳らが参加、地球環境から経済・社会開発まで多岐にわたるテーマを議論した大規模な国際会議となりました。超大国、米国が自国の狭い利益を前面に押し出し、軍事力頼みの侵略的な世界戦略を強行するもと、人口増や環境悪化に対処しつつ世界の人々の生活向上と平和を国際協調で確保する方途が話し合われました。(ヨハネスブルクで坂口明)
十年前にブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)では、「アジェンダ21」が採択されるなど二十一世紀に向けた世界の「持続可能な開発」のための包括的な目標が合意されました。それ以後、地球温暖化防止京都議定書の採択などの成果がありましたが、合意のほとんどが実行されないまま、地球環境の悪化は進みました。
これを転換し、貧困解消、環境保護の行動を実施する出発点とするのが、今回のサミットの課題でした。世界のほとんどの国が参加したこの会議では、こうした地球規模の課題の緊急性が確認され、採択文書の交渉では、達成年度を明確にした具体的な目標の設定に重点がおかれました。
その結果、サミットでは、安全な飲用水や下水道を利用できない人々の割合を二〇一五年までに半減させるなど衛生や保健などいくつかの分野で期限を切った目標で合意が成立しました。このことは積極的な意味をもつものです。
その一方、日米や産油国などの抵抗で、風力など再生可能エネルギーの推進は割合を増加させることでは合意したものの普及率や達成時期の目標は合意できませんでした。このほか、発展途上国へのODA(政府開発援助)の国民総生産(GNP)0・7%目標達成の問題では目標達成の重要性が強調されるにとどまりました。また大きな問題となった途上国と先進国には「共通しているが差異のある責任がある」との原則を開発問題に拡大する途上国側の要求は先進国の抵抗で見送られています。
閉会総会では、この点での合意の不十分さを指摘し、今後の取り組み強化と、国際的討論の継続を目指すとの発言が相次ぎました。
アナン国連事務総長は四日、「会議に奇跡を期待すべきではない」とし、「サミットで生み出された弾みと公約を維持できれば、会議は重要な貢献となろう」と述べ、「実際の現場で本当の変化が生み出されることを期待している」とのべました。
一九七二年のストックホルム国連環境会議、九二年のリオ・サミット、今回のサミットと、世界の理性と良心の声は、環境への悪影響を省みない従来の大量生産・大量消費を批判し、世界の「持続可能な開発」を目指すとの議題設定でイニシアチブをとってきました。
また九五年開催の社会開発サミット以降、途上国などの貧困克服が世界政治の重点課題の一つとして重視され、二〇〇〇年のミレニアム・サミットで貧困根絶などの目標が合意されてきました。
サミットが採択した実施計画や政治宣言では、持続可能な開発にとって平和や国連の基本原則の擁護、多国間協力が不可欠であることを確認しました。
ブッシュ大統領が欠席し、パウエル国務長官が代理出席した米国は、再生可能エネルギー、地球温暖化問題で抵抗しました。軍事問題で見せている一方的行動主義を色濃く反映したパウエル長官の発言には非政府組織(NGO)だけでなく、政府代表団の間にも抗議の声が広がり、ブッシュ政権への批判の強さが浮き彫りになりました。
この米国に実質的に追随した日本政府の態度も、各国NGOなどから厳しい批判を浴びました。
「サミットまでに京都議定書発効を」との合言葉は実現しませんでした。しかし、中国が会期中に批准を発表し、議定書発効のカギを握るロシアやカナダが近日批准すると表明したことは重要です。ロシアが年内に批准すれば、議定書は来年早々に発効します。カナダの態度表明は、米国の国際的孤立をいっそう決定的にしました。
また、膨大な軍事費と貧困の「共存」という根本問題をサミット前に国連事務次長が指摘し、世界の軍事費を10%削減して貧困克服に回す基金設立を途上国のG77グループ議長がサミットで提起したのは、今後につながる貴重な動きでした。
【ヨハネスブルク4日岡崎衆史】ヨハネスブルク環境・開発サミット最終日の四日、世界と日本の環境NGO(非政府組織)が当地で、サミット結果について声明発表や会見を行いました。環境NGOは、結果の不十分さを厳しく指摘するとともに、持続可能な開発にとっての一定の前進面を積極的に評価しました。
世界自然保護基金(WWF)のジェニファー・モーガン気候変動部長は記者会見で、採択された貧困解消や環境保護を進めるための実施計画について、「大量生産消費社会を変えるものになっていない」と批判。一方で、「サミットは、(地球環境破壊を防ぐための)好機であり、前進するための道筋をつけた」と評価しました。モーガン部長はまた、地球温暖化防止のための京都議定書について、サミット期間中に、カナダやロシアが年内批准を表明したことを歓迎しました。
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)は、声明で、環境が貿易の自由化などに優先するとの確認がなされず、「期待を裏切った」と指摘。他方、実施計画に、京都議定書の批准を未批准国に促す記述が入ったこと、企業責任を強化する国際的枠組みをつくるための可能性が残されたことなどを挙げ、「前進」と評価しました。
「フレンズ・オブ・アース・インターナショナル」は、声明で、持続可能な開発に向けた新たな目標設定が、下水施設の供給など極めてわずかな分野に限られたことについて、「ブッシュ米政権が最大の妨害者だった」と批判しました。
【ヨハネスブルク4日坂口明】環境・開発サミットで四日採択された「持続可能な開発のための世界首脳会議の実施計画」は百四十九項からなる長文の文書です。その要旨は次の通りです。
I章 序文
2項ほか(リオ原則)
十年前の地球サミットで合意された「(先進国と途上国の)共通だが差異ある責任」原則、予防原則を再確認する。
4項(良い統治) 各国内と国際的な良い統治は、持続可能な開発に不可欠である。
5項(平和) 平和、安全、安定、人権尊重、根本的自由は、持続可能な開発の達成に不可欠である。
II章 貧困根絶
6項(世界連帯基金) 途上国の貧困を除去し社会・人間開発を促進する「世界連帯基金」を確立する。
7項(水) 安全な飲用水や下水を利用できない人の比率を二〇一五年までに半減する。
9項(雇用支援) 国際労働機関(ILO)の「職場での基本的原則・権利宣言」を考慮して、所得を創出する雇用機会を拡大する支援をする。
III章 持続不可能な消費・生産パターンの改革
14項(持続可能な生産・消費パターン十カ年計画) 持続可能な消費・生産への移行を加速する十カ年計画の作成を奨励、促進する。
17項(企業責任) 企業の環境と社会への責任を強化する。
19項(再生可能エネルギー) 化石燃料技術と、水力を含めた再生可能エネルギーを含め、より清潔で効率的なエネルギー技術を開発し、エネルギー供給を多様化する。切迫感をもって、再生可能エネルギーの比率を相当増加する。
22項(有害化学物質) 二〇年までに健康や環境に有害な影響を及ぼさないように化学物質が使用、生産されるように管理する。
IV章 経済・社会開発の土台となる天然資源の保護・管理
30項(漁業資源) 緊急に、および可能な場合は一五年までに、枯渇した漁業資源を回復する。
36項(温暖化防止) 京都議定書を批准した諸国は、批准していない国が適切な時期に批准するよう強く要請する。
39項(砂漠化防止) 地球環境基金(GEF)を砂漠化防止に使えるようGEF会合に呼び掛ける。
42項(生物多様性) 一〇年までに生物多様性の損失率の大幅削減を達成する。
V章 グローバル化した世界の持続可能な開発
VI章 保健と持続可能な開発
VII章 島しょ途上国の持続可能な開発
VIII章 アフリカにとっての持続可能な開発/その他の地域的イニシアチブ
IX章 実施手段
79項(政府開発援助=ODA) 国民総生産(GNP)の0・7%を途上国向けODAにあてるとの目標を実施していない先進国に、具体的努力をするよう要請する。
X章 持続可能な開発の機構的枠組み
123項(国連) 持続可能な開発のための国際協力の促進にとって効果的な国連システムは不可欠である。そのためには、国連の理想や国際法の原則への確固とした誓約が不可欠である。