日本共産党

2002年8月22日(木)「しんぶん赤旗」

牛肉偽装

雪印、日本ハム、日本食品…

こうして広がった

農水省幹部 業界に天下り

「他社に後れをとるな」


 農水省の「国産牛肉」買い上げ・焼却事業には国民の税金三百億円余がつぎ込まれています。雪印食品、日本食品、業界トップの日本ハム…。相次いで発覚した食肉業界大手の牛肉偽装はこの税金を食い物にした犯罪です。それがどうして起こり、見逃されたのか。制度の問題点や、偽装に動いた業界の動向から検証してみました。


写真

日本ハム本社の立ち入り調査に入る農水省職員=21日午前9時32分、大阪市中央区南本町

大手だけ救済

 国内初のBSE(牛海綿状脳症)感染牛の確認を契機に、全頭検査が始まったのは昨年十月。その後の同月二十六日、農水省は市場に出回っている検査前の牛肉の買い取り事業の実施を決めました。

 しかし、同制度には大きな問題がありました。

 そのひとつは、救済される対象が、大手メーカーに限られる制度となったこと。同事業は、日本ハムの偽装事件への関与が明るみにでた日本ハム・ソーセージ工業協同組合など六団体を通じて、食肉メーカーへ一キログラム約千八百円から七百円程度の補助金をだすという仕組みです。その買い取り対象は「箱詰めの未開封の牛肉」と限定されました。そのため、もっとも困っていた一般小売店の多くが救済対象からはずされて、日本ハムなど食肉大手企業だけに事実上限定されたのです。昨年十一月の衆院農水委員会で、日本共産党の中林よし子議員は、この問題点をただし、改善を求めましたが、武部勤農水相は応じませんでした。

「証明」骨抜き

 買い上げ対象牛肉のチェックも骨抜きにされました。農水省は当初、国産牛肉の証明書が必要としていた買い取り条件を大後退させました。

 買い取り窓口団体の全国食肉事業協同組合連合会は、事業開始直前の昨年十月二十四日付で会長名の通達を出し、買い取り対象を「証明書を提出できるもの」と明記。その例として「と場の証明書、格付証明書等」などを示していました。ところが、同二十九日付の「実施要綱」ではこれらの買い取り条件の文言がすっぽり削除され、段ボール箱などの「国産」表示だけが根拠の「冷蔵倉庫業者等の発行する『在庫証明』」でいいことになったのです。

 削除の理由について、農水省は業界関係者から“国産証明書を提出できない”と反発があったと説明しています。一連の動きの背景には、業界から自民党農水族議員への働きかけなどがあったと指摘されており、その実態の解明が求められています。

 こうしてラベルの「表示」を偽装するだけで、国の補助金が手にできるようになり、不正な買い上げが可能になったのです。

ずさんな検査

 そのうえ、チェック体制もずさんでした。

 農水省の買い上げ牛肉検査は、当初一部の倉庫を対象に、百箱から三箱ぬきとるというもの。昨年十月二十六日に、偽装を計画した雪印食品本社では「検査は甘い」と見て犯罪をおかしました。全箱検査に踏み切ったのは雪印食品の偽装が発覚したあとのことでした。

 さらに、農水省は当初から、買い上げた数量やメーカー名も非公開にするなど不透明さも際立っています。「同和利権」が指摘された企業や業界団体の買い上げ申請にも疑惑が持たれていますが、その実態は業者名をふくめて公表されていないのです。

 チェック体制の甘さの背景には、買い上げ窓口の業界団体と農水省との癒着があります。検査を受ける側になる日本ハム・ソーセージ工業協同組合などには農水省の幹部が天下っています。こうした癒着の構造が不正の温床にもなってきました。食肉業界、自民党族議員、農水省の三者の癒着が問われています。


同和利権も解明を

 牛肉買い上げ事業で全体の買い取り量の半分近い六千百七十トンを申請しているのが全国食肉事業協同組合連合会(全肉連)。その全肉連のなかでトップが愛知県同和食肉事業協同組合で千二百四十六トンです。次いで、大阪府同和食肉事業協同組合連合会(千百四十五トン)、兵庫県同和食肉事業協同組合(八百九十七トン)の順。トップ3を「同和利権」が指摘される団体が占めています。

 このうち、大阪府同和食肉事業協同組合会長を務めるハンナングループ総帥の浅田満氏については、衆院議員鈴木宗男被告に高級乗用車を提供するなど、親密な関係が明らかになっています。これらのグループの買い上げ分に不正はなかったのか。買い上げ実態の公表など、その解明が求められています。


雪印事件の冒頭陳述

「損しないようにやれ」

 食肉業界が買い上げ事業で偽装工作に走り回った経過を生々しく描いている資料があります。雪印食品の牛肉偽装事件の初公判(七月二十四日、神戸地裁)で明らかになった検察側の冒頭陳述です。

 昨年十月の買い上げ事業実施前に、業界のなかで、偽装牛肉工作が広がっていることを冒頭陳述は指摘しました。

 「十月中旬以降、業者間で、国が全頭検査前にと畜処理された国産牛肉を買い上げる制度の実施を前向きに検討しているとの情報が出回るようになり…不良在庫となっている輸入牛肉を買い上げさせようとたくらんでいる業者がいるなどという噂(うわさ)が広まった」

 その節目となったといえるのが、農水省の方針を伝える、業界団体「日本ハム・ソーセージ工業協同組合」(ハム・ソー組合)による事業説明会でした。

 第一回説明会がひらかれたのは昨年十月二十五日。出席していた雪印食品幹部は「(農水省が)対象牛肉であるかどうかを検査することは事実上不可能であると考え…販売見込みのない輸入牛肉を買い上げさせたい」と考えた、といいます。

 説明会の翌二十六日、雪印食品本社で開かれた常勤取締役会では、説明会に出席した幹部が「対象外の輸入牛肉を混ぜ込もうとする業者もいるという噂が絶えない」と報告。同日午後には、幹部らの間で「営業グループでは輸入牛肉の処理に頭を悩ませている」、「他社営業もやっているなら、うちだけやらないのは損だ」と賛同の声があがり、「検査があるから、ばれるのではないか」との声には「検査は甘いでしょうから」「そうだな」などの会話が交わされました。

 ハム・ソー組合による二回目の説明会は十月三十日。同説明会をうけた後、出席した幹部が、雪印食品本社の専務に「買い取り事業に関する他社の動向」をあらためて報告。雪印食品として輸入牛肉の偽装工作を行う方針であることを伝えました。

 その際、この幹部は「枠を取り合い、安い肉や牛肉を買い上げに入れる動きもあります。当社も他社に後れを取らないよう、いろいろと他社並みにはやろうと思います。そうしないと、立ちゆきません」と報告。専務は黙ってうなずき、「よそも色々やっているようだな。そういうことなら損をしないようにいいようにやってくれ」などと指示したといいます。

 


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