日本共産党

2002年8月20日(火)「しんぶん赤旗」

戦争へ暴走 ブッシュ政権

相次ぐイラク攻撃発言


 イラクを“悪の枢軸”国家と決めつけるブッシュ米政権は、フセイン政権打倒、対イラク戦争も辞さないとの発言をエスカレートさせています。十五日公表の米国防報告はイラクをあらためて非難する一方で、核兵器使用も含めた先制攻撃の必要性を強調、緊迫した事態となっています。しかし、中東、イスラム諸国をはじめ、欧州からもイラク戦争論批判の声が急速に広がり、そのなかで小泉内閣の姿勢が問われています。

イラクは脅威か?
専門家はみな「ノー」

 「メード・イン・アメリカの戦争」―年内であれ来年初頭であれ、イラクに対する米国の戦争が開始されれば、こう特徴づけられることになるでしょう。

 一九九一年の対イラク戦争(湾岸戦争)は、イラクによるクウェート侵略という明白な国際法違反に端を発し、米国主軸で進めた戦争でした。これに対し、いま米国で大議論が展開されている対イラク戦争では、イラクによる周辺諸国への侵略や米本土への攻撃は問題にもなっていません。

攻撃手段ない

 そもそも、イラクがもつ兵器運搬手段は、旧ソ連製の短距離ミサイルだけ。米国を攻撃する手段はありません。アルカイダを含め、対米テロを実行しそうなテロ組織とイラクとの連携も証明されていません。

 七月三十一日と八月一日に開かれたイラク問題での米上院外交委員会公聴会でも、イラクが米国にとって差し迫った脅威かとの問いに、証言したイラク専門家は皆、「ノー」と答えました。

先制攻撃の権利??
通用しない正当化論

 いま米国で議論となっているのはイラクに先制攻撃すべきかどうかです。野党・民主党の主流派が関心を抱いているのも、ブッシュ政権の主張する先制攻撃を認めることが、国民に支持されるかどうかの一点です。

 ワシントン・ポスト紙とABC放送の世論調査では、54%が米単独でのイラク侵攻を支持しています。

 “イラクは化学兵器を自国民に使用し、生物兵器も持ち、核兵器の取得を目指している。これが危険な独裁者の手に握られ、テロ組織の手に渡る可能性があることは米国の安全保障にとって脅威だ。テロ攻撃された米国には、この脅威を未然に防ぐ権利がある”―これが先制攻撃を正当化する議論です。ラムズフェルド国防長官は、これを「先制的自衛」だと合理化しています。

口実を与える

 しかし、対イラク作戦を、「武力攻撃が発生した場合」のみ自衛権行使を認める国連憲章第五一条で正当化することはできません。逆に国連憲章が定める内政不干渉の原則に反した主張であることは、キッシンジャー元国務長官も認めています。米国による核保有が他国による核保有の拡散を招いたように、米国による先制攻撃は他国による先制攻撃に口実を与えることになるでしょう。

 この点では、国際的な批判の広がりのもと、アーミー下院院内総務ら与党・共和党の一部有力議員も先制攻撃への懸念を表明し始めているのが最近の特徴です。

 湾岸戦争の停戦条件を定めた安保理決議は、イラクに対して、誠実に大量破壊兵器廃棄の措置をとるよう求め、国連による査察も求めています。しかし安保理決議はイラクの「政権交代」を求めていません。決議事項を超えた内容をイラクに要求することは、フセイン政権に決議履行拒否の口実を与えるだけです。

 核兵器を含む大量破壊兵器が世界平和の脅威であるのは事実です。しかし、世界最大の大量破壊兵器保有国である米国を抜きに、イラクの大量破壊兵器だけを危険視し、その国の政権を武力で打倒してもよいとの議論は、国際的に通用しません。大量破壊兵器の脅威は、大量破壊兵器の普遍的廃絶で確実に除去できます。

突き進む理由は…
“軍事的成果”求めて

 国際的な批判の強まりにもかかわらず、米国が戦争に突き進もうとしているのは、なぜか。

 要因の一つは、アフガニスタン戦争長期化や同国の政情不安定、イスラエル・パレスチナ紛争の深刻化、核保有国化したインド・パキスタン紛争の悪化などで、「対テロ戦争」がアメリカの思惑通りに進展していないことです。テロの恐怖への強硬姿勢を最大の売り物としてきたブッシュ政権は、新たな軍事的成果を必要としています。

 深刻化する米国の経済矛盾に無力な同政権にとって、戦争熱をあおることが残された数少ない危機「打開」策となりつつあります。

 石油利権と固く結び付いた同政権は、対米テロを最大限に利用できるうちに、世界最大の油田地帯である中東・中央アジア地域で、反米勢力を封じ込める戦略を可能な限り速やかに実現する狙いも持っています。

 国際的な批判の高まりを前にブッシュ大統領らは、同盟国とも協議するとも述べています。しかしそれは、米国の先制攻撃と、事後処理の負担を同盟国に分担させる狙いに結び付いています。


湾岸戦争後のイラクをめぐる動き

1990年8・2 イラクがクウェートに侵攻
8・6 国連がイラクに全面経済制裁
91年1・17 米国中心の多国籍軍がイラクを空爆、湾岸戦争開始
4・3 国連安保理が湾岸戦争停戦決議687採択
92年8・26 米国が、北緯32度以南のイラク領を飛行禁止空域にすると発表。その後、同36度以北にも禁止空域を設定
96年5・8 イラク経済制裁の部分解除で国連とイラク政府合意
98年10・5 米下院がイラクの反政府勢力に武器供与などを認める「イラク解放法」を可決
10・31 イラクが国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の査察への協力全面拒否を表明
12・17 米英軍が大規模なイラク攻撃、「砂漠のキツネ」作戦開始。以後、現在まで米英によるイラク空爆が断続的に繰り返される
2002年1・29 ブッシュ米大統領が一般教書演説で北朝鮮、イランとともにイラクを“悪の枢軸”と規定
3・28 アラブ首脳会議が「イラク攻撃全面拒否」の最終声明を採択
8・15 米国防総省が、イラク攻撃を念頭においた国防報告を議会に提出

 


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