2002年8月14日(水)「しんぶん赤旗」
田中康夫氏が長野県知事に在任していた一年八カ月。「脱ダム」が注目されていますが、ダムにとどまらず、全国に誇るべき実績が生まれています。
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| 不信任された田中康夫氏は知事任期の最後まで約束の車座集会を継続=7月9日、長野県栄村 |
田中知事の就任以来、税金の使い方が、確実に変わり始めました。
長野県の公共事業額は、ピークの九六年度には四千七百八十億円を超え、長野五輪(九七年度)終了後も三千億円台を続けてきました。田中氏は就任二年で、公共事業費をおよそ二千四百億円まで減らしました。
特徴の第一は、公共事業費全体を抑制しながら、中身を生活密着型に転換していることです。知事として本格的に予算を組んだ〇一年度予算では、土木・林務・農政の三公共事業を前年度比93%に抑える一方、社会福祉施設整備費を一挙に二倍以上にし過去最高の六十八億円にしました。
なかでも老人福祉施設の整備費は二・五倍になり施設建設を要望するところすべてに予算をつけました。その結果、特別養護老人ホームだけでも十四カ所が整備されました。盲・ろう・養護学校の整備には二・七倍の予算をつけました。
就任二年目の今年度は、IT不況で電機・機械・精密関連の税収が大きく減り、税収は戦後最悪のおち込み。予算規模は前年度比マイナス2・5%という厳しい財政事情でした。そのなかで公共事業をさらに見直し、福祉、教育、雇用、森林整備に重点的に予算を配分。高齢者・障害者・精神障害者へのサービス拡充は一・四倍にしました。
吉村県政時代、県議会に請願を出しても継続審議にされつづけていた三十人学級は、今年度、知事の決断で、小学校一年生から始まりました。保育所の一歳児の保育士の数を、子ども六人に一人から四人に一人に増員。小規模ケア施設(宅幼老所)への補助新設など、きめこまかい施策が目につきます。
二番目の特徴は、公共事業を見直し、農・林業振興そのものに力を入れていることです。「従来の森林整備は、林道の建設自体が目的化しているきらいがあった。森づくりそのものに転換した」と田中氏はいいます。
ダム建設中止の一方で、〇一年度、森林整備予算を一・四倍にし、間伐実施面積を一・九倍にしました。これによる新たな雇用は、約五百三十人と見込まれます。森林組合以外に、建設業者が間伐に参入できる制度に変え、雇用の受け皿づくりを図っています。
長野県産農作物のブランド化をすすめ、県産木材を利用した住宅への無利子融資、県産材利用の学校の机、いすへの補助制度などを創設。県が中小企業に発注する官公需の契約率(金額)も、吉村時代の九四年度は74%だったのが、〇一年度は82%に増えています。
こうしたなか、田中前知事は、県の借金(県政引き継ぎ時で一兆六千五百三十七億円)を実質的に減らしました。在任二年間で、実質的な借金(普通債)は三百七十一億円減りました。税金の使い方を変えれば、財政再建に踏み出しながら、福祉・教育の充実ができることを示す、真に改革の名にあたいする成果です。
田中康夫前知事は、県民との直接対話を重視し、知事が地域に出向く「車座集会」を、在任二十カ月間に七十回近く開いてきました。
車座集会は、住民要求を県政に届ける力になっています。佐久地方で県道が崩落し、乗用車が川に転落、母子が死亡した事故がありました。当時の吉村午良知事は「予測不可能な天災」と主張し、県の責任を認めませんでした。裁判継続中に知事になった田中氏は、車座集会で遺族からの直訴を受け、すぐに和解に動きました。県は責任を認め賠償金を払ったうえ、田中知事が謝罪しました。「対話に欠ける」「車座集会は単なるパフォーマンス」という田中前知事への非難には根拠がありません。
車座集会のほかにも、県内十ブロックでの「どこでも知事室」、知事室で県民と会う「ようこそ知事室へ」などを開催。情報公開度ランキングでは、吉村県政の四十一位(九九年度)から、一気に全国三位(〇〇年度)にあがっています。
公正な民主主義の立場に立つ田中氏の姿勢を示す例に、地方労働委員会の労働者委員選任問題があります。従来、長野県では五人の委員を連合長野が独占してきました。田中前知事は、今年一月、連合系の独占を崩し、県労連の女性一人を委員に任命しました。
連合長野は前回知事選で、田中氏を支援した唯一の団体。笹森清・連合会長も来県するなど、「支持見直し」で強い圧力をかけましたが、知事は公正を貫きました。
連合長野の委員独占にたいし行政訴訟を起こしてきた松村文夫弁護士(県民オンブズマン会議代表)は、「吉村時代、県側は『労連を排除しているのではなく、偶然の結果』などと繰り返していた。田中知事になって、申し入れで率直に話すと『多方面から意見を聞くのが民主主義』と答えた。ほかの県相手の訴訟でも、吉村時代の官僚的態度とは、まったく変わってきた」といいます。
田中前知事は、公共事業の入札の透明化を図り、入札予定価格の事前公表や予算案段階での工事個所の公表など情報公開も大きくすすめています。従来、道路の補修工事など、大手が受注し、県内業者は下請けに入っていました。それを小規模業者が直接入札に参加できるように変えた結果、入札価格が、予定価格の九割以上から八割へと下がっています。
また、県議の海外視察(日本共産党は不参加)への公費支出に監査請求を行い、一部を返還させました。さらに、この問題に光を当てようとしています。