2002年8月10日(土)「しんぶん赤旗」
「脱ダム」の道を進めるのか、それとも後戻りさせるのかを最大争点とする長野県知事選挙が十五日に告示されます(九月一日投票)。田中康夫前知事をはじめ、立候補者がほぼ出そろい、政策を発表し、それぞれの支援勢力もはっきりするなど、対決構図が浮かびあがっています。(長野県 原 広美記者)
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| 田中氏 | 住民の目線で総合的治水 |
田中氏は、「『脱ダム』宣言」(二〇〇一年二月)で、地球環境問題という視点からダム依存の時代逆行ぶりを指摘。「長期的な視点に立てば、日本の背骨に位置し、数多(あまた)の水源を擁する長野県に於(お)いては出来得る限り、コンクリートのダムを造るべきではない」として、着工段階にない下諏訪ダム計画の中止を表明しました。
その後、長野県治水利水ダム等検討委員会が、一年間にわたる検討をへて「ダムによらない河川改修単独案及びそれに対応する利水案を答申する」という結論を出したのをうけ、田中氏は、浅川ダム、下諏訪ダムの二つのダム中止を明確にしました(六月二十五日)。
これを阻もうとして、県議会内のダム固執勢力は不信任決議強行という暴挙に出ましたが、多くの県民は「ダム問題で、公共事業に初めて私たちの意見が反映された」という実感をもち、世論調査でも県民の75%が田中前県政を評価するという結果(「朝日」八月六日付)が出ています。
田中氏は、知事選に向けた政策(七日発表)でも、「『脱ダム』宣言」にもとづき、流域住民の目線に立った総合的な治水を進めることを明確にしています。そして、「『「脱ダム」債』を新設し、水源林を保護するとともに新たな水源開発の助成制度を確立」、「河川の浚渫(しゅんせつ)やダムの堆積(たいせき)土砂の除去を進めるとともに、自然再生型公共事業を促進」などの具体策をあわせて打ち出しています。
| 他候補 | 2つのダム中止いえず |
田中氏に対抗して知事選に名のりをあげているのは、弁護士の長谷川敬子氏(50)、元産経新聞記者の花岡信昭氏(56)、経営コンサルタントの市川周氏(50)ら五人。いずれも「『脱ダム宣言』の理念はいいが、手法が問題」と田中氏を批判しますが、焦点の浅川ダム、下諏訪ダムの中止は明言しません。
長谷川氏は、八日に発表した政策で、「脱ダム宣言の理念を尊重し、無駄な公共事業は見直す」という一方で、「既存計画のダムについては」「住民や市町村長の意見を聞き…最良の治水・利水対策を実現する」としています。同氏は、旧県政時代に県政の公共事業評価監視委員会の一員として、二つのダムの継続を了承した人物。今も「ダムが必要だということはもちろんありうる」(『週刊朝日』八月九日号)とのべています。
脱ダムネットワークの水本悟事務局長は、「流域住民は、浅川ダムも、下諏訪ダムもいらないとはっきりいっている。理念はいいといっても、道理と民意にそって中止しなければ、ダム推進だ。田中さんでなければ、ダムは造られると感じている」と語っています。
| 長谷川氏 | ダム推進勢力が支える |
長谷川氏は、女性グループの要請をうけて、立候補を決意などと、“市民派”の装いで選挙にのぞもうとしています。しかし、「田中氏が失職した十六日。市長会、町村会、県議会三会派のそれぞれの幹部が集まった席で、長谷川氏を『統一候補』として絞り込んだ」(「朝日」三日付)、「主要三会派 10ブロックで連携 長谷川氏支援態勢作り」(「毎日」四日付)などと報道されており、長谷川氏の動きを実質的に支えているのは、ダム推進勢力です。実際、県議会会派の県政会(自民党と羽田系民主党など)、政信会(自民党など)、県民クラブ(民主党と公明党など)、社会県民連合(社民党)の議員のほとんどが長谷川氏を推し、同氏の立候補表明(長野市)に、自民党の若林正俊参院議員が顔を出しました。
長谷川氏以外の候補は、「田中さんが知事になったら、長野県がめちゃめちゃ、沈没してしまう」(花岡氏)、「ダムが決壊する前に長野県経済が沈没してしまう」(市川氏)などと、激しく田中氏を批判しています。
長野県知事選(九月一日投票)で、前知事の不信任を強行した県議や自民党県連が実質的に支援する長谷川敬子氏(50)が八日、飯田市内で政策発表記者会見を行いました。
十項目の政策には、「雇用対策」のほかに、環境循環型社会づくり、道路の段差解消などによる優しいまちづくり、男女共同参画社会実現などが並びます。
ところが、記者に「優しいまちづくりというのは、そういうことに予算をかけるということか」と質問されると、長谷川氏は「行財政改革を断行せねばならないし、段差解消にどれだけお金がかかるか分からないので、研究した上でないと、そうはお答えしかねる」。公約に掲げながら、必要な予算を確保するかどうか答えられないのでは、「絵に描いたモチ」です。
「環境循環型社会」では、産廃施設設置の「新長野モデル」を掲げますが、内容を問われると、「まだ(具体的内容が)熟した言葉ではない」という答え。裏づけもなく、熟したものでもないものを、政策として出してくるというのは、どういうことでしょうか。県民に対する公約の重大さを自覚していないとしか思えません。(西沢亨子記者)