日本共産党

2002年8月4日(日)「しんぶん赤旗」

どうなってるの?――…

雇用保険制度


 失業率は最悪水準が続き、全国の自殺者が四年連続で三万人を超える事態です。失業などで苦しむ勤労者の姿が浮かび上がっています。セーフティーネット(安全網)の充実が今こそ必要です。そんな折も折、労働者・失業者の命の綱=雇用保険制度の全般的見直しを認める「中間報告」が政府審議会(厚生労働大臣の諮問機関、労働政策審議会雇用保険部会)からでました(七月十九日)。小泉内閣はこの制度をどう変えようとしているのでしょうか。


見直しの中身は

雇用流動化・リストラ促進という小泉「構造改革」路線に沿う内容です。労働者・失業者にとって安全網となるべき雇用保険制度を逆に、雇用不安定化・低賃金化促進の道具に変身させるものです
図

 実は政府は昨年度から、雇用保険制度の「抜本的な再構築」をおこないました。自発的離職か非自発かで失業給付に差別を持ち込んだ改悪でした。こんどの「中間報告」は、それだけでは足りないと、給付・負担の両面から同制度を「全般的に見直す」としました。来年度の「早期に実施に移すことが不可欠」とし、次期通常国会での法改定を求めています。

 その内容は重大です。労使折半の保険料を大幅に引き上げます。現在、労働者月額賃金の1・2%の金額を1・6%程度にするといわれます。年間約六千億円の負担増で、賃金低下に苦しむ労働者、経営悪化に苦しむ中小企業にとって重い負担です。

 給付では、現在、離職前賃金の50%〜80%となっている失業手当給付額を引き下げ、給付期間も短縮します。削減理由は“失業手当が再就職時の賃金より高いとなかなか再就職しない”“支給期間が長いと就職率が低い”などというもの。求職者二人に一人分しか求人がない実態(六月の有効求人倍率は〇・五三倍)や、家族を抱え少しでも良い賃金の職場をと、給付期間切れぎりぎりまで探す失業者の実情を無視した議論です。

 失業という人生最大の危機を支えるはずの雇用保険制度が、これでは逆に低賃金・不安定雇用に失業者を追い込む道具になりかねません。

 「中間報告」はさらに、法改定の必要のないものは今年十月からの実施を督促しています。0・2%の範囲なら厚労相の告示で実施できる保険料値上げです。現在の1・2%を1・4%にします。職安(ハローワーク)窓口の失業認定「厳格化」も十月から実施します。

「財政危機」の原因は

「全般的に見直す」理由の一つは、雇用保険財政の「危機」です。昨年度の改定でも労働者・企業の負担を重く、給付は離職理由で大幅にカットしました。それでもなお「収支均衡に至ら」ないのは政府自身の責任です

 小泉内閣は大企業のリストラや銀行の不良債権最終処理を促進させ、倒産・失業がでるのも「当然」といってきました。現に倒産・失業者増は高水準で推移。そのため失業手当受給者は増大、受給期間も長期化し、雇用保険財政は悪化したのです。

 もともと、失業の増加には政府に重大な責任があるというのが同制度の常識です。旧労働省編集の解説書でも、失業は「政府の経済政策、雇用政策と無縁ではなく、政府もその責任の一端を担うべきである」(『再訂新版雇用保険法―労働法コンメンタール6』)と明確にしていました。

 ところが「中間報告」はこれを変更。「雇用保険制度が本質的には労使の共同連帯による保険制度であるという性格に立ち返」るとし、政府の責任を免罪しています。

 財政「危機」をもたらしたもう一つの原因は、雇用保険財政への政府自身の支出(国庫負担)を長年にわたり低く抑えてきたことです。失業給付の四分の一(元は三分の一。収支が赤字となった場合は今でも三分の一)は国庫で負担する決まりです。しかし、財政悪化から積立金に手を付けだした一九九四年度以降も、政府は国庫負担率を引き下げ続けました。

 「中間報告」はこれには触れないばかりか、「単年度黒字となるような収支構造を目指」すとしています。政府責任を棚あげし、「労使共同」責任で賄うとすれば、最悪の高負担・低給付に改変されることになります。

あるべき姿は

雇用保険制度は労働者の生活と雇用の安定、福祉増進のためにある制度です。この本来の姿にたちかえるべきです

 雇用保険制度のあり方を定めた雇用保険法の「総則」は、大要次のように規定しています。

 「労働者が失業した場合、必要な給付をおこない、労働者の生活と雇用の安定、就職促進など、労働者の福祉の増進を図る」

 諸外国をみれば、小泉内閣のやり方がいかに異常で、反国民的であるかは明白です。

 日本の給付期間は最長でも非自発的離職の三百三十日(十一カ月)ですが、フランスは五年です。イギリスは六カ月ですが、貯蓄が八〇〇〇ポンド(日本円にして約百五十万円)以下の人などには、無期限の所得給付があります。

 ドイツも同じで、受給権のない人などには失業扶助が無期限であります。保険未加入者には給付がない日本とは大違い。しかも、イギリスの所得給付やドイツの失業扶助の財源は全額国庫負担です。これなら失業者は安心して再就職先を探せます。


図

日本の雇用保険制度 2つの柱

 (1)労働者が失業した場合、前職賃金の一定割合を一定期間支給し再就職支援などをおこなう、労働者が対象の失業等給付事業

 (2)失業の予防、教育訓練施設の設置、就職・雇い入れ等の相談・援助などをおこなう、企業などが対象の雇用対策三事業(雇用安定事業、能力開発事業、雇用福祉事業)

 失業等給付事業の財源は労使折半の保険料と国庫負担、三事業財源は事業主負担です。

主要国の失業給付と負担

 〈給付〉〈負担〉
フランス4カ月〜60カ月(5年)保険料
イギリス最大182日(6カ月)
所得給付(無制限)
保険料と国庫
全額国庫
ドイツ6カ月〜32カ月(2年8カ月)
失業扶助(無制限)
保険料と国庫
全額国庫
オランダ3カ月〜4年6カ月保険料
オーストラリア受給資格を満たしている限り支給全額国庫
アメリカ4〜30週使用者側の税

 注)保険料は労使負担。イギリスの「所得給付」は貯蓄が8000ポンド(約150万円)以下の人など。ドイツの「失業扶助」は失業保険受給権のない人など

 


もどる

機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp