日本共産党

2002年8月3日(土)「しんぶん赤旗」

国民を11ケタ番号で管理

5日実施を前に「延期を」「不参加」続出

住基ネットここが問題


 すべての国民に十一ケタの番号をつけて管理する「住民基本台帳ネットワークシステム」(住基ネット)。五日実施に、地方自治体の首長、議会から「延期を」「不参加」の声が相次いでいます。どんな仕組みで、どんな問題があるのか。(深山直人記者)


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住民基本台帳用の端末機=東京・杉並区役所

●どういう仕組み?

 氏名や住所などを記録した住民票をまとめたのが住民基本台帳。その個人情報を市町村と都道府県、国の機関が通信回線で結んでやりとりするのが住基ネットです。九九年、住民基本台帳法「改正」で導入が決まりました。

 使われるのは、氏名や住所、生年月日、性別とその変更情報です。国民一人ひとりに十一ケタの「住民票コード」番号がつけられ、国や自治体はこの番号を本人確認に利用します。この番号は五日以降、自治体から住民に通知されます。来年八月五日以降は、住民票コードを記録した住民基本台帳カードが希望者に交付されます。

 導入目的について政府は「住民サービスの向上」などをあげます。

 しかし、全面実施の来年八月からのサービスは、▽全国どこでも住民票の写しが得られる▽引っ越す場合、役所の窓口へ行くのは転入時の一回だけですむ、といった程度です。

 現在でも住民票は全国どこにいても郵送で受け取れます。住民の要望が高いとは考えられません。

●個人情報がもれる

 二日、住基ネット不参加を表明した東京都国分寺市。

 転出届を出しにきた主婦(43)は「届け出が一回ですめば楽だけど、引っ越し先の住所なんかを知られるほうがイヤです。ここの市長さんは反対してるけれど、引っ越し先はそうじゃないから不安です」。

 小口進一市民課長は、「市民から百件以上の電話やメールが来ていますが、がんばれという激励ばかり。市独自の個人情報保護条例があるし、プライバシーをまもれないなら自治体としての責任が果たせません」と語ります。

 政府は、使用する個人情報は限定されており、情報漏えいには厳しい罰則を科している、不正侵入を防ぐために専用回線を使っている、などと安全性を強調しています。

 しかし、コンピューターの世界では「絶対安全」はありえないのが常識です。全国数万人にのぼる住基ネット担当者のなかにたった一人でも「悪い人」がいれば情報漏えいを防げません。

 住基ネットでは、情報漏えいにつながる危険性の高いデータベース化など、「目的外利用」には罰則もありません。専用回線といっても、一般の通信回線と使用方法が違うだけです。

 そもそも情報漏えいの危険性が高いため、住基法「改正」のさい、個人情報保護法の整備が住基ネット実施の「前提」だと小渕首相(当時)も答弁しました。ところが個人情報保護法は整備されず、実施の前提が崩れています。

●国民総背番号制へ

 国による国民監視が強まるとの不安にたいし、政府は「国民を管理する仕組みになっていない」と説明します。

 しかし、住基ネットが始まる前に、国の利用事務を恩給・共済年金の支給、建設業許可など現在の九十三から、旅券発給や婚姻届など二百六十四に広げる法案(継続審議)を出してきました。

 住民基本台帳法「改正」のさい、国会は「安易な拡大を図らない」と付帯決議しましたが、これに反するものです。

 来年八月からは希望者に「住基カード」が交付されます。これには市町村が図書館の利用や印鑑登録など独自のサービスを付加できます。政府は、納税者番号にも利用できないかと考えています。

 収入や財産、思想信条から病歴、犯歴まで個人情報がまるごと集められることになります。情報が集まれば集まるほど、漏えいしたときの被害は大きくなります。

 さまざまな個人情報が住民票コードを介してつながることになります。国民一人ひとりの個人情報が中央の情報センターで一元的に把握でき、国民監視の道具として使えることになるのです。

 日本ペンクラブ(梅原猛会長)は、「国民総背番号制につながるプライバシー侵害や市民生活のじゅうりん等、容認しがたい」として住基ネットに反対しています。


ネット不参加は適法

国民共通番号制に反対する会事務局長、弁護士 清水勉さん

 政府は、施行日が決まっているから、市区町村が参加しないと違法になると説明しています。

 しかし、住民基本台帳法で、個人情報保護に万全を期するため「速やかに所要の措置を講ずる」とされていながら、個人情報保護法さえ作られていないもとで、住基ネットに参加しないのは適法です。保護法の整備を怠ったまま実施を強行する国の方こそ、重大な違法をおかしているといわなければなりません。

 住基ネットの管理主体は市町村ですから、総務省の指示か、住民の個人情報保護か、各市町村の決断が問われています。住民のほうも不参加などを市町村に働きかけ、これを支えていくことが求められています。

四六時中、監視される

ジャーナリスト 斎藤貴男さん

 いちばん問題なのは、個人番号の導入で政府によって国民一人ひとりが管理される世の中になりかねないことです。呼び方で表現されるのが人間関係です。行政が人間を番号として扱う、それだけでも近い将来の両者の関係が見えるようですね。

 政府は住基ネット開始前から、利用できる国の事務を九十三種類から二百六十四種類に増やす法案を出してきました。

 どんどん範囲を広げていったら、誰が今どこにいて何をしているのかまですべて、四六時中監視されてしまいます。「悪いことをしなければ大丈夫」と思っても無理。現実に何が悪いかを判断するのは行政です。

 こんなシステムは、人間が人間にたいして絶対につくってはいけません。

 


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