日本共産党

2002年7月28日(日)「しんぶん赤旗」

「野蛮な犯罪」と国内外から非難

イスラエルのガザ空爆


 イスラエル軍が七月二十二日深夜、一般市民が住むアパートの密集地に一トン爆弾を投下しました。乳飲み子を含めて百八十人以上を死傷させた惨劇は、和平協議に背を向け、いまや武力行使しか考えないイスラエルのシャロン政権の本質をさらけだしました。シャロン政権とこれを支えてきた米国にたいして、国際社会がどのような態度をとるのかが問われています。(小泉大介、伴安弘記者)

死傷者は180人以上も

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 「寝ている間や病院に運ばれている間に十五人が死にました」「われわれが現場に着いたとき、赤ん坊や年端のいかない子ども数人がすでにこと切れていました」。パレスチナ赤新月社(赤十字)救急隊員のカリムさんはいいます。

 「負傷者があまりに多いので、よその町の救急車を呼んだのですが、道路をふさいでいるイスラエル軍が通そうとしない。仕方なくタクシーをかき集め、そこに負傷者を入れたんです。コメの袋を積むように押し込まざるを得なくて…。みんな(負傷者)が叫び声をあげていたから。ほかにしようがなかったんです。まったくひどいものだった」

作戦は大成功首相は自画自賛

 爆撃を受けたのは、世界で最も人口密度が高い地域の一つであるガザ市のなかでもとりわけ人口が多く、最も貧しい地域といわれるブレイジ地区。米製F16戦闘爆撃機が投下した強力一トン爆弾は、パレスチナ過激派組織ハマスの指導者シャハダ氏の住むアパートを含め、少なくとも十二の建物に損害を与えました。幼児三人の遺体ががれきの下から発見されたのは、二十四日になってからでした。

 「テロリスト」殺害を口実に爆撃の許可を下したシャロン首相は当初「作戦は大成功だった」と自画自賛しました。ところが世界の非難の高まりに、一転、「ハマスの指導者と一緒にほかの人たちがいることを知っていたら、軍は別の方法を探しただろう」と責任回避をはかろうとしています。しかし、イスラエルのテレビは爆撃前に空から撮った写真を紹介し、これを「よく見れば(標的の)アパートのそばのあばら家に一般市民がいるのが分かる」とし、同首相が民間人を巻き込むことを承知の上で爆撃許可を下したことを明らかにしています。

ICC条約で訴追の対象

 二十四日開かれたガザ爆撃にかんする国連安保理の緊急協議では、英仏米を含む主要国からイスラエルへの非難が噴出しました。パレスチナ代表は「戦争犯罪だ」と糾弾し、国際刑事裁判所(ICC)による捜査を主張しました。イスラエルがICC設立条約を批准していないなど、現状ではICCへの訴追は困難ですが、民間人の殺りくはICC条約で訴追の対象となる戦争犯罪です。

 アラブ諸国は「野蛮な侵略行為」「戦争犯罪」「人道に対する犯罪」などと糾弾。アナン国連事務総長は「イスラエルには無実の人びとの生命を奪うことを回避する可能なあらゆる手段をとる法的、道徳的責任がある」と非難しました。

 イスラエル国内でも、連立与党・労働党を含め非難の声が上がり、シャロン政権の孤立化と政権内の亀裂が生じています。

 野党メレツのサリド党首は「テロの一形態だ」と非難。人権擁護組織のビトセレムは「テロ組織の手段を意図的に用いた」と糾弾しました。


ガザ地区

 ガザ地区はエジプトと国境を接した地中海に面した長さ四十六キロ、幅六―十キロの地域。百二十万人が住み、人口密度は世界一。ガザ市はその北部にあります。

 ガザ地区にはユダヤ人入植地が十九あり、そのための専用道路でパレスチナ人居住地区が分断されています。パレスチナ自治区中最も貧しく、食料の80%を国連難民救済機関の支給に頼っています。


パレスチナの停戦努力を台無しにするイスラエル

 「イスラエルによるガザ空爆の前にパレスチナ側による停戦努力が進んでいた」

 米紙ニューヨーク・タイムズ二十五日付は、イスラエル軍がガザ地区を空爆する前に、アラファト・パレスチナ自治政府議長率いるファタハの関連軍事部門タンジムがテロ放棄を宣言する準備を進めていたこと、今回の空爆で幹部を殺害されたパレスチナ過激派組織ハマスも、パレスチナ自治政府との間でテロ放棄の条件に関する話し合いをしていたことを明らかにしました。

自爆テロ停止検討

 このパレスチナ側の動きを裏付けるように、ガザ空爆の数時間前には、ハマス最高指導者のヤシン師が、イスラエル軍のヨルダン川西岸からの撤退を条件に自爆テロの停止を検討していると表明していました。

 今回の攻撃で「シャロン首相がパレスチナ側による暴力停止への努力の意図的な破壊を狙った」(ムバラク・エジプト大統領)ことは明らかです。

 さらに、停戦をめぐる動きは、イスラエル、パレスチナ間でも水面下ですすんでいました。十九日には、双方の当局者が、欧州連合(EU)やアラブ諸国を通じ、段階的な停戦とイスラエル軍のパレスチナ自治区撤退を協議していることを明らかにしました。EUのソラナ共通外交・安全保障上級代表が、ガザ空爆を「これはイスラエルとパレスチナが暴力の抑止への真剣な努力をおこなうただなかでの法の枠を超えた殺人行為」と強く非難したのは、これが停戦への努力を台無しにしかねない行為だからです。

武力一辺倒の姿勢

 シャロン首相の態度は、「テロとのたたかい」を口実に、パレスチナ人の命などおかまいなしで、自治政府破壊と占領継続のために武力行使しか考えていない姿を鮮明にしています。

 イスラエル軍による攻撃のエスカレーションの背後にある米国の存在も無視できません。今回のガザ空爆でイスラエル軍が使用したF16機を含め、イスラエル軍の装備はほとんどが米国からの援助によるものです。

 米政権は、今回は「自衛の範囲を逸脱した攻撃」とのべざるを得ませんでした。しかし、二十四日夜の国連安保理緊急協議で、アラブ諸国がガザ攻撃を非難し、暴力が深刻化した二〇〇〇年九月以前の位置までイスラエル軍の撤退を要求する決議案を提案しましたが、米国はこの決議に反対する意向を明らかにしています。

 


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