2002年7月17日(水)「しんぶん赤旗」
中央教育審議会(鳥居泰彦会長)の基本問題部会は十六日、都内で会合を開き、教育基本法の見直しの骨子を示しました。教育の基本理念を見直し、教育の目的(第一条)に、(1)国際性(国際社会の形成者としての意識)と、日本人としてのアイデンティティー(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)(2)個人の能力の伸長、創造性のかん養(3)社会の形成に主体的にかかわる「公」の意識、自律心、規範意識――などを入れる方向を打ち出しました。
教員の使命感や責務をより明確にし、研修の重要性を盛り込む方向です。宗教教育については今後さらに検討することにしています。
「教育基本法に規定された教育理念を実現する手段として」、教育振興基本計画策定の根拠となる規定を教育基本法に盛り込む方針で、この日の部会では、教育振興基本計画についても骨子を示しました。
基本計画では、才能教育を行う学校、入学などの弾力的取り扱い、弾力化により生じる格差への対応、道徳教育や伝統文化に関する教育、奉仕活動の推進――などを掲げています。
今秋に中間まとめをだした上で、専門家や教育団体の聞き取りをし、十二月までには、最終答申をだしたいとしています。文部科学省の小野元之事務次官は「基本法に振興基本計画の根拠条項を置き、基本法を改正したのちに、振興計画の閣議決定を得たい」という見通しを示しました。
現行教育基本法は教育の目的として「平和的な国家及び社会の形成者の育成」と規定しています。にもかかわらず、中教審基本問題部会があえて「社会の形成に主体的に関わる『公』の意識」を強調するのはなぜでしょうか。
「『公』の意識」「伝統の尊重、郷土や国を愛する心」などを教育基本法に盛り込むことは、かねてから、「新しい教育基本法を求める会」(西沢潤一会長)などが求めてきたことです。
同会は、森喜朗首相(当時)に「新しい教育基本法を求める要望書」(二〇〇〇年九月)を提出し、「伝統の尊重と愛国心の育成」を盛り込むよう求めています。そのなかで、伝統とは「皇室を国民統合の中心とする社会基盤」としています。また、歴史の教科書について「祖先を侮辱するような記述」と攻撃しています。
歴史教科書の書き換えを通じて、日本の侵略戦争を肯定するグループと中心メンバーは同じ顔ぶれです。日本の軍国主義を肯定する立場から「愛国心」の強調を教育に求めているのです。
同要望書の起草者は「憲法を変えるのは大変な仕事。それに比べ教育基本法は簡単に変えられる。まず基本法」とも語っています。
中教審基本問題部会は教育基本法を「憲法の枠内で見直す」としていますが、「伝統」や「愛国心」を盛り込むことは、改憲のステップとしての教育基本法の見直しにつながるものです。
こうした復古的な潮流とともに見逃せないのは、財界などが求めている、国民の「上から」の統合です。
現在、政府がすすめる「教育改革」は、「規制緩和」「自由化」などといって、国民の中に一握りの成功者とそれ以外の人たちとの格差を広げています。そのことで生まれる国民の間の分断を締めなおし、統合していくために、「公」の意識、愛国心、伝統などを求めているのです。(西沢亨子記者)