日本共産党

2002年7月7日(日)「しんぶん赤旗」

結婚式場まで爆撃―――

米のアフガン戦争 9カ月


 村人たちの祝福のうたげ、結婚式場を爆撃する―。驚くべき暴挙は、人の命を奪うことを何とも思わない米軍のアフガニスタン戦争の実態を明らかにしました。昨年十月七日の開始以来九カ月を迎えたこの戦争は、いったい誰のための、何のための戦争なのか。  (ニューデリー・竹下岳、外信部・小泉大介記者)


住民の命お構いなし

図

 「音楽を聴いていたら突然、大爆音が起こった。次に目が覚めたとき、私はベッドに横たわっていた」(十八歳の女性)、「中庭のプールは血でいっぱいになっていた」(八歳の少年)、「私の目の前で、鉄の破片が女性の首を切り裂いた」(十四歳の少女)…。

 一日未明、アフガニスタン中部ウルズガン州のカクラカイ村で住民が結婚式のうたげを楽しんでいる最中、米軍のB52爆撃機が突如、空爆を行いました。米・アフガン合同調査団が六日発表したところによると、四十八人が死亡、百十七人が負傷しました。

 米軍は昨年十月、米国での同時多発テロ事件への報復としてアフガニスタンへの空爆を開始しました。十一月にはタリバン政権が崩壊し、十二月にはアルカイダ最後の主要拠点トラボラも制圧しました。

7千人余の兵力「戦争」を継続

 それでも米国は連合国と合わせ七千人を超える兵力をアフガン国内に維持し、空爆や地上戦など「対テロ戦争」を継続しています。

 その過程で数多くの住民が犠牲になりました。一度に数十人の住民が殺害された事件は、今回が初めてではありません。昨年十月以後、四千人以上の住民が殺されたという調査結果もあります。

 また、南部を中心に数千家族が米軍の空爆で生活基盤を失い、難民生活を強いられています。これら住民は何の補償も受け取っていません。

 記者(竹下)はこれまで、昨年十月の空爆で百人が犠牲になった東部ナンガハル州のコラム村、十二月に七十五人が犠牲になった同州トラボラ地区、五十人が犠牲になったパクティア州ニアジカラ村などを訪れました。

 「八方に飛び散った肉片をかき集めて身元確認をした」「逃げ惑う住民を追いかけて攻撃してきた」など、生々しい証言を得ました。

 “誤爆”を受けたこれらの地域には共通項があります。いずれもタリバンやアルカイダの拠点が存在していたことです。今回の“誤爆”が発生した地域はタリバンの最高指導者、オマル師の生まれ育った村の近くで、タリバン残党が出入りしていたといわれています。

 しかし空爆があった時点で、すでに「タリバンもアルカイダも存在しなかった」と住民が主張するのも共通項です。

数多くの住民巻き添えに

 米軍はこれまで、多数のアルカイダとタリバンの残党を殺害・拘束したと主張していますが、住民を巻き添えにするだけで、最重要人物ウサマ・ビンラディン、タリバン主要幹部の捕そくに成功していません。結局、“誤爆”は技術的な問題ではなく、精度の低い情報に頼って、住民の命などお構いなしに爆弾を投下することで発生しているとみられています。

 加えて、ウルズガン州での“誤爆”で米軍は「対空砲火に反撃した」と主張していますが、住民は「ライフル銃で祝砲を放っただけだ」と反論。米軍は五月にも東部ホスト州で結婚式の祝砲を対空砲火と間違えて誤爆し、十人を殺害しました。短期間に同じ過ちを繰り返していることから、米軍の著しい人命軽視ぶりがうかがえます。

 アフガンは一九七〇年代まで封建制が続き、その後は侵略と内戦、タリバン支配を経たため国民は民主主義的経験を持っていません。そのためか、空爆の被害者たちは金銭的補償を要求するだけでした。

 しかし四日、限られた市民とはいえ、初めて米軍の“誤爆”に抗議するデモ行進が開かれました。今回の誤爆事件は、新政権発足後も横暴を続ける米軍への国民的批判が高まる大きな転機となる可能性を秘めています。

国民に広がる反米感情

 「いままで米国人が私たちを解放してくれたと考えていたが、この事件が起きたいま、米国が占領者になる日も近い」(カブールの雑貨商、ジャバルさん)。「このような事件が続くなら、アフガン人は米国の本当の敵対者になるだろう」(学生のハキムさん)

 米軍が一日、アフガン中部ウルズガン州の結婚式会場を“誤爆”したことをうけ、現地からの報道は、アフガン国民のなかで急速に広がる反米感情を日々伝えています。

「米軍いらない」市民200人がデモ

 四日には首都カブールで市民ら約二百人が「米軍は無実の人たちを殺した」などと書いたプラカードを掲げ米大使館近くまでデモ行進を行いました。参加者からは「米軍はもういらない。国連は米国に圧力をかけて空爆をやめさせるべきだ」の声も聴かれたといいます。

 度重なる米軍の“誤爆”への住民の怒りが高まるなか、これまで米国に対する批判を控えてきたアフガン政権のカルザイ大統領も米軍司令官を執務室に呼び、爆撃に関する説明と、「市民の犠牲を回避するためのあらゆる手段」を講じるよう米軍に要求しました。これは、アフガン新政権成立の経過からいえば一つの大きな変化といえます。

 米軍の「対テロ」戦争でタリバン支配が崩壊し、アフガン暫定行政機構が誕生したのは昨年の十二月でした。カルザイ氏が暫定行政機構の議長に就任するにあたり、米国が強烈な後押しを行ったことは周知の事実です。カルザイ氏は、アフガニスタンで天然ガスパイプライン建設を計画する米国の石油会社ユノカルの顧問をつとめた経歴を持っていました。

親米政権への反発の声も

 今年六月にはロヤ・ジルガ(国民大会議)でカルザイ大統領が選出されましたが、同会議にはカブール駐在のカリルザド米国特使が終始張り付き、「米政権が決定的な役割を演じたのは公然の秘密」(米ボストン・グローブ紙六月二十八日付)と指摘される状況でした。同紙が「カルザイ氏は組閣にあたり、米軍の軍事作戦に支障をきたさないよう注意を払った」とまで書くほど、カルザイ大統領と米国とは深い関係で、アフガニスタンの軍閥からは「カルザイ氏は米国の傀儡(かいらい)」との声まで出ていました。

 今回の事態に関し、パキスタンのジャーナリストで『タリバン』の著書もあるラシッド氏はロイター通信に対し、「カルザイ政権は、高まる反米感情、とくにアフガン南部と東部に住む誇り高いパシュトゥン人の感情に対処しなければならない。それは米国に対する強硬路線を強いるだろう」と述べています。

 一日の爆撃の犠牲者の家族からは、空爆の実態調査はもちろん、「カルザイ大統領自身が調査されなければならない」との声まででており、国民の反発は、カルザイ政権にも及んでいます。

対イラク戦争にらむ

 「来年も戦争の年だ」とブッシュ米大統領が語ったのは昨年の十二月のこと。「対テロ戦争は始まったばかりだ」といったのは、今年一月末の米大統領一般教書でです。同教書では、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけ、これらの国々への軍事攻撃も辞さない姿勢を宣言したのでした。今回の事態は、この戦争政策が、文字通り実施されていることを世界に知らせました。

 昨年十月、米国がアフガニスタンへの戦争を始めた理由は、9・11同時テロの犯人とされるウサマ・ビンラディンとその組織アルカイダを捕らえるためでした。しかし、今年になるとブッシュ大統領自身が、「ビンラディンは作戦の焦点ではない」といい始めました。

 “誤爆”にアフガニスタン国民の間から抗議の声が上がるなか、在アフガニスタン米軍報道官のキング大佐は五日、この地域での「作戦は続行する。作戦の詳細は明らかにできない」とのべました。戦争続行の理由は、タリバンらがまだいるから。ビンラディンは焦点ではなくなったが、対テロは依然として課題だ、というわけです。

米軍駐留の恒久化の兆候

 アフガニスタンでは、戦争が続いているだけでなく、米軍駐留の恒久化、軍事拠点化の兆候があるといわれます。その裏にあるのは、「悪の枢軸」という敵を設定し、「対テロ」を口実に世界的な規模での軍事支配と戦争の政策を繰り広げるブッシュ戦略です。

 石油資源豊富な中央アジアへの影響力拡大を狙うブッシュ政権は、アフガニスタン戦争のなかで、タジキスタン、ウズベキスタン、グルジアなどへの米軍駐留を既成事実化し、共同作戦体制をつくりあげてきました。アフガニスタンはパキスタンとともに、この中央アジアから中東にかけての米国の軍事ネットワークを確立してゆく上での重要なポイントであり、そのアフガニスタンでの戦争をやめない理由の一つはここにあります。

 また、重大なのは、この戦争の延長上にあるのが、「悪の枢軸」の中でも米国がとくに「地政学的脅威」とみなし、「先制攻撃」の必要も主張するイラクにたいする戦争の構想だということです。五日のニューヨーク・タイムズは、米国防総省が詳細な対イラク戦争の計画を立てていることを明らかにしました。

対イラク作戦の“基礎となる”

 ある軍事専門家はこう分析します。「米軍が、イラクをにらんでアフガン戦争を続けているのは明らかです。洋上を中心にいまあの地域には大部隊が配備され作戦を続けていますが、それが対イラク作戦の基礎になるのです。戦闘態勢を維持しつづけていることに意味があります」

 対テロのための軍事作戦という設定は、大量破壊兵器問題とともに、対イラク戦争を合理化する政治的狙いとも重なっています。

対米協力続ける小泉政権

 重大なのは、こうした危険なブッシュ戦略には親密な同盟国のイギリスさえ慎重な姿勢を見せ始めているなかで、日本の小泉政権が、政治的、軍事的にひたすら協力態勢をとりつづけていることです。先の専門家は「日本の自衛艦がインド洋で米艦への補給作戦を行っていますが、その米軍がそのまま対イラク戦争を開始した場合、自衛艦はそのまま協力を続けるのは当然ということになるでしょう」と指摘しています。


米軍の爆撃による住民の被害

暫定政権発足(2001年12月22日)前後 からの米軍による住民の主な被害
01年12月20日パクティア州で暫定政権の就任式に向かう車列が爆撃を受け、50人以上が死亡

12月25日パクティア州ニアジカラで米軍が空爆、40人以上が死亡
02年1月24日南部カンダハル州の北方の村を米軍が急襲、村人15人が犠牲に。
ラムズフェルド米国防長官は誤りを認める
3月7日パクティア州バルマルで車両2台を爆撃し、16人が死亡
3月12日東部パクティア州のシキン周辺で米軍戦闘機が車両1台を攻撃、
女性と子どもを含む14人が死亡し、子ども1人が負傷
5月6日東部クナール州で米軍機が空爆し、少なくとも村人30人が負傷
5月16日米軍機がホースト州サバリで空爆、少なくとも村人10人が死亡。
結婚式で伝統的な祝砲を撃ったのを敵の攻撃と勘違いしたとされる

 


もどる

機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp