2002年7月6日(土)「しんぶん赤旗」
長野県で田中康夫知事が誕生して一年八カ月余。県議会の県政会(自民党、羽田系民主党)、政信会(自民党系)、県民クラブ(民主党、公明党など)は日本共産党県議団(石坂千穂団長、五人)と多くの県民の反対の声を押し切って知事不信任決議を可決しました。口実は「県政の停滞と混乱を招いた」。一体どんな経過があったのか―。(東海北陸信越総局 長谷川守攻記者)
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田中知事は、「ムダな公共事業の見直し」などを公約に一昨年十月に十一万票の差をつけ、副知事だった池田候補を破って当選しました。
それまでの県政は「土建行政」といわれるほど大型公共事業に予算をつぎ込み、県は一兆六千億円の負債をかかえるほどになっていました。県民は、ムダな大型公共事業よりくらし・福祉・教育への施策を強く望んでいたのです。
田中知事は現場主義を唱え、十一月に浅川ダム予定地を視察し「一時中止」を表明しました。続いて同月、大仏ダム中止を国土交通省に報告しました。日本共産党は十二月議会でダム中止を妥当と表明し、知事提案の補正予算は全会一致で可決しました。
年明けの二月議会の直前、田中知事は「脱ダム宣言」を発表しました。「コンクリートのダムは看過し得ぬ負荷を地球環境へと与えてしまう」「百年、二百年先のわれわれの子孫に残す資産としての河川・湖沼の価値を重視したい」と宣言したのです。
そして予算措置が迫られていた下諏訪ダムの中止を表明しました。直後の議会では、「宣言」についてダム推進派議員が集中攻撃、日本共産党は歓迎をしました。三会派はその後、知事の手を抑えようと「治水・利水ダム等検討委員会」条例をつくり六月に発足させました。
その「検討委員会」は徹底した公開と住民参加で、一年足らずの間に、十四回の委員会、二十六回の部会、四回の公聴会を開催、今年六月七日に「その意見を総合し、多数を優先して」ダムによらない治水・利水対策、いわゆる「ダムなし」答申をしたのです。どの県民世論も、六〜八割台が答申の結論を「妥当」と歓迎しています。
答申直後の六月議会で、知事は一般質問の冒頭に立った日本共産党の丸山茂県議の質問に「浅川・下諏訪両ダムは中止」「脱ダム宣言で示した私たちの歩むべき道を後戻りさせることはできない」と答弁しました。
選挙で大型公共事業の見直しを公約して当選した田中知事が、その県民との約束を具体的に推し進めてきたのは、「公約の実行」をなによりも尊重しようとする知事の基本姿勢として当然のことです。
不信任決議は結局、「脱ダム」の流れとそれを支持する県民への挑戦以外のなにものでもありません。
| 田中県政の1年8カ月 | ||
| 〔2000年〕 | ||
| 10・ | 15 | 田中康夫氏が知事選で48%獲得し当選 |
| 26 | 就任。初登庁で県幹部による名刺折り事件 | |
| 11・ | 3 | 知事選に立った元副知事陣営で県土木技監が公選法違反容疑で逮捕 |
| 22 | 浅川ダムを視察、一時中止を表明 | |
| 24 | 大仏ダム中止を国土交通省に報告 | |
| 12・ | 7 | 知事室を1階ガラス張りの部屋に移す |
| 13 | 12月県議会で日本共産党がダム中止は妥当と表明 | |
| 20 | 知事提案の補正予算が全会一致で可決 | |
| 〔2001年〕 | ||
| 2・ | 20 | 「脱ダム宣言」を発表し下諏訪ダムを中止、他の6ダムも原則中止へ |
| 22 | 2月県議会開会、旧与党3会派は同「宣言」を攻撃 | |
| 3・ | 5 | 日本共産党は一般質問で同「宣言」歓迎を表明 |
| 7 | 光家土木部長を出向元の国に帰す | |
| 19 | 旧与党3会派が「脱ダム」再考のための県治水・利水ダム等検討委員会条例を可決 | |
| 5・ | 15 | 「脱記者クラブ宣言」を発表。知事会見が県主催となり「しんぶん赤旗」はじめクラブ加盟社以外も参加自由に |
| 16 | 「どこでも知事室」開始 | |
| 6・ | 16 | 国の「戸草ダム」から県が利水事業撤退 |
| 25 | 県治水・利水ダム等検討委員会が発足 | |
| 9・ | 17 | 「県政改革ビジョン」案を発表、ディテールからの変革を掲げる |
| 〔2002年〕 | ||
| 1・ | 4 | 30人学級を4月から開始と表明 |
| 15 | 地労委の労働者委員に県労連の工藤きみ子さんを選任 | |
| 2・ | 20 | 「脱ダム宣言」1周年で「脱ダムネット」が6万5000人の賛同署名を提出 |
| 3・ | 18 | 知事不信任決議できず問責決議案を共産党以外の賛成で可決 |
| 4・ | 18 | 有事法制に反対を会見で表明 |
| 5・ | 20 | 県公安委員に松本サリン事件の被害者・河野義行さんを提案(6月議会で承認) |
| 6・ | 7 | 治水・利水ダム等検討委員会が「ダムなし」答申 |
| 25 | 浅川、下諏訪の両ダム中止を議会で表明 | |
| 7・ | 5 | 補正予算ほか知事提案の議案は可決。知事不信任案を県政会、政信会、県民クラブが可決。共産党は反対、社県連は欠席 |
知事が県民との公約を守り、実行のために努力しているのに、議会がそれを気に入らないと不信任を突きつけるということは、言語道断の暴挙です。日本共産党県議団は断固反対しました。
ダム問題は、どの時期に、どのマスコミがおこなった世論調査でも、圧倒的多数の流域住民が“ダムはいらない”と答えています。自らの公共事業見直しの公約と県民の負託にこたえて、田中知事が「ダム中止」をしたのは当然です。
ゼネコンの利益に奉仕して、あくまでダム建設に固執することは、時代にも、県民の願いにも逆行するものといわなければなりません。
日本共産党県議団は、田中知事への不信任決議強行を、県民の利益にそむき県民に挑戦する暴挙として厳しく批判するとともに、今後のあらゆる事態にそなえて、広がった良識ある県民との共同を大事に、「県民のための県政」に全力を尽くすものです。
浅川ダム建設阻止協議会会長で、県治水・利水ダム等検討委員会「浅川部会」の特別委員も務めた山岸堅磐さんの話
県民の選んだ知事が何一つ悪いことをせず、公約を守って県民益のために頑張ってきたのに、不信任とは絶対に許せない、怒りでいっぱいです。
浅川ダムは、非常に危険な地盤の上に造ろうとしています。さらに造っても洪水を防げないことがはっきりしています。日本一危険で、日本一ムダなのです。知事はこのことを知っていたからとめたのです。
こんなダムになぜこだわるのか。ゼネコン益か県民益かだといった方がいましたが、まさにその通り。不信任はわれわれ県民に挑戦するものです。
議会解散になれば二度と不信任決議を出させないよう絶対に勝利しましょう。