日本共産党

2002年7月3日(水)「しんぶん赤旗」

パレスチナ分断の“壁”

生活は壊滅的状態に

イスラエル


 イスラエルは六月中旬以来、ヨルダン川西岸とイスラエルの境界線に沿ったパレスチナ側に“壁”の建設を急ピッチで進めています。これは、西岸・ガザ地区を軍事的・経済的封鎖下に置くことを明確にしたものです。すでに日常化している西岸、ガザ地区の封鎖によってパレスチナ経済は壊滅的な打撃を受けており、壁が完成することになれば、この封鎖が永久化されることになります。パレスチナはもとより、アラブやイスラエル国内からも批判の声が上がっています。

 壁は総延長が三百五十キロ。巨大なコンクリート壁や電流が通ったフェンスから成り、「侵入者」を感知するセンサーやレーダーを持つ監視塔を備えています。イスラエルは、二億二千万ドル(約二百六十四億円)の予算を計上しています。

 イスラエルは壁の建設について、パレスチナ過激派による自爆テロを防ぐためとしています。

 パレスチナ人全体を無差別に囲い込むことは、パレスチナ人全体をテロリストであるかのように決め付けるものであり、アラファト・パレスチナ自治政府議長は、「アパルトヘイト(人種隔離政策)だ」と批判しています。エジプトのマーヘル外相は、「壁を建設するより、平和の構築こそがイスラエルの安全保障を実現する」と批判しています。

 壁はパレスチナが将来の首都としている東エルサレムをパレスチナから分離させるものでもあります。

 「壁建設の計画は、パレスチナの貧弱な経済を破壊する」―パレスチナのガザ地区ルマニに住むファヤドさん(37)は、ロイター通信にいいます。「私たちは、いわゆる“安全保障上のフェンス”で私たちの土地を接収することを拒絶する」

 壁はパレスチナ領内に造られており、「先祖伝来の土地を奪うものだ」というパレスチナ人の抗議の声も起きています。

都市間通行を厳重管理下に

 イスラエル政府は六月二十一日、ラマラなど八つのパレスチナ自治都市を再占領することを決定しましたが、それに先立って、五月半ばにはこれらの都市を軍事的、経済的に封鎖する意思を示していました。これに基づいて、イスラエルは自治都市間の通行を厳重な管理に置いています。

 パレスチナ人は一カ月ごとに更新が必要なイスラエル当局の特別な通行許可書がなければ、都市間の移動は許可されません。出入りする検問所には多数が列をなし、イスラエルへの入国を事実上制限されるため仕事に就けない事態になっています。物資も各都市一カ所だけに設置された地点でトラックの物資を積み替えた場合にのみ通過が許されます。

 パレスチナ中央統計局発表の資料によると、イスラエル国内で働くパレスチナ人労働者は、一九九五年の16・2%から九九年には23%に増加。パレスチナ経済は、イスラエル経済に依存してきました。

1日2ドルの生活強いられ

 ロイター通信が伝える非公式のイスラエル統計によると、紛争が激化した約一年九カ月前まで、少なくとも十二万人のパレスチナ人がイスラエル国内で働き、一日に一人当たり三十ドルを得ていました。現在はパレスチナの半数の人が一日二ドルで生活しているといいます。

 一方、イスラエルのハーレツ紙によると、壁の建設は事実上の境界線になるとして、領土拡張を狙うイスラエル右派から「イスラエルを分断するフェンス(壁)を造るな」と強い調子でシャロン首相に抗議する声が上がっています。

 テロリストの侵入を防ぐというイスラエルの狙いについて、ニューヨーク・タイムズ紙のワイズマン論説委員は同紙の論評で、歴史上数々の戦争で壁が建設された教訓から、「イスラエルは、壁が敵の侵入を少なくするという結論を出すかもしれないが、完全には機能したためしがない」とのべています。(伊藤元彰記者)

 


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