2002年6月29日(土)「しんぶん赤旗」
「脱ダム宣言」から一年四カ月。長野県の田中康夫知事が県議会で「現行のダム建設事業は中止する」と表明、県内外に大きな波紋を広げています。これにたいし、ダム推進派議員が巻き返しに出て県議会が空転する事態にもなり激しいせめぎあいになっています。しかし、“無駄なダムは要らない”の声がいま本流になりつつあります。(東海北陸信越総局 長谷川守攻記者)
|
「うれしい。長い運動がいま実りつつあります」。田中知事がダム中止を表明した県議会(二十五日)の傍聴席から出てきた武田けい子さん(49)=長野市三輪=は紅潮した顔でこう言いました。議場では、ダム推進派議員のヤジと怒号の一方で、傍聴者はVサインや音を殺した拍手をしていました。この日は、傍聴席には二百四十八人がつめかけ、息をのむように知事答弁を見守りました。
質問者は日本共産党の丸山茂議員。党事務所にも続々とはがきやメールが寄せられました。「共産党さん頑張って」(自称・山間地在住の七十六歳男性)、「党議員のご意見は素晴らしい。堂々と立ち向かうように」(長野市高田北条の主婦)…。
「脱ダム宣言」は、田中知事が昨年二月二十日、「県政の基本理念」として内外に表明したもの。「ダムは、看過しえぬ負荷を地球環境へと与えてしまう」「国からの手厚い金銭的補助が保証されているから、との安易な理由でダム建設を選択すべきではない」と宣言しました。
この間に県のダム検討委が「ダムなし」を答申、相次いで発表された河川流域住民の各種世論調査で「ダムなし」を「妥当」とする人が六〜八割台にものぼりました。丸山県議は二十五日の質問で、この点を指摘し、「知事はこの結果をどう受け止めるのか」と尋ねました。
知事は「ダム建設を是とする住民合意は得られていない」として浅川ダム(長野市)、下諏訪ダム(下諏訪町)の二ダム中止を明確にし、「森林整備、遊水池や貯留施設の設置などの『流域対策』で対応する方針」と対策を示したのです。
ダム推進派に衝撃が走りました。知事答弁直後に、ロビーでは県政会(自民党、羽田系民主党、三十一議席)の下崎保団長が「ひどい。あれではダムの代替案にもなっていない」などと報道陣にまくし立て、他会派議員もマスコミに「あんたらもっと知事批判の記事を出せ」と叫んでいました。
ダム推進派は「代替案を示せ」などと知事をせめたて審議中断の動議を出すなど二十六、二十七の両日の県議会は中断をくりかえす事態が続きました。
二十八日、傍聴にきた長野市若穂の若林律子さん(40)は、「ダムの代替案や知事の考えが気に入らないからと審議を止めるのは理由にならない。県政はよくなっているのに知事不信任案なんてもってのほか。きちんと議論をしてほしい」と語っています。
浅川ダム建設阻止協議会会長の山岸堅磐さん(76)は「地球環境時代をしっかり読み取った卓見。森林整備を対策案に位置付けたのはすばらしい。まさに『長野モデル』。これが実現するかどうか、知事攻撃のヤジを見ていると安心できない。住民運動をもっとやらねば」と語ります。
(つづく)