2002年6月4日(火)「しんぶん赤旗」
外務省関連の「支援委員会」が進めた「北方支援事業」の一つ、三島(色丹、択捉、国後)のディーゼル発電施設。契約総額が四十一億円をこえる「北方支援事業」最大のプロジェクトで、鈴木宗男衆院議員(自民党離党)が推進してきました。この施設をめぐっては建設決定から入札まで疑惑が噴出。東京地検特捜部も関係者への聴取をおこなうなど関心を示しています。
最大の疑惑は、日本共産党の小泉親司参院議員が国会で追及した国後島ディーゼル発電施設をめぐる問題。支援委員会が依頼した事前調査で新設不要とされたのに、なぜか逆転しました。
ディーゼル発電施設をめぐる事前調査は計四回おこなわれています。このうち本格的予備調査は一九九八年九月。背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された元ロシア支援室課長補佐の前島陽容疑者を団長に、大手コンサルタント・パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル(東京・多摩市、以下パ社)の担当者らが参加しました。
三カ月後に、パ社がまとめた「北方四島住民支援発電設備増強計画」は、色丹・択捉両島に発電施設の新設、国後島には既設発電施設の改修を提案。改修費を二億六千六百万円と試算しました。
翌九九年七月にも、支援委員会の依頼で東京電力(東京・千代田区)が国後島に行き、「地熱発電を中心とした発電所建設の可能性調査」を実施。ここでも「既設ディーゼル発電所は、当面需要に見合う発電可能出力を有しており、補修により更に出力を増加できる設備容量がある」としていました。
ところが、わずか数カ月後の九九年十二月七日、外務省は調査結果を逆転させ、国後島の発電施設建設を正式決定。この結論にもとづきパ社にコンサルタント業務をおこなわせ、二〇〇〇年三月には入札を実施したのです。その結果、パ社の調査どおりの改修なら三億円ですんだのに、新設で契約額約二十一億円と七倍にも事業費が跳ね上がりました。
本格的予備調査をしたパ社は、本紙の取材にたいし、「当面、外壁を改修すれば『発電設備の増強は必要ない』と判断した」と確認したうえ、この結論について、外務省からは何の質問も反論もなかったといいます。また、前島容疑者も逮捕前、一部報道機関に、「私たちが作った報告書とはまるきり反対の方針が突然決まり驚いた」と語っていました。
鈴木議員は、三島ディーゼル発電施設建設の事前調査から完成までかかわってきました。
九八年四月の日ロ首脳会談で、当時の橋本首相は、「四島住民へのディーゼル発電機供与の協力の可能性を検討する」と約束。その「検討」の具体化もかねて、鈴木氏は、九八年六月、現職閣僚(北海道沖縄開発庁長官)として初めて国後、択捉両島を訪問。ディーゼル発電施設建設に向けての第一次予備調査を実施させました。九九年七月、官房副長官だった鈴木氏は国後島を訪問。東京電力の国後島電力事情調査団を随行させました。
二〇〇〇年十月、国後島のディーゼル発電施設完成式典に出席した鈴木氏は、同施設を実現させた自分の力を誇示するあいさつをしました。鈴木氏がどんな力を行使したかが疑惑の核心です。
| 応札額(円) | |
| 色丹島ディーゼル発電施設 | |
| ○三井物産・北海電気工事・ダイハツ | 1,380,310,000 |
| 兼松・関電工・新潟鐵工所 | 1,580,000,000 |
| 伊藤忠商事・北弘電社・三菱重工 | 996,487,515 |
| 択捉島ディーゼル発電施設 | |
| ○三井物産・北海電気工事・ダイハツ | 569,480,000 |
| 兼松・テクセル・新潟鐵工所 | 681,000,000 |
| 住友商事・ユアテック・ダイハツ | 678,200,000 |
| 国後島ディーゼル発電施設 | |
| ○三井物産・北海電気工事・ダイハツ | 1,992,270,000 |
| 兼松・ユアテック・ダイハツ | 2,204,300,000 |
| 住友商事・ユアテック・新潟鐵工所 | 2,179,000,000 |
| ※○は受注グループ |
三島ディーゼル発電施設では入札をめぐる疑惑も浮上しています。別表のようにすべて三井物産グループが落札しましたが、本紙の調べでも、発注者の支援委員会の疑惑の行動が判明しました。
(1)択捉島の入札で、突然、入札参加できる電気工事会社の条件を変更し、三井物産の最大の競争相手だった伊藤忠商事グループを門前払いした。
(2)国の入札ではとらない最低制限価格(それ以下の価格で入札した業者を失格とする制度)をなぜか発電施設の入札に導入し、その設定基準もあいまいにして、色丹島の入札で一番低い価格を入れた伊藤忠商事を失格にした。
三井物産は受注前後の四年間に自民党の政治資金団体「国民政治協会」に八千五百九十万円(九七年〜〇〇年)を政治献金しています。受注経過の疑惑解明も重要です。
「北方支援事業」のディーゼル発電施設は、「ムネ電」とも呼ばれ、鈴木議員が強く建設を推進してきたものです。入札をはじめいくつもの疑惑があります。その大きな一つが、私が国会で三度にわたり追及した国後島の発電施設建設をめぐる問題です。
二つの調査報告書で不要とされているのになぜ新設を決めたのか。この質問に外務省はしどろもどろでまともな答弁はできませんでした。正式決定一年前に、九八年度補正予算で国後島の施設をふくめ、三島分の発電施設建設費約四十億円が計上されていたという予算上の重大問題も指摘しました。
その後、多数のテレビ、新聞から問い合わせがあり、反響の大きさに驚いています。マスコミなどもこの問題を取り上げるなかで外務省も「反省すべき点もある」などといい始めましたが、疑惑解明はこれからです。