日本共産党

2002年5月27日(月)「しんぶん赤旗」

日本と国民を危険にさらす有事3法案は廃案しかない

アメリカとともに海外で武力行使

「日本を守る」法案ではありません


 「日本を守る」「国民を保護する」どころか、日本と国民をアメリカの戦争のために危険にさらす――武力攻撃事態法案など有事法制三法案(戦争国家法案)の危険な本質がみえてきました。こんな法案は廃案にするしかありません。

公海上でも他国領域でも法律発動

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有事法制反対を訴える5・24大集会の参加者=24日、東京・明治公園

 政府は、有事三法案について「我が国を自分の手で守る意思を内外に示す」(福田康夫官房長官)とのべ、日本を守るための法案かのように説明します。しかし、実態は米軍がアジア太平洋地域で介入戦争をおこしたとき、日本が米軍とともに武力行使できるようにする法案です。

 武力攻撃事態法が発動するのは、「我が国に対する外部からの武力攻撃」が「発生した事態」、「おそれのある場合」、「予測される事態」とされています。

 「我が国」といっても、日本の領域だけではありません。公海上であっても他国領域であっても自衛隊に対する攻撃があれば、法律全体が動き出す――。このことは、政府も「攻撃が組織的、計画的と認定されれば、そうなる」(福田官房長官)と認めています。

 すでにテロ対策特措法にもとづいていま、インド洋に米軍支援のため派遣されている海上自衛隊艦船が攻撃されれば、有事法制が動き出すのです。

「周辺事態」との“併存”で行動

 政府は、「武力攻撃事態」と「周辺事態」の「併存は考えられる」と認めています。

 「周辺事態」とは、一九九九年に成立した周辺事態法など日米軍事協力指針(ガイドライン)関連法にある言葉で、米軍がアジア太平洋地域に軍事介入した事態のことです。政府は、日本が直接攻撃されていないので、憲法上、武力行使はできないし、米軍の武力行使と一体化する支援もできないという建前をとってきました。活動地域も、「戦闘地域と一線を画す」というのが建前で、近くで戦闘が始まれば、その場所から離脱しなくてはならないとしていました。

 ところが、武力攻撃事態法案は、「事態終結」のための武力行使を明記しています。政府は、日本への武力攻撃が発生すれば、「(自衛隊は)武力行使ができるし、米軍支援が武力行使と一体化しても、憲法との関係で問題が生じることはない」(中谷元・防衛庁長官)としています。

 「周辺事態」と「武力攻撃事態」との米軍支援を、実際上、区別できるのか――。政府は周辺事態法と武力攻撃事態法案にもとづく米軍支援は「個別の法律にのっとって切り分ける」(中谷防衛庁長官)といいます。

 しかし、与党議員からも、「こっちの米軍、こっちの米軍(と切り分けた支援は)、考えられません。(米軍は)横でつながっていて、作戦上一体になってやるのではないか」(公明党の田端正広衆院議員、十六日)と、疑問の声が出るほどです。

 周辺事態法で米軍支援をしていた自衛隊は、その場に踏みとどまって米軍支援を続け、攻撃されれば一緒に武力行使することになるのです。

ミサイル基地へ先制攻撃の危険も

 小泉純一郎首相は、「予測」や「おそれ」の事態での日本の武力行使は「必要ない」として、先制攻撃しないとしています。しかし、法案のどこにも、「おそれ」や「予測」の事態での武力行使を禁止する規定はありません。

 そのうえ、「座して自滅を待つのが憲法の趣旨とは考えられない」として、「ミサイルによる攻撃を防御するためにほかに手段がないと認められる限り、ミサイル基地をたたくことは可能」(中谷防衛庁長官)と、限りなく先制攻撃に近い答弁をしています。「武力攻撃の着手があったとき」を武力攻撃の「発生」とみなしているためです。「ミサイルに燃料を注入するとか、その他の準備を始めるとかいうことであれば、着手と考えていい」(福田官房長官)というのです。

 結局、「予測」「おそれ」「発生」のどの事態でも、政府の恣意(しい)的判断で発動される危険があるのです。

 法案作成に中心的役割を果たした自民党の久間章生衆院議員も、「相手にその気がなくても、こっちがあると思えば『予測』になる。線引きは難しい」(「東京」二十一日付)とのべています。

「予測」「おそれ」でも米軍へ武器弾薬提供

 政府は「米軍が自衛隊と同様に円滑な行動を行えるよう、支援を検討する」(川口順子外相)として、武力攻撃発生前の「予測」や「おそれ」の段階から、米軍支援ができるとしています。

 しかも、周辺事態法でできないとされた武器・弾薬の提供も、中谷防衛庁長官は「憲法上できないということではない。今後、検討する」とのべています。


ミサイル攻撃

どこからが武力攻撃?

 有事三法案の審議で、ミサイル攻撃を例に「武力攻撃」の発生はどの時点からかが議論されています。

 ミサイル攻撃で思い起こされるのは、昨年のテロ対策特別措置法案審議での中谷元・防衛庁長官の珍答弁です。「ミサイル発射後に人が右とか左とか誘導する場合もある。途中で爆破する場合もある。ぐるぐる地域を回りながら指示を待つミサイルもある」ので、「ミサイル発射をとらえて『戦闘行為』ということはない」。つまり、ミサイルが着弾しなければ、「戦闘行為」がおこなわれたことにはならず、反撃もできないというものでした。

 ところが、有事三法案の審議では、ミサイル着弾のはるか前から、日本は「武力行使」ができると答弁しています。

 福田康夫官房長官は九日の衆院有事法制特別委員会で、「発生」時点について「ミサイルが着弾したからということではなく、武力攻撃の着手があったとき」とのべました。ミサイルの発射準備段階から日本は武力行使ができるとの見解です。二十日の同委員会では、「ミサイルに燃料を注入するとか他の準備をはじめるとかがあれば、武力攻撃の着手と考えていい」とのべ、燃料注入段階から“反撃”の武力行使も可能との認識を示しました。

 政府の解釈がいかに無責任で危険なものかを示しています。


知事らから懸念の声――賛否超え「十分な審議を」

 「地方自治体や住民の生活に関わる内容を多く含んでいるだけに、地方自治体の意見や国民の意見を十分に聞き、慎重を期さなければならない」

 沖縄・那覇市議会が二十四日、全会一致で採択した慎重審議を求める意見書です。法案の撤回を求めた三重県議会の決議(十七日)につづき、自治体の懸念が広がっています。

 自治労連の自治体首長アンケートでは11・6%が「反対」、70・3%が「慎重審議」を要求しています。長野県の田中康夫知事が強い反対を表明。他の県知事からも「有事とはなんぞやについてもなかなか具体的な話がみえないようなので、もう少しじっくり時間をかけなくてはいけない」(福田昭夫栃木県知事、二十一日)「(自治体を)施策実施の重要な手足として対策本部下に位置付けることには反対」(石川嘉延静岡県知事、二十一日)「有事とは具体的にどういう場合かを想定し、国会できちんと議論してもらわなければ困る」(栗田幸雄福井県知事、二十日)などの発言があいついでいます。

 二十二日の中国地方知事会(会長・澄田信義島根県知事)でも、広島、鳥取、岡山の各県知事から「国民的な合意形成が必要で、十分な論議をするよう要望すべきだ」との意見が続出しました。


米軍の戦争に国民を強制動員

「国民を守る」法案ではありません

 政府は有事法制について「国民の生命、財産を守るもの」(小泉首相)といいます。しかし、国民は守られるどころか、米軍の戦争に強制動員され、政府の統制下で基本的人権まで侵害されるのが有事法案です。

表

戦争協力が要請から強制に

 武力攻撃事態法案は、武力攻撃発生前の「予測」「おそれ」の事態から、周辺事態法でできなかった国民の強制動員を可能にしています。

 周辺事態法では、地方自治体へは「協力の求め」ができるだけだったのが、有事法案では、戦争協力が「責務」になります。自治体管理の港湾、病院なども軍事優先が貫かれます。

 「協力の依頼」だけだった民間企業も「指定公共機関」に指定されると、首相の統制下におかれます。何を指定するかは政府の判断次第で、警報発令など報道面での協力にはNHKや民間放送も想定され、新聞社も検討対象になるとしています。

 米軍の戦争への協力が国民の「努力義務」になり、個別法ができれば米軍への直接支援も強制されることになります。

命令書一枚で土地、物資もとりあげ

 戦前の“赤紙”にも匹敵する「公用令書」一枚で、輸送、医療、建設関係者が「業務従事命令」で動員され、自衛隊に必要な土地や物資もとりあげられ、保管命令も下されます。

 保管命令違反には六カ月以下の懲役か三十万円以下の罰金です。しかも、政府は都道府県知事が「公用令書」を出すことを拒否したら、首相が代わって執行すると答弁しています。

 「生活関連物資等の価格安定、配分その他の措置」として、一九七〇年代の石油ショック時の経済統制法を想定した価格統制や生産・供給管理も考えられています。

戦争反対の集会・デモまで規制

 思想・信条の自由をはじめ、国民の「自由と権利」は何の歯止めもなく、二年以内に整備する個別法で制限されます。「法律の範囲内」でしか国民の権利が認められなかった明治憲法下に逆戻りするものといえます。

 中谷防衛庁長官は物資保管命令違反の罰則について「本人の内心には関係なく(命令違反の)行為にもとづき罰則を科す」といいます。つまり、戦争非協力の信条にもとづいて命令を拒否した場合でも罰せられるのです。

 戦争に反対する集会やデモへの参加も規制の対象になります。福田官房長官は「集会や報道の自由は確保されているが、あくまで公共の福祉に反しない限り」と答えています。戦争が「公共の福祉」にあたるという考え方は、憲法に真っ向から反するものです。

日常から有事訓練 外出禁止、交通規制も

 「有事」において自衛隊が国民を守るわけではありません。

 衆院有事法制特別委員会で自民党の石破茂議員(元防衛副長官)は「戦時に軍事組織は敵を早く撃滅して国に平和を取り戻すことに専念しなければならない」とのべました。そのうえで、「警察や消防がやっていたことを民間防衛組織がやることにならないとウソだ」といいます。

 国民は、何らかの組織に属して、本来なら警察や消防の仕事である避難誘導や救助などの活動に従事させられるのです。そのために「平時」から「必要な組織や訓練などのあり方について考えていく」(福田官房長官)としています。

 一方で、自衛隊の邪魔をしないようにと国民の行動は規制されます。中谷防衛庁長官は「外出制限、交通の規制も必要だ。今後の課題として検討しなければならない」とのべています。武力攻撃の「おそれ」や「予測」の事態でも、外出禁止令や、自衛隊の行動を優先させた通行規制などで国民は行動を縛られる可能性もあるのです。

 


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