2002年5月25日(土)「しんぶん赤旗」
【モスクワ24日北條伸矢】ロシア公式訪問中のブッシュ米大統領は二十四日、クレムリンでロシアのプーチン大統領と会談し、「戦略的攻撃戦力削減条約」に調印しました。条文では、二〇一二年末までに、両国が配備中の戦略核弾頭をそれぞれ現在の三分の一程度にあたる千七百―二千二百発に削減すると記載。しかし、削減後の核弾頭の扱いについて明確な規定がなく、米側が「不測の事態」に備えた「備蓄」を主張しているため、削減は名ばかりになる可能性があります。
両大統領はまた、両国の「新しい戦略的関係」をうたった宣言を発表。米国が推進するミサイル防衛構想について、「ロシアにとって脅威にならない限定的なものだ」と指摘し、国際テロ対策で両国の協調路線をいっそう強化することを呼びかけました。
ブッシュ大統領は、午前十時(日本時間午後三時)から約三時間にわたりプーチン大統領と会談。調印式の後、共同記者会見に臨みました。
会見では、ブッシュ氏が「(イランの)大量殺りく兵器所有は、米国と同じく、ロシアにとっても脅威だ」と発言。これに対しプーチン氏が「イランとロシアの協力は、エネルギー部門に限定されている」「米国も同様の支援を北朝鮮に対して行っている」「われわれは、台湾のミサイル開発に疑問を持っている」とたたみかけるやりとりもありました。
戦略的攻撃戦力削減条約の調印後、会見場に現れたブッシュ米大統領は「米ロにとって、歴史的な日だ」「長期にわたる対立の歴史が終わり、まったく新しい両国の関係が始まった」と説明。ロシアのプーチン大統領も「国際的な安全保障強化に向けた重要な一歩だ」とこたえました。
確かに、双方が配備中の核戦力を今後十年間で約三分の二削減すると合意したこと自体、無意味とはいえません。しかし、残る三分の一だけでも、人類を何回も殺りくできる核兵器が実戦配備されます。
しかも、米国は削減対象の約四千発の核弾頭のうち、約二千四百発を実戦配備可能な状態で「備蓄」する考えだとの報道もあります。新型兵器開発も考慮に入れると、三分の二の削減も削減は数字の上だけのものになりかねません。
条文では削減の中身について具体的な記述はなく、ロシアも暗に「備蓄」を認めた格好です。「歴史的」合意などといえるものではありません。
米国にとっては、ミサイル防衛構想など自国の世界戦略にロシアを取り込み、米ロ新関係を誇示した形。他方、財政難で現有核兵器の維持さえままならないロシアにとっては、米ロ合意に基づく「削減」という形が実現したことで、核大国の面目を重視する国内世論を御しやすくなります。
核削減での譲歩により、プーチン大統領は経済関係で“みやげ物”を手にしました。ブッシュ大統領は会見で、ロシアを「市場経済国」と認定し、旧ソ連圏諸国からの輸入関税障壁設定などを定めた一九七四年のジャクソン・バニク法の対象国から外す考えを表明。世界貿易機関(WTO)へのロシアの加盟を支持すると強調し、プーチン大統領も「経済活動での新しい関係の構築を目指すものだ」と評価しました。
今回の条約は「歴史的」どころか、核兵器廃絶とは無縁、従来の条約とくらべてもおよそ“核軍縮”ともいえるのかという内容で、核大国の国益だけを優先したものになったといえるでしょう。(モスクワで北條伸矢)