日本共産党

2002年5月22日(水)「しんぶん赤旗」

強行など論外 有事3法案の大問題〈上〉

武力行使の危険 現実に


 政府・与党は二十一日、有事三法案の月内衆院通過、会期内成立を狙って、公聴会日程の議決を強行しました。しかし、これまでのわずかな審議の中でも、海外での武力行使の道を開き、その戦争に国民を強制動員するという法案の重大問題が浮かび上がっています。採決強行など論外、徹底審議の必要性はますます高まっています。

図

海外の自衛隊も「我が国」
有事法制に連動

 政府は、有事法案を「戦争準備法案などというものではない」(福田康夫官房長官)とのべ、海外での武力行使につながることを否定しています。

 しかし、法案の発動対象となる「我が国に対する外部からの武力攻撃」に、海外で活動する自衛隊部隊にたいする攻撃が含まれることが明らかとなっています。

 日本共産党の木島日出夫議員は、「現にインド洋、アラビア海に自衛隊は出ていっているし、同意があれば沿岸にも入っている。この自衛隊の艦船に攻撃があるとき、この法案は動くのか」と追及。福田官房長官は「公海上の我が国の船舶等も排除されない」「(相手国の領域の中でも)組織的、計画的な攻撃を受けたと認定されればそうなる」と認めたのです(八日)。

 周辺事態法やテロ対策特措法にもとづいて海外に出動している自衛隊にたいする攻撃やその「おそれ」「予測」があれば法案全体が動き出す――これが、「最もリアリティー(現実性)をもった事態」(志位和夫委員長)です。

政府の勝手な判断で

 しかも、法案が発動される「武力攻撃事態」が政府の恣意(しい)的判断でどうとでも認定できることも浮き彫りになりました。政府は十六日、「おそれ」や「予測」の事態の例示を示しましたが、ある国が軍事施設を新たに構築しただけで「予測される事態」、攻撃の“意図”をもって艦船や航空機の集結があれば「おそれのある場合」になるというのです。

「周辺事態」と並存

 中谷元・防衛庁長官は、「武力攻撃事態」と「周辺事態」が「並存する」と繰り返し答弁しています。

 「周辺事態」は「そのまま放置すれば日本への直接の武力攻撃に発展するおそれのある事態」をさしますから、「おそれ」や「予測」の段階と重なるのです。

 このとき米軍への支援はどうなるのか。政府は、「別個の法律に従って実施される」と説明します。「周辺事態」では武力行使と一体となる支援はしない、しかし「武力攻撃事態」では「米軍の武力行使と一体化するものであっても問題は生じない」(中谷防衛庁長官)としています。

 その仕分けは可能か。「個別の法律にのっとってということで切り分ける」(安倍晋三官房副長官)というばかり。与党議員からも「周辺事態法は、武力行使と一体化しないようにとタガをはめているのに、併存する武力攻撃事態で米軍と共同してやるとなると、集団的自衛権の問題はどうなるんだ」(自民党・岩屋毅議員、十六日)、「理屈の上では可能だが、実態面でそういえるのか」(公明党・田端正広議員、同日)など、“疑問”の声も出ています。

 結局、「周辺事態法」でできなかった海外での武力行使と一体化した米軍との共同作戦が、武力攻撃事態法案で可能になる危険があるのです。

「おそれ」「予測」で武力行使に解釈の余地

 武力攻撃事態法案では「武力攻撃事態」の定義として、「外部から日本への武力攻撃が発生した事態」「武力攻撃のおそれのある場合」「武力攻撃が予測されるに至った事態」―の三つをあげています。

 政府は、日本がまだ攻撃を受けていない「おそれ」や「予測」の段階での武力行使が、海外での武力行使に結びつくため「『おそれ』や『予測』で武力行使は必要ない」(小泉首相)と否定します。

 しかし、法案には「おそれ」「予測」の段階で武力行使を禁止する根拠規定もなければ、明文規定もありません。そればかりか、武力行使が可能だと解釈できる余地を残しているのが実態です。それは、二十日の木島日出夫議員の追及でいっそう浮き彫りになりました。木島氏がとりあげたのは、「武力攻撃事態」を終結させるための措置の一つとしてあげている「武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動」(二条六号イ(1))という条文です。以下、そのやりとりを紹介します。


木島議員質問と政府答弁(大要)

 木島議員 「武力攻撃を排除するために必要な」の概念は、「おそれ」も「予測」も含まない概念か。

 福田官房長官 「予測」、「おそれ」も入っている。「部隊等の展開その他の行動」、この段階では(「予測」に対応した)武力攻撃に備えるための準備行動というものがあるので、「予測」の段階も入る。

 木島 「武力攻撃を排除するために必要な」という形容句は「自衛隊が実施する武力の行使」の言葉にかかる。そうすると(武力攻撃が発生していなくても)「先制自衛」ができるということにつながる。

 福田 「武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使」という表現は、ここでいう「武力の行使」が憲法上認められる自衛権の発動三要件を満たした場合の武力の行使だという趣旨を表現したもの。本条の「武力の行使」は、「予測」や「おそれ」の事態といった武力攻撃の発生以前の段階で実施されることはない。

 木島 「武力行使の三要件を満たした場合」とは書いていない。政府は自衛隊法八八条を持ってくるが、イ(1)には、そんな修飾語はつかない。武力行使が「おそれ」や「予測」でできるというのは、これまでの政府答弁の根本的な転換だ。「事前自衛反撃」、「予防自衛反撃」ができるという解釈になる。

 福田 (自衛隊は)憲法上認められない行動はできない。憲法上認められる自衛発動の三要件が満たされなければならない。

 木島 日本は先制攻撃はできないんだということは、この「武力攻撃事態法」からは出てこない。

 津野修内閣法制局長官 武力攻撃が発生していないにもかかわらず「おそれ」「予測」されるような事態で自衛隊が武力行使をすることは含まれていない。憲法の規定とか法律の規定、自衛隊法の規定も含めて総合的に解釈するのが当然だ。

 木島 政府は憲法九条のとんでもない解釈を続けてきた。軍隊が持てないと明文規定があるにもかかわらず、「戦力ではない。だから軍隊ではない」という国際社会には通用しない理屈を立ててきた。憲法解釈をいくらでも政府が変えたら、「先制自衛」もできるということになる。そんな解釈の余地があるような法律には断じて賛成できない。

 


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