2002年5月19日(日)「しんぶん赤旗」
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「行き過ぎた愛国主義で報道の自由がそこなわれている」。米CBSテレビのベテラン・キャスター、ダン・ラザー氏が英BBC放送のインタビューに答えて警告しました。十六日に英国で放映されたニュース番組で述べたものです。昨年の同時多発テロ以降の米国内の雰囲気と批判精神を欠いた主要マスコミへの率直な自己批判に反響が広がっています。(ロンドンで田中靖宏)
ラザー氏は「今度の対テロ戦争ほど情報へのアクセスが限られている戦争はない」「政府情報の検証が難しく、戦争担当者の背後に迫るのは非常に危険」と指摘。ジャーナリストは「政治家の感情を害するのを恐れて厳しい質問をしなくなっている」「私も例外ではない」と自己批判しました。
ラザー氏はまた、メディアのなかで戦争報道が娯楽番組と一体化する「ミラテイメント」の傾向を指摘。真実とかけ離れた戦争美化の番組にペンタゴンが協力していると批判しました。
視聴者からの反応でBBCオンラインが開設した「論点」覧には早速意見が寄せられ、戦争と報道の自由や米国マスコミをめぐって討論が始まっています。
欧州では米同時多発テロへの犠牲者への同情の一方で、このところ米国のテレビや主要マスコミの報道のあり方に疑問が相次いでいました。戦争反対運動や人々の声はほとんど取り上げられず、トーク番組ではイスラエルやブッシュ外交に批判的な発言が「テロリストの味方」といった攻撃で封じ込められる現状が紹介され、「独立と自由の米国メディア《はどこにいったのか」との声がでていました。
英紙ガーディアンのジョナソン・スティール氏は、「躍動的だったニューヨークが沈んでいる。テロの犠牲のためではなく、議論を封じる息苦しい服従主義のためだ」と指摘。「本当のことをいうと職が危なくなるから」といった米連邦政府職員の声を紹介しながら、体制批判が禁じられていた「ブレジネフ政権下の旧ソ連」と変わらぬ雰囲気だと述べています。
そんななかでのラザー氏の発言。この日は、ブッシュ大統領がビンラディンらのハイジャック計画を事前に知らされていたとの報道をきっかけに「いくつかの新聞が疑問を提起し、ブッシュ大統領が防戦」と報じられました。
ラザー氏は「私も愛国者。大統領の命令があれば即座に喜んで死ぬつもり」と述べつつ、「面と向かって立ち上がらないのは愛国的でない」「大統領が最もきらう厳しい質問をすべきだ」と力説しました。