2002年5月17日(金)「しんぶん赤旗」
昨年六月、北京の国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に北朝鮮から脱出した住民七人が駆け込み、その後韓国入りして以来、今年に入ってから中国の外国公館への「脱北者」(北朝鮮からの脱出者)の駆け込み事件が相次いでいます。
北京で三月にスペイン、四月にドイツ、米国、韓国の大使館へ、五月には瀋陽で日本、米国の総領事館、北京でカナダの大使館への駆け込み事件が起こっています。それらのほとんどが、韓国や日本などの支援組織が報道機関などにも事前に連絡して計画的に行ったものでした。
韓国紙・東亜日報が韓国政府当局者の話として伝えたところによると、中国政府は九日の韓中アジア州局長会議の場で韓国側に、これらの組織の支援活動を取り締まるように求めたとされます。同様の要請は、三月のスペイン大使館駆け込み事件の際にも行われたといわれます。
支援組織による計画的行動で公館駆け込みがクローズアップされたかっこうですが、韓国入りした脱北者が近年急増する中で、「駆け込み組」はごく一部です。
韓国統一省が十日に発表した『二〇〇二年 統一白書』によると、北朝鮮を脱出して韓国に入国した住民は一九九〇年代初めには年間十人前後でした。それが、九〇年代の中盤になると五十人を上回る水準で推移し、九〇年代末になると百人を超えて急増しました。
特に、二〇〇〇年の三百十二人から〇一年には五百八十三人へとほぼ倍増する勢い。今年に入ってからもすでに三百人を超え、年内には千人に達するとの見方も出ています。昨年十二月までで総計千九百九十人の北朝鮮脱出住民が韓国内に入国し、現在このうち千七百五十八人が韓国内で生活しています。
同白書は、北朝鮮脱出住民の増加は「基本的に北朝鮮の食糧難と経済難が加重」しているためだと指摘。また、「過去には韓国への入国経路が特定地域に限定され、入国方法も制限されていたが、最近では入国経路が複数の国家経由に拡大し入国が比較的容易になった」としています。さらに、「縁故家族などの助けを借りて家族単位で入国する事例が増加している」ことも、全体として入国者が増加している要因となっています。
最近の事例では、過半数が家族単位。人員構成も二十―三十代が五割を超えます。食糧難でせっぱ詰まってということと同時に、韓国などへの移住感覚もうかがえます。労働者・農民が47・5%ですが、学生・児童などの被扶養者も32・9%を占めています。
脱出住民のほとんどが中国に短期・長期に滞留しています。その数は数万から数十万人ともいわれますが、白書は実数の「把握は困難」だとしています。
昨年来、中朝国境の取り締まりが強化されて脱北者の強制送還が急増していると報道されています。
逆の見方をすると、それだけ多くの住民が比較的容易に中国に入り込んでいる実態が見えてきます。
中国政府はそうした北朝鮮住民を密入国した不法滞留者と考え、国際法上の難民とはみなしていません。したがって、彼らに対する措置は自国の主権事項であるとして第三国が関与する問題ではないとの立場を堅持しています。
同時に、「国際法と国内法に基づき、人道的理由も考慮に入れ、適切に処理する」(孔泉・中国外務省報道官)との立場もとり、結果的に脱北者の韓国入国の急増につながっているものとみられています。
韓国政府は、かつては脱北者を英雄として扱ったこともありましたが、現在では主に人道的見地から対処。白書によれば、「滞留国との外交交渉と相互理解を通じて彼らの保護・支援問題を解決」するとし、UNHCRとも「緊密な協調関係を維持している」としています。(前田和則記者)
| 日付 | 場所 | 処理 |
| 2001 | ||
| 6・26 | UNHCRに7人 | 6・30韓国入り |
| 2002 | ||
| 3・14 | スペイン大使館に25人 | 3・18韓国入り |
| 4・25 | ドイツ大使館に1人 | 4・28韓国入り |
| 4・26 | 米国大使館に2人 | 4・28韓国入り |
| 4・29 | 韓国大使館に3人(未遂) | 中国側が「取り調べ中に逃げた」と発表 |
| 5・ 8 | 日本総領事館に5人 | 未定 |
| 5・ 8 | 米国総領事館に2人 | 5・14韓国入り |
| 5・ 9 | 米国総領事館に1人 | 5・14韓国入り |
| 5・11 | カナダ大使館に2人 | 5・17にも韓国入り |