2002年5月13日(月)「しんぶん赤旗」
青森県で、町議会議員二十年の経歴をもち、保守政治を歩いてきた人が日本共産党に入党しました。冬の観光「地吹雪ツアー」で全国でも有名な北津軽郡金木町(かなぎまち)の吉田米逸(よしだ・よねいつ)さん、七十一歳です。吉田さんの勇気ある入党は、地元金木町をはじめ、青森県党組織の話題となり、多くの党員を励ましています。(党青森県委員会書記長 堀幸光)
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太宰治の生地・金木町はコメの単作地帯、人口一万二千人ほどの町です。吉田米逸さんは、若いときから十八ヘクタールの水田を耕し、青森県から最初に模範農業者に認定された篤農家として生き、一九七二年から連続五期二十年、町議をつとめました。
いま、入浴客だけで年間、十万人を数える温泉旅館「奴(やっこ)温泉」の社長さん。金木町旅館組合の組合長でもあり、町では“知らない人はいない”といわれている名士です。
吉田さんが、日本共産党員として生きることを決めたのは、政治が鈴木ムネオ疑惑で大揺れの三月三日。「テレビを見るたびにストレスがたまる。自民党政治も、ここまでひどくなったのかと、憤りがドンドンわいてきた。いま、日本を救わなければ大変なことになる。それができるのは日本共産党しかない。人生七十年にして、自分も共産党員になることだ、と行きついた」といいます。
さっそく、小田川土地改良闘争で知り合い、二十年来の知人で、隣町・中里町の外崎文雄さん(党支部長)に連絡、入党の決意をうちあけたのです。
「まさか、そんなことがあるはずはない!」。驚いたのは地元金木町の党員たちでした。吉田さん本人に確かめる電話もいれました。「社長! 本当に共産党に入ったのか! 商売に影響はないのか? 本当にいいのか?」
「入ってまったじゃ。いいでばぁ」と、照れ笑い。最初の支部会議の歓迎会で祝福され、「さっぱりした」と吉田さん。「三十代の時、入党を考えたことがあるが、家族の事情などで踏み切れなかった。四十年来の思いが実現できて、さっぱりした気分です。入党して一番の感想は、若くなった」とほほえみます。
口を開けば、「農業が好きだ。農業をつぶす政治は許されない」と語ります。五歳で父親をなくし、母の手一つで育てられ、当時一・二ヘクタールの田を守り、十四歳で終戦を迎えました。
戦後、十八ヘクタールまで田をひろげ、田に耕運機を入れた、県内三番目の人ともいわれます。
保守政治の側に身をおいていた町議時代。「それでも農業が好きだ。悪党とたたかうのが自分の性根。“議会の刑事”のあだ名もつけられた」と、はにかみます。
町議会には、もう一人、“悪党とたたかう”議員がいました。日本共産党の吉崎正光さん(故人)でした。「吉崎さんは、闘志満々の人だった。それを見ながら、自分もがんばった」と、ふりかえります。
「相談ごとで、津川武一さん(青森県の日本共産党代議士・故人)を訪ねたとき、『あの、もの静かな人からどうしてあんな闘争心が生まれるのか』と心ひかれた。農家に過大な負担をおしつける土地改良の闘争も、一番、意思が固く、最後まで裏切らなかったのが共産党だった。一度決めたら信念を貫く党だと知り、以来、自分では『党友』のつもりだった」
「自民党にも誘われたが、私利私欲で動く党は、断り続けた。自民党は猫の目農政、農業を守った政治を見たことがない。自民党だらけの議会で“万年野党”を通した」
“陰の支援者”から日本共産党員として歩みだした吉田さん。親子や知人に自分の入党を話します。
「なにぃ! なんでまた、共産党なんかに」―驚き、怪訝(けげん)な顔をする人もいます。
「共産党は昔から白い目でみられてきたが、何か悪いことをしたか?」
「投獄されたのは、反戦平和でたたかったからだ。ソ連や中国と同じだと見られた時もあったが、信念を貫いた党だ」
さらに「自民党を見てみろ、いいことしているか?」と問うと、「あれは、マイネ(だめだ)」となり、最後は「オレが共産党に入って問題があるか?」と聞くと、「ナンも、ないな」。
「食料を粗末にする政治は国を滅ぼす。小泉首相の口から農業の話がでたことがない。戦争をする有事立法までもちだす危険な政治だ。農家は保守的でも、戦争にはみんな反対だ。共産党が農民に理解される時代は必ずくる。党員がふえ、若い人に支えられる党になればいい」と話す言葉に力が入ります。
地域の人が温泉につかり、身体と心をいやす姿を毎日見ています。子どもはみんな独立しました。「奴温泉」をつぐ人がいません。
「人間の『ゆりかごから墓場まで』を真剣に考えているのが共産党だと思う」という、日本共産党員・吉田米逸さんには、大きな夢があります。
介護保険が始まったとはいえ、「年寄りを車いすに縛りつけている感じがしてならない。もっとのびのびとくらし、歩けるようにならないものかと、デンマークまでいき視察してきた。ハコ形福祉から心が通う福祉が必要だ。自分の温泉を高齢化社会に役立てたい」と考えています。
「『主権は国民にある』と貫いてきたのは共産党しかない。国民が健康でなければ、国の健康もない。これが共産党の立場だと思う」ともいいます。
そして、「党支部の会議にでて、金木の共産党員には根性がある、感激した。農民は、自民党によって反骨精神を奪われてきたが、映画『郡上一揆』のように、自分にもたたかう火がついた」と語ります。