2002年5月8日(水)「しんぶん赤旗」
【パリ6日山田俊英】五日フランス大統領(任期五年)の決選投票が行われ、即日開票の結果、保守現職、共和国連合(RPR)のジャック・シラク氏(69)が極右、国民戦線党首ジャンマリ・ルペン氏(73)に大差をつけて再選されました。社会党のジョスパン首相は六日、正式に辞任し、首相の指名権を持つシラク大統領は保守、自由民主党のジャンピエール・ラファラン上院議員を新首相に指名。五年間の保革共存政権が幕を閉じました。
得票数・率はシラク氏二千五百五十万票、82・21%、ルペン氏五百五十万票、17・79%。棄権率は一回目投票の28・4%から20・29%に減り、極右阻止の投票が投票率を押し上げました。極右以外のほぼすべての政党がルペン当選阻止のためシラク氏への投票を呼びかけたためです。
極右落選と同時にパリ市内の広場に一万人以上の市民が繰り出しました。シラク氏は同夜、共和国広場の大群衆の前に現れ、「フランスは排除とデマの政治を拒否した。自由、平等、友愛を守ろう。今後も監視を強めよう」と訴えました。
党本部で敗北宣言したルペン氏は「シラク氏の勝利は社会、政治、経済、マスコミのすべての力を結集するソ連的手法によるものだ」と八つ当たりしました。
左翼政党や、一回目投票後、極右大統領阻止を呼びかけた各界の人々は今後も反極右のたたかいを続けることを表明しており、六月に行われる国民議会選挙が当面の焦点です。
シラク氏の当選は党派を超えた反極右のたたかいによるものでした。しかし、当選を阻止されたとはいえ、極右ルペン氏の得票率は決選投票で18%。全有権者の十人に一人以上が同氏を支持したことは今後のフランス政治と社会に大きな課題を残しました。
特に失業者、低賃金労働者の中でルペン氏が大きな支持を得たことは深刻です。ルペン氏は、特権階層、共産党、外国移民を「敵」と思わせ、「エリート支配を終わらせる労働者の味方」と売り込んで支持を集めました。五年間の左翼連立政権が雇用増、労働時間の短縮、低所得者向けの医療保険新設などさまざまな成果をあげてもなお、それが届かない人たちが、極右の宣伝に惑わされ、失業や移民の多い地域でルペン氏をトップに押し上げました。
有権者の最も多数を占める労働者の要求に耳を傾け、それにこたえる真剣な努力を各党とも迫られています。国会に議席を持つ保守、左翼とも一回目投票の得票でみれば前回票を大きく減らしており、保守は左翼以上に減らしました。シラク大統領が勝利を喜べる状況ではありません。
左翼の側では第一回投票で、現職首相が極右に勝てなかった社会党、政権に参加した共産党などが票を減らし、左翼の内閣まで放棄せざるをえなくなり、保守以上に大きな打撃を受けました。国民議会選挙に向けて再生の努力が迫られます。
反極右の行動がまたたくまに広がったことを見ても、フランス革命以来の民主主義の伝統は大きなエネルギーを発揮しています。社会党、仏共産党にとって、この膨大な民衆の力を政治革新に結び付けていく努力が求められます。
当選したシラク大統領と新内閣にとっても、政権に就いた以上、民主主義防衛はこれまで以上に大きな課題です。国民、特にルペン氏の支持基盤となった失業者やブルーカラー労働者、不安定雇用の労働者の政治に対する信頼をどう取り戻すか。来月、総選挙で審判を受けることになります。(パリで山田俊英)