日本共産党

2002年4月30日(火)「しんぶん赤旗」

李登輝前総統の秘密資金

台湾・香港紙誌機密文書暴露 対日米へ買収工作

橋本元首相に

「1万米ドル相当の商品券」


 台湾の週刊誌『壱週刊』(三月二十一日号)と中国時報紙(三月二十日)、香港の星島日報紙(三月二十四、二十五日)は、それぞれが独自に入手したとする台湾の情報機関・国家安全局の機密文書を相次いで暴露し、台湾内外に衝撃を与えました。台湾の李登輝前総統が三十五億台湾元(約百三十億円)に達する巨額の秘密資金を使って展開した対日、対米などの買収工作の内幕がさらけ出されたからです。その中では、そうした工作が橋本龍太郎元首相ら政治家や元自衛隊幹部にたいして行われたことが明らかにされています。(下司上記者)

 この機密文書が記録しているのは、李氏が総統在任中の一九九四年から二〇〇〇年までの出来事。李氏の承認のもとで国家安全局が使った巨額の機密費は、秘密工作の目的ごとに「○○基金」という名称がつけられていました。その中で最も注目されるのが「明徳」基金です。この基金の狙いは「軍事情報系統を通じて米国、日本との実質的な関係、つまり台、米、日の三者をつなぐ秘密パイプをつくる」(『壱週刊』)ことにありました。

秘密グループ組織

 李氏は、日本に幅広い人脈を持つ台湾運輸機械公司の彭栄次理事長を対日工作の責任者にすえ、日本や米国の政府関係者らの参加をえて、「明徳グループ」と呼ばれる三者の秘密協調グループを組織。毎年定期的に二、三回、緊急時には臨時会議を開きました。場所は台湾、日本、米国を順番に回っていたといいます。

 同誌は、日本のメンバーは「自民党の極右派が中心。橋本氏は首相を辞任した後に加わった。日本の元『(自衛隊)北部方面』指揮官で現在、帝京大学教授の志方俊之氏も一員である。日本の元軍事情報行政の高官には『統合幕僚長』、内閣情報調査室長、公安調査庁および警視庁の長官(の経験者)が含まれ、職務を離れた後、彼らは皆『明徳グループ』の三者会談に加わった」としています。

 米国では、共和党を中心とし、国防総省や国家安全保障局のスタッフが加わり、「最も重要な陰の実力者」としてフィラデルフィアの「外国政策研究所」のピーター・H氏の名前が挙げられています。「戦略国際研究センター」のキャンベル副所長(クリントン政権の国防副次官補)や現ブッシュ政権のウルフォウィッツ国防副長官も「重要なメンバー」。同誌は、三月に台湾の湯曜明氏が「国防部長」の肩書で初めて訪米できたのは、この明徳グループとの協力が密接に関係していると述べています。

“台湾防衛”で画策

 九五年六月に李総統が訪米して以降、中国軍は台湾周辺でミサイル演習を挙行。九六年三月の台湾における初の総統直接選挙の時期にも台湾周辺で三波にわたる大規模な軍事演習を実施し、台湾海峡の緊張が高まっていました。この時期に台湾側が橋本氏に働きかけたとして、『壱週刊』はこう書いています。

 「李登輝総統は彭栄次理事長を日本に派遣した。橋本首相に対して、ワシントンに密使を送り、台湾を防衛するための出兵を求めるよう促した」、「米中央情報局の事後の通報によると、橋本首相は密使を確かに派遣した」、「クリントン大統領は二つの空母戦闘群の派遣を決定し、台湾海峡付近に急行させた」

 一方、星島日報は、橋本氏にかかわる国家安全局の二つの文書を公表しました。一つは、九八年九月二日の「極機密」文書で、橋本氏が首相をやめて二カ月後に当たります。

 それによると、「『明徳グループ』米側のA大使は九月十四日または十六日に日本で橋本元首相と会う予定である。A大使は日本側のS参院議員の提案をうけて、橋本氏にじかに会い、明徳グループへの参加を要請する」「橋本氏は日本の大物政治家であり、無視できない影響力をもっている。もし参加すれば、当グループの政治的機能は大幅に向上するだろう」とのべています。

お歳暮や金品

 もう一つは九九年十二月十五日の「極機密」文書です。李登輝氏は年末の贈り物をするため彭栄次氏らを日本に派遣しました。「日本の習慣に従い、お歳暮は台湾特産の食品を主とし、別に商品券を贈る」「商品券は一人二千米ドル。特別な身分の橋本元首相は、一万米ドルとする」「彭理事長は贈り物のほか一席を設け、日本側関係者を招いて時局および日台関係について意見交換する」と同文書はのべています。

 これについて星島日報は「日本の政界要人の少なくない人が確かに台湾の『好意』を受け取り、橋本氏のような大物政治家を含めて、台湾からの商品券を受け取ったことを上記の文書は証明している。台湾の日本政府への浸透の深さは驚くべきことだ」と書いています。

 さらに同紙は、秋山昌広元防衛事務次官にかかわる国家安全局の九九年十二月十五日「極機密」文書と〇〇年二月二日の「機密」文書も明らかにしています。台湾側が秋山氏の「日米安保、日台関係への貢献に感謝」し、さらには「学位と経歴を取得することで将来、『学者、専門家』の身分でふたたび協力」するため、「二年間の米ハーバード大学留学の手はずをととのえ、その費用として十万米ドルを援助」したという内容です。

 同文書によると、秋山氏は防衛局長のとき、台湾の「駐日代表」と会見し、「日本と台湾の断交以来、初めてわが政府役人と会見した日本の軍事関係高官」とされています。さらに、星島日報は次のようにのべています。

元防衛庁幹部に資金

 「台湾は日米安保条約の保護圏に入ることを強く希望し、あらゆる手段を使って日本の軍事情報部門に食い込もうとした。日本政府の政策決定に影響を与え、台湾の戦略的利益にとって有利な方向へ導くためである。秋山氏はそのような役割を果たせる人物であった」

 「彼と米側『明徳グループ』メンバーの共同作業のもと、日米双方は日米安保条約の『周辺事態』のカバー範囲を台湾海峡と朝鮮半島を含む『極東』および『極東周辺』地域と確定した。つまり、台湾海峡で戦争が起これば、日本は米国とともに軍隊を派遣し、同地域の安全と安定を守るということである」

 前記の「機密」文書によると、台湾側が提供する十万米ドルは、台湾と密接な関係にある米国の「戦略国際研究センター(CSIS)太平洋フォーラム」の口座に送金されました。同フォーラムのケリー議長(現ブッシュ政権の国務次官補〈東アジア担当〉)は、台湾側にそれを「受け取った」旨を告げています。

 対米工作は「明徳」基金だけでなく、「明華」基金によっても行われました。星島日報によると、台湾の国家公安局は九四年に「台湾総合研究所」の名義で、米国のコンサルタント会社との間で、毎年百五十万米ドルを支払う六年間の契約を結び、同社は台湾の利益のために米政府や議会に対してロビー活動を行いました。

 李氏は二〇〇〇年米大統領選挙の二年前、先物買いでブッシュ氏にかけ、秘密資金を使って一連の買収とロビー活動を展開しました。その結果、ブッシュ氏が大統領就任後に米台関係の温度が急速に上昇したと同紙は解説しています。


文書の出所は?

 台湾の情報機関、国家安全局の機密文書の出所については、二億台湾元(約七億五千万円)近い横領が発覚し、昨年九月に海外へ逃亡した劉冠軍・前国家安全局出納組長が持ち出したものとみられています。

 台湾当局は機密文書の報道を阻止しようとしました。雑誌『壱週刊』(三月二十一日号)の発売直前、同雑誌社を捜査し、十六万部の雑誌を押収、同号を発禁処分にしました。さらに「国家機密」を漏らしたとして同誌記者を取り調べました。中国時報についても同紙編集長を取り調べました。しかし、これは逆に「報道の信頼性を増す」(シンガポール・聯合早報)との見方を強めました。

 


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