2002年4月24日(水)「しんぶん赤旗」
農家や消費者を不安に陥れているBSE(狂牛病)が日本で初めて発生して七カ月。なお続く牛肉消費不振、牛肉出荷価格の暴落は、農家の経済的、精神的大きな打撃になっています。発生を放置した政府はどう責任をとるのか――。怒りが広がる北海道十勝地方に、その実態を見ました。(北海道総局 富樫勝彦記者)
日高山脈の東側に畑や牧場が広がる十勝管内清水町(人口一万一千人)。顔を出したフキノトウが青葉の季節を待っています。
町中心部の十勝清水町農協で藤田秀明組合長は、「BSE緊急措置法案」(日本共産党など野党四党案)を示すと、「これはわれわれ生産者の声を集約したもの。まったくこの通りです。ぜひ超党派で早く成立させてもらいたい」と、穏やかな声を強めました。
町の農業粗生産額は百五十億円(二〇〇〇年)。うち酪農・畜産関係が七割。乳用牛と肉用牛が三万七千頭で人口の三・四倍に達する町です。そこが畜産物価格の暴落とその長期化で、悲鳴をあげています。
以前は一頭十万円前後していた酪農廃用牛(乳を搾り終わった牛)の価格がいま値が付かない状況。政府が一頭四万円まで補償することにはなっていますが、農家平均で年間七十〜百万円の損害です。
五〜七万円していた生まれたての乳牛オス子牛価格も五千〜二万円に「一気に」落ちました。
藤田組合長は「これじゃとてもやっていけない。WHO(世界保健機関)の勧告を無視し肉骨粉を野放しにした政府の責任は明々白々。この法案の通り、発生前の価格を、しかも値の回復までずーっと補償すべきです」。
肉牛肥育農家も危機に直面しています。同町で千五百頭の肉牛(乳用オス)を飼育する橋本愛子さん(56)。これまで一頭三十〜三十五万円していた出荷価格が、いま十万円そこそこ。国などからの補助で二十五、六万円にはなりますが、足りません。昨年暮れは、牛の仕入れ金や生活費が無く、一億一千万円を借金しました。
「何とか経営を切り盛りし借金も返せるよう、一頭三十万円は欲しい。それと、返済も一年、二年の短期じゃなく十年、二十年の長期にするべきです」と橋本さん。「国がBSEの責任を認めた以上、国は私たち家族九人と職員二人を生かしておく責任がある。殺してはなんないんですよ」
橋本さんは、北海道農民連などが結成した「BSE損害補償を求める会」の入会申込書を書き込んで用意していました。訪ねた日本共産党の妻鳥公一町議に、「娘夫婦や息子夫婦の分も書いてあります。何とかしてください」と手渡しました。
BSEの発生からことし三月末まで同町の被害総額は十五〜二十億円。同町の阿部一男農林課長は「借金返済どころか、ことしの経営のめどさえ立たない農家が多い。BSEで収入が落ち込んだ分、借金は棒引きにしてほしいくらいだ」といいます。
さらに農家は、自分の牛からBSEが発見されたら、という「恐怖感」を抱えています。同町の酪農青年(23)は「牛が好きだからと始めたのに、もし自分の家からBSEを出してしまったら酪農を続けられなくなる。全道一の酪農・畜産地帯がですよ…」と不安です。
心配で食肉用には出さず、採算無視で焼却処分(レンダリング)に出す人も少なくありません。
農民の怒りを集め政府に突き付けようと、帯広市の酪農家・伊沢満洲男さん(62)たちは、酪農家五十数戸を全部訪問。要望を聞き、政府へ損害請求書提出や「会」への入会を呼びかけました。「それは、すごい反応。これまでにない広がりで、ほとんどが入ってくれた」といいます。
二千五百頭の肉牛肥育農家、末下貞雄さん(65)は、「政府の責任の取り方は、損害を全額補償すること。農業は国民の胃袋を満たし命をつなぐ職業。生はんかな考えで大臣をやってもらっちゃ困る」と武部農水相の責任を問います。
同市の酪農家、中村寿夫さん(47)も「BSEは百パーセント政府の責任。損害の全部、消費が元に戻るまでの総額を政府が補償すべきです。暴落前の価格まで補償しろと言う野党法案を一日も早く実現してほしい」と力を込めました。
BSE緊急措置法案(野党四党案)のポイント 国は廃用牛の買い入れを求められたときは、感染牛の発生が確認される前の廃用牛の価格を基準にして買い入れる。当分の間、牛肉骨粉などの動物への給与又は肥料としての利用の禁止。国内でのBSE発生で経営が不安定になった生産者、牛肉の製造、加工、流通、販売の事業者、飲食店営業者などに、経営安定を図るために必要な助成をおこなう。