日本共産党

2002年4月20日(土)「しんぶん赤旗」

「みずほ」の大失態

準備OKは看板と制服だけ

マネーゲーム重視の統合が背景に


 「銀行の本来的な社会的責任・公的使命を当然に重視しなければならない」――。第一勧業、富士、日本興業の三銀行が統合してみずほ銀行がスタートした一日、同行の工藤正頭取は、社内向けあいさつでこう強調しました。その直後から現金自動預払機(ATM)の故障や口座振替の遅延で社会的な大混乱が発生。頭取の言葉と現実の落差はどこから生まれたのでしょうか。(石井光次郎記者)


 みずほ銀行のある行員は、四月一日を迎えた不安な気持ちを振り返ります。

 「三月二十五日にもATMの故障や振り込みの不具合がでました。ホストコンピューターに入れた修正プログラムの不具合が原因でした。ATMの障害は出るだろうが、どの程度になるのか、というのが正直な気持ちでした」

 この予感は現実になりました。新銀行の親会社、みずほホールディングスの幹部たちは、障害発生の恐れがあると報告を受けていたにもかかわらず、そのまま開店に踏み切りました。

研修の時間とれず開店

 問題はコンピューターだけではありませんでした。それ以外の準備も遅れに遅れていたのです。三行がそれぞれ独自に持っていた事務手続き(企業内のルール)を調整した文書が最終的に支店に届いたのは三月も後半。一千種類を超すといわれる伝票や書類の搬入も直前にずれ込みました。

 「新商品を発売するときには、三カ月ぐらいかけて研修するのが普通です。新しいルールを頭に入れる間もなく開店の一日を迎えるのは不安でした」(みずほ銀行関係者)

 まさに「間に合ったのは、表の看板と女性行員の制服だけ」(同)という状態だったのです。ここには、冒頭で紹介した銀行の社会的責任や顧客への配慮は一かけらもありません。マスコミが報じるように、三行間の主導権争いで準備が遅れたとはいえ、経済が銀行に求める決済機能や国民が求める安全や信頼が、なぜこうもないがしろにされたのでしょうか。

貸しはがし促進を強化

 みずほが新銀行としてスタートする一カ月ほど前の三月八日、臨時支店長会議で山本恵朗・富士銀行頭取(当時)は、全社員にむけ講話を発表しました。その中で、最大の経営課題として強調したのが「収益力・財務体質の強化」でした。

 強化の前提としてあげたのは、不良債権を出さないこと。つまり、中小企業などからの「貸しはがし」促進です。「業態悪化懸念のでてきた取引先については、回収あるいは保全強化に向けてスピーディーな対応をとる」と露骨です。

 業務純益を最大にするためということで、「ソリューションビジネス」の拡大を重視しています。カタカナ言葉の内容は、失敗すれば大企業でも経営が傾きかねないデリバティブ(金融派生商品)などをつかった企業向けの金融サービスで手数料をとったり、「ゼロ金利」を背景に、損をする可能性のある金融商品を有利な運用先として個人に売り込むことです。

 デリバティブのほか、企業の合併・買収や分社化をつうじた企業リストラの仲介など、金融市場での競争力強化がいまも最大の戦略課題になっています。その一方で、安心できる預金や中小企業への融資など銀行本来の業務は、展望が開けないと切り捨てられます。

 統合発表当時から、経営トップは、千五百億円にのぼるといわれる情報技術投資の大半を、「デリバティブなど新技術を使った新商品開発」に回して「米銀を追い上げる」(山本頭取)と語っていました。経過はそのとおりに進み、決済機能などの大混乱を生み出したといえます。


後押しした政府の責任

 みずほグループのスタート早々の大失態にたいし、政府から「(経営責任が)ないというわけにはいかない」(十六日、柳沢伯夫金融担当相)との発言がでています。

 銀行にとって一番大切な決済機能が大混乱したのですから銀行が批判されるのは当然です。同時に、金融ビッグバンをすすめ、世界の金融資本との競争、マネーゲームに勝ち抜くために、金融界の統合や合併を急がせた政府は何をしてきたのでしょうか。

 みずほグループを監督する立場の金融庁は、二〇〇一年三月から六月に実施した検査後、みずほにたいし、障害が発生する可能性を同年十月に指摘していました。ところが、みずほは予定どおりスタートしました。

 柳沢金融相は金融庁の責任について、「これは(民間の)自己責任の問題」と口をにごしていますが、みずほの統合を監督してきた金融庁の責任は重大です。

 塩川正十郎財務相は、みずほグループを「ずうたいがでかくなって、中は空っぽちゃうか」と批判しましたが、この言葉は、そのまま政府にあてはまるのではないでしょうか。

 


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