2002年4月17日(水)「しんぶん赤旗」
小泉内閣の「不良債権処理」で倒産と失業の痛みを押しつけられている中小企業労働者の退職金を、大幅に減額する法改悪が狙われています。中小企業退職金共済(中退共)法の改悪案で、政府は十七日の衆院厚生労働委員会で採決しようとしています。
中退共法は、独自に退職金制度を設けることが困難な中小企業を対象に、従業員の福祉増進と中小企業の振興を目的に一九五九年に創設された、いわば“国営の退職金制度”です。中小企業から集めた掛け金を運用して従業員に退職金を支払う制度で、現在約四十二万事業所、約二百八十万人が加入しています。退職金を確実に労働者本人に支払うことを国が保証し、大企業に比べて不十分な中小企業の退職金制度確立の中心的な役割を担ってきました。
今回の改悪案は、退職金額の算定基礎となる予定運用利回りの引き下げを、現在の法律事項から政令事項に変更。その後には、現在3%の利回りを1%に引き下げることも検討されています。
衆院厚生労働委員の日本共産党の木島日出夫議員は、「政令事項への変更は、国会審議を経ずに退職金額を変えられる仕組みに変質させるもの。退職金を受け取る加入者が知らないうちに、金額が変えられてしまう。発足以来掲げてきた『安全・確実・有利な退職金制度』の根幹を変えるものであり、許されない」と指摘します。
利回りは八六年以降段階的に引き下げられ、発足時の6%から、現在は3%まで落ち込んでいます。
掛け金一万円で三十年納付の場合、利回り6%で千百五十二万一千六百円だったものが、3%では五百八十二万四千円と、減額分は五百六十九万七千六百円にものぼっています。それを今回の改悪でさらに減額しようとしているのです。
退職金は、掛け金九千円で十年納付が平均ですが、軒並み減額になるのは明らかです。
同時に、事業主にたいしては、退職金規定で義務づけられている退職金を支払うために、掛け金の増額や支払い額の補てんを迫るものです。
十二日に開かれた衆院厚生労働委員会で厚労省の日比徹労働基準局長は、木島議員の質問にたいし、利回りが1%になると「掛け金一万円の場合で三十年加入とすれば、五百八十二万円から四百二十五万円となる」と答弁。百五十七万円もの減額となることを明らかにしました。
厚生労働省は引き下げの理由を、「実際の運用利回りが予定運用利回りを下回ることにより、積立不足が増大」したことから「制度を維持し、その安定的な運営を図るため」と説明しています。
しかし、国はこれまで、中退共への国庫補助金を減らしてきています。掛け金収入に占める国庫補助金の割合は、八八年度の8・9%から二〇〇〇年度には4・8%に削減。坂口力厚労相は国庫補助金の増額の必要は認めながらも、「厳しい財政状況」を理由に補助金の増額はできないとしています(十二日、衆院厚労委)。
千葉・松戸市から清掃業務を委託されている株式会社・日本サービスで働く小椋富男さん(58)は、「ほとんどの労働者は、当初の約束通りの退職金額を念頭に退職後の生活設計をしている。老後の暮らしを根底から崩すものだ」と指摘します。
小椋さんが加入する全労連・全国一般労働組合千葉地方本部日本サービス分会では、会社側との交渉で、中退共に加入した当時の6%の運用利回りで計算した退職金額を保証させています。現在の利回りとの差額分は会社が補てんする形です。
「次々と利回りが変更されて、日本サービスの労働者も、いつ退職金が減らされるかと不安でいる。国が財源を確保して、当初の額を保証するべきだ」と小椋さんは話しています。