日本共産党

2002年4月12日(金)「しんぶん赤旗」

官業癒着 1万人の悲劇

薬害C型肝炎 拡大の構図


 止血剤として使用されたフィブリノゲン製剤(非加熱血液製剤)で一万六百人と推計されるC型肝炎感染被害を発生させた旧ミドリ十字(現三菱ウェルファーマ)。同社が厚生労働省に提出した報告書からは、大量感染の悲劇を防ぐ機会が何度もあったことが浮かび上がってきます。なぜ、危険を知りつつ販売されつづけたのか。薬害C型肝炎被害拡大の構図を検証します。菅野尚夫記者

旧ミドリ十字「秘」文書

 「FDA(米国食品医薬品局)、人フィブリノゲンの認可取消し、販売禁止」――。簡潔に表題が記されたミドリ十字の社内回覧文書です。

 「社外秘」と印刷された「調査研究録」です。この文書が社長、副社長、品質管理部、営業部、研究所、開発部など主な関係部の責任者に回覧されたのは一九七八年一月でした。

 そこには「フィブリノゲンの効果が疑問であり、肝炎伝播の危険性が高い」と明記されています。重大な危険信号を示す情報でした。

 七七年十二月にFDAがフィブリノゲン製剤の製造承認を取り消した一カ月後のことです。

 同社は、七〇年代後半には大量感染防止にとって待ったなしの事態になっていることを把握しながら、販売を続け、その結果、大量の被害者が生み出されたのです。

◇    ◇

 さらに同社にはそれ以前から、危険を承知でフィブリノゲン製剤を販売し続けたことを示す数々の文書がありまました。

 販売一年後の六五年の同製剤能書には「血清肝炎予防について最善を尽くしているが、現段階ではウイルスの完全不活化を保証することはできない」と明記されています。さらに、肝炎予防として自社製品の投与を勧めています。

 FDAが製造承認を取り消す二年前の七五年の能書にも、「アメリカにおいては本剤の使用により、15%〜20%の急性肝炎の発症があると報告がある」と追加記述しています。

「厚生省に届けた」が

 同社は、「能書はすべて厚生省に届け出たと思う」と語っています。そうであれば、同省は六〇年代から旧ミドリ十字と感染の危険認識を共有していたことになります。

 同省が肝炎感染の危険があるとして、フィブリノゲン製剤を中央薬事審議会の再評価の対象に指定したのは八四年でした。このとき、旧ミドリ十字は基礎資料としてFDAの承認取り消しにかかわる七七年の文書を同省に提出しています。

 八五年から始まった再評価で、中央薬事審議会事務局の厚生省安全課(現審査管理課)から、旧ミドリ十字は「(止血剤として)有効性が認められない」と「内示を受け」ます。旧厚生省が「効用」「用量・用法」「安全性」に疑問があると判断しただけでした。

 製造・販売禁止にせず、販売は続けられるという驚くべき対処がされます。こうした中、八七年に青森県で八人の集団感染が発生。それでも製造承認の取り消しは行わず、旧ミドリ十字の自主回収にまかせました。

天下りで太いパイプ

 これだけ問題がはっきりしていたのに、なぜ集団感染の悲劇を回避しなかったのか?

 そこには旧ミドリ十字と厚生省の深刻な癒着の影がみてとれます。

 フィブリノゲン製剤が製造承認された六四年、ミドリ十字にとって「致命的な打撃を与える」(『ミドリ十字30年史』)出来事がありました。

 売血を禁止し献血による血液行政に転換することが閣議決定され、同社が行ってきた売血による血液事業ができなくなったのです。

 同社は、このとき株式会社日本ブラッド・バンクだった社名をミドリ十字と改め、医薬品としての血液製剤の開発へ事業を転換。開発をすすめていたフィブリノゲン製剤、フィブリン膜などの発売を社運をかけて開始しました。

 その発売をきっかけに、厚生省との太いパイプをつくっていきます。

 発売三カ月前の六四年八月、同製剤の承認申請を処理する細菌製剤課の課長補佐だった小玉知己氏が、承認と同時に同社に天下りました。同氏は間もなく取締役になり、主に販売を担当します。

 さらに七八年三月、厚生省薬務局長を務めた松下廉蔵氏が副社長として天下り、八三年三月には社長に就任。この間、薬務局の企画課長補佐、同経済課長補佐なども相次いで入社しています。

 こうして、旧ミドリ十字は「厚生省薬務局分室」と揶揄(やゆ)されるほどの癒着関係がつくられました。承認申請した会社側と、審査した厚生省官僚が一体となってフィブリノゲン製剤を販売。二人三脚で薬害肝炎を拡大してきた構図が浮かび上がってきます。


自民に献金節々で

 旧ミドリ十字は、問題の起こりそうな節々に、自民党に政治献金をしてきました。

 米国でフィブリノゲン製剤が製造承認を取り消された七七年以降、自民党の政治資金管理団体に二百二十六万円(七七年)、二百二十一万円(七八年)、七百三十七万円(七九年)を献金。

 松下氏ら歴代社長三人が刑事責任を問われた薬害エイズ事件では米国で非加熱製剤からエイズウイルス感染が表面化した八二年に八百九十五万円、厚生省エイズ研究班が設置された八三年に千五百九十七万円を自民党に献金。その後も数百万円から一千万円を超える献金を続けています。


不良医薬品の認可責任重い

 全国薬業労働者連絡会議・荒木茂仁事務局長の話 フィブリノゲン製剤が製造承認された当時の薬事法五六条でも「病原微生物により、汚染され、または汚染されているおそれがある」医薬品を製造・販売してはならないとしていた。当時の厚生省は、この法の精神を厳格に適用して国民の命と健康を守るべきで、能書を見て驚いている。

 副作用とはまったく違い、初めから不良医薬品の製造販売を認めていたことになる。

 また、肝炎感染の可能性を能書で予告し、感染予防に自社の医薬品を使用することをすすめているわけで、旧ミドリ十字の責任は重い。

 


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