2002年4月12日(金)「しんぶん赤旗」
『金融腐蝕列島』で護送船団時代の病んだ銀行と金融行政を書いてきました。『小説 ザ・外資』は、その延長線上の作品です。
たまたま、私の娘婿が外資系企業にいて、厳しさを聞いていたこともあります。結果を出さないと、とたんにクビですよ。土曜、日曜もなく、日本人はまるで使い捨てです。
米系の投資銀行や証券会社が、日本でやりたい放題やっている。高利回りの私募債をめぐり巨額のリベートでスキャンダルになったクレスベール証券の事件があったでしょ。きわめつけは、米系投資銀行のゴールドマン・サックスがアドバイザーになった旧日本長期信用銀行(旧長銀)の米系投資会社、リップルウッドへの売却です。
食い物にされたのは、日本の税金ですよ。旧長銀の破たん処理に何兆円という公的資金がつぎこまれ、「のれん代」十億円で、リップルウッドに売却され、新生銀行としてスタート。経団連会長が社外取締役になるなど信じられません。
アドバイス料などとして、リップルウッドの最高経営責任者のコリンズ氏らの会社に五十億円が支払われる(一部返還)。しかも、瑕疵(かし)担保特約といって、引き継いだ債権が二割減価したら、100%国が元の値段で買い取る。アメリカでは50%ですよ。この瑕疵担保特約が「そごう」問題で、批判の的になるわけです。
新生銀行は、日本の経済界にとって、“鬼っ子”のような存在になっています。新しいビジネスモデルでも何でもない。公的資金をうけながら、中小企業へ「貸しはがし」をしているんですからね。サラリーマンの六割、七割は中小企業に勤めているんですよ。
映画「男はつらいよ」に出てくるタコ社長は、手形の決済におわれながらも、従業員のことを常に考えている。雇用を守るというのは、経営者として当たり前のことだと思うんですよ。
成長期の日本を研究したアメリカが、一番風穴をあけたかったのが、日本の終身雇用制だったんじゃないですか。
この小説には、竹中平蔵さん(経済財政担当相)は出てきませんが、アメリカかぶれの彼は「ハイリスク・ハイリターンの時代が到来した」という。会社なども定年までい続けずに、「リスクを冒す勇気」を持てという。ハイリスク・ハイリターンというのは、弱肉強食。つきつめていくと博打(ばくち)、カジノなんですよ。一国の国務大臣がこんなことをいったことはない。非常に怒りを感じて、「朝日」(三月一日付)に「竹中流改革 カジノ資本主義でいいのか」と書いた。そうしたら、すごい反響でした。いかに、国民が竹中さんのやり方に不安をもっているか。とくにリストラ対象となっている中高年の不安はものすごい。
小泉「改革」は、竹中さんがいうようなハイリスク・ハイリターン、市場原理主義に突き進んでいくわけでしょ。いまの日本の不況は、アメリカ一辺倒の「アングロサクソン・リセッション(景気後退)」、イコール、竹中不況だと思う。このまま突き進んでいくと、日本は限りなく病んでいくと思いますよ。
聞き手・写真 渡辺 健
たかすぎ・りょう 1939年、東京都生まれ。化学関係の専門誌記者、編集長を経て、75年『虚構の城』で作家デビュー。『大合併』『懲戒解雇』『小説 日本興業銀行』など数多くの企業、経済小説を発表。『金融腐蝕列島』3部作の『呪縛』は映画化。最新作の『小説 ザ・外資』は発売から1カ月を待たずに15万部のベストセラーに。