日本共産党

2002年4月11日(木)「しんぶん赤旗」

発言 2002春

東京大学教授 松原隆一郎さん

人生設計を壊す「小泉改革」


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 小泉首相の「構造改革」というのは、要するに、大企業の支配体制をもっと強くしろというものでしょう。やればやるほど不況は深刻化する、そのなかで大企業だけが残っていく。まるで共産党が予見していた経済です。これでは日本経済は崩壊します。

 小泉さんが言っている「構造改革」とは、雇用や土地、資本など、すべての生産要素をマーケット(市場)にまかせ、流動化させるということです。その邪魔をしている抵抗勢力をぶっつぶせばいい。そしてマーケットでの生産性の低い分野、ゼネコンや流通の中でも商店街はぶっつぶす、という議論です。

 しかしこれは、議論の構図全体が間違っていると思います。マーケットがそんなに立派なら、不良債権処理は一切する必要がない。市場にまかせればいいんだから。銀行への公的資金注入もいっさいやるべきではない。

 雇用や資本を流動化させればうまくいくのか。これもおかしいと思います。マーケットというのは、社会との関係のなかで調整がつけられない限り、うまく動かない。一例は、リストラです。

 リストラというのは終身雇用制度を解体するということですが、それをやればやるほど、将来が不安になるわけで、消費しなくなる。とりわけ三十代後半から四十代、五十代の人たちのショックは大きい。この人たちは、終身雇用制から人生設計で自分の生涯賃金がいくらなのかという「読み」があった。

 それが、生涯所得自体がどうなるかわからない。リストラになれば賃金自体も四割、五割のカットですから、当然この人たちはお金を使わないわけです。いま現在クビになってなくても、将来そうなるかも、と思っただけでお金を使わない。これまでの人生設計が崩壊した人たちが社会の中心になる限り、消費は伸びないのではないでしょうか。

 これまで日本の社会の制度のなかには、信頼とか、将来の見通しを与えるようなものがあったと思います。それが、終身雇用制であり、土地神話であり、銀行や預金は政府が守ってくれるという神話でした。少なくとも九〇年代前半までは、こういうシステムがあったと思います。

 それが小泉政権が徹底的に壊そうとしているものです。小泉改革は、だれも信頼するな、自分だけを信頼しなさいという話です。銀行だって、どこに預ければ安全か、自分で計算しなさいということ。失業しても失業手当だけに頼れということです。失業保険が不要とは言わないけれど、失業を起こさないことこそ最大のセーフティー・ネットだと思いますよ。

 すべてのものを流動化させたら、日本経済が崩壊します。これは、やればやるほど、不況は回復せずに大企業だけが力をつけてくる。ほとんどマルクスがいっている通りです。問題の立てかたが間違っていて、百年かけて立ち直るつもりで、国全体を良くするしかないと思います。 聞き手・写真 鈴木 誠


 まつばら・りゅういちろう 1956年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。専攻は社会経済学、相関社会科学。著書に『「消費不況」の謎を解く』(ダイヤモンド社)、『消費資本主義のゆくえ』(ちくま新書)、『豊かさの文化経済学』(丸善ライブラリー)など多数。

 


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