2002年4月1日(月)「しんぶん赤旗」
二月からの「改正」道路運送法の施行で、本格的なタクシー事業の自由化が始まりました。全国どこでも事業の参入や増車ができ、運賃も一定の枠内であれば自由に変更が可能となりました。このため、業界は“戦国時代”といわれるほど異常な競争状態。バラバラ運賃の拡大やダンピング運賃で業界のまとまりがつかなくなっている大阪府にその実態を追いました。(米田 憲司記者)
府下のタクシー台数は法人一万五千、個人五千の計二万台。近畿運輸局が二〇〇〇年七月に発表した需給動向調査では三千八百台、全国自動車交通労働組合総連合大阪地方連合会(自交総連大阪地連)の調べでは五千台が過剰となっています。にもかかわらず、二月の同法施行後、八日現在で三十六社五百二十一台も増車申請され、許可されました。
大阪市内の事業主は「長引く不況で営業収入が二十年前の水準に落ち込んでいるのに、台数が増えれば小さなパイをみんなで奪い合うことになる」といいながら、「減車にはみんな賛成だが、自分の社は一台でも増やしてもうけを維持したい、というのが本音だ」といいます。
運賃では、関西中央グループ(六社)が二月初めに「遠距離五千円以上は五割引き」を申請すると、関西ハイタク事業協同組合(関協)の六社が追随しました。また、ワンコインタクシーとして初乗り(二キロメートル)運賃を五百円で申請した会社もあります。
公益性の高いタクシー運賃は認可制で、その基本は同一地域同一運賃です。初乗り五百九十円〜六百六十円の幅運賃制を導入。無用な競争を避け、事業社の収益と労働者の収入を安定させないと乗客の安全と安心感を損なうからです。
大阪の運賃申請がバラバラで収拾がつかなくなっているのは、三菱タクシーグループが申請(九七年)した初乗り五百五十円の営業を運輸局が個別審査で認めたのが発端です。さらに、個々の企業と契約している大手タクシー会社によるダンピングが輪をかけています。月々の集金やチケット販売の際に二割程度の割引きをしているといいます。
「正直に守っていたら己だけが損をする。その反発が流し中心の会社による遠距離五千円以上半額運賃の登場となっている」という事業主もいます。しかし、もっと大きな背景には大阪経済の地盤沈下があります。一極集中で本社が東京に移転したり、工場が東南アジアに行くなど産業の空洞化、消費税、不況が色濃く反映しています。
大阪のタクシー労働者の年収の推移を見ると、九一年の年収五百五万円が二〇〇〇年には三百十七万円まで下がっています。月収にすると二十六万円余です。
運賃は、申請から認可まで三〜五カ月かかります。認可後の見通しは、誰しも「厳しさ」で一致しています。「増車と運賃値下げにより営業収入は5%低くなるから賃金も抑えさせてもらわんと会社がつぶれる」と、早くも賃下げを公言する事業主もいます。
自交総連大阪地連の権田正良書記長は「『自分だけが良ければよい』という事業主の考えが無秩序な状況を生み出してきたのであり、それを容認、推進してきた行政に大きな責任があります。異常で過剰な競争のしわ寄せを労働者に転嫁することは筋違いだし、お客さんには安心して利用してもらえなくなってしまいます。“何でもあり”のタクシーの自由化は、健全な公益事業の発展を阻害するだけです」と厳しく指摘しています。
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