日本共産党

2002年3月23日(土)「しんぶん赤旗」

新自由主義は何をもたらすか

弱肉強食 物つくる能力を破壊

日本が選ぶべき道ではない

英・経済学者 ウィルキンソン博士に聞く


 小泉「構造改革」の基礎になっているネオリベラリズム(新自由主義)は何をもたらすか。日本にリストラや規制緩和を迫るアメリカの要求の背後に何があるのか。英ケンブリッジ大学で新自由主義批判の論陣を張るF・ウィルキンソン博士に聞きました。

 (ケンブリッジで田中靖宏)


 ネオリベラルは米英資本とくに金融資本にとって大変有利でした。世界中を動き回って企業を売り買いしたり、安価な労働力を使って高利潤を得られるからです。これが株式市場を潤し、資本や物が米英に還流する仕組みを作りました。

 ところがこの理論が実際の経済で成功しているかといえば決してそうではないのです。むしろ経済の基礎をなす生産能力を大きくそこなってしまった。金融や労働市場の自由化、企業のリストラで、競争力に必要な生産・労働組織の資源を作る能力を減退させてしまったのです。

 実際、いま生産物の質や価格の面で世界をリードしているのは米英ではなく、日本やスウェーデン、イタリアやドイツといった諸国です。これらの国では「市場がもつ破壊的な役割」をうまく規制しながら、米英型とは違う生産・労働システムを発展させています。

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自由市場は強者に最適

 実は、安くて質のよい財貨やサービスを生み出す「真に効率的な労働・生産システム」と自由市場の間には根本的な矛盾があります。早い話が米英の企業は株主利益を最優先して経営者は短期的な利益確保に走ります。長期的な観点から効率的な生産システムを作る努力をしません。労使の協力で効率的な生産システムを作っても、自由市場の論理に破壊されて長続きしないのです。

 自由市場優先の政策は強者が弱者を搾取する最適の場を提供します。だから米英型資本主義は大企業の幹部や株主など一部の人たちには大変な利益をもたらします。しかし国全体の富を拡大する技術や生産システムを発展させる点では大きな欠陥があるのです。

 ネオリベラルは所得の格差を拡大しました。英国では貧困ライン以下の所得層がサッチャー革命以降、数%から20%近くに広がりました。富裕層が50%以上も所得を増やしたのに、最下層は停滞か低下です。市場万能主義は一部の人の利益にはなっても、一方で貧困を増やし、政治経済を長期的に安定させる役にはたたないのです。

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EU内でも激しい闘争

 欧州では九〇年代に多くの国でネオリベラルを推進した右派政権が敗退し社会民主主義政権に交代しました。市場万能主義の欠陥の一つの現れです。

 欧州にはまた同じ資本主義でも英米型とは違ったタイプの歴史的発展があります。十七世紀から十九世紀にかけて英国ではアダム・スミスなどが「個人と市場」を経済発展の原動力と考えました。これにたいしプロシャを中心とするドイツでは「国家による税と社会政策」が人々を豊かにする中心手段と考えられたのです。そのため技術訓練や社会保障が発展しました。一方北欧諸国では前世紀の初めから政労使の合意で高度の福祉国家を作り上げました。これらの諸国が加わって欧州連合(EU)内では、ネオリベラルと社会政策重視派との間で激しい闘争がおこなわれています。

 日本経済の問題をみても、新自由主義的な「改革」が成功するとは思えません。欧州諸国の経験は別の対案を示しています。日本はいま一度、経済で一番大事な「効率的な生産システム」を作り上げているのはだれか。財の生産やサービスの提供で世界をリードしているのはどの国かを問うてみるべきです。

 それは欧州やスカンジナビア諸国、日本や韓国です。実は米英資本にとってそれがもっとも脅威なのです。対抗して米英が編み出したのが企業の敵対的買収と金融による支配です。そのために彼らは他国に市場開放を迫り、自由化や規制緩和を要求しているのです。

 日本は技術と労働力をフル活用して効率的な生産システムを作り上げました。労働者に大変な犠牲を強いた結果ですが、優れた製品を作る力は世界のトップグループです。新自由主義はこれを確実に破壊していきます。本来なら社会的な安定と均衡をもたらすはずの生産力の基礎をいっそう掘り崩し、大量の貧困を作りだします。それが日本が選択すべき道だとは思えません。

 


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