2002年3月10日(日)「しんぶん赤旗」
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SF、ハードボイルド、怪奇物語――数々の話題作を紡ぎ出し、多彩な仕事ぶりで知られる売れっ子作家・夢枕獏さん。次々と浮かぶアイデアに、生きているうちに書ききれない!と、あせってしまう毎日だそうです。
大内田 『神々の山嶺(いただき)』でマンガ部門優秀賞受賞おめでとうございます。『陰陽師(おんみょうじ)』の手塚治虫マンガ大賞に続く快挙ですね。
夢枕 いやーこれはもう、いずれもよき作家に巡り会った結果ですよ。僕は「この人に漫画にしてほしい」と思い、漫画家の方は「この作品を漫画にしたい」と思っている。まさにそういう描き手との出会いがあって生まれた作品ですから。
大内田 まえにお会いした時、ちょうど、『神々』を漫画にするんでこれから谷口ジローさんとヒマラヤへいくんだって。
夢枕 そうか。それで行って、これが出来上がったんです(笑い)。でも、谷口さんは本当にすごい。これぐらい山の描写ができる人っていないですよ。山の表情を毎回毎回描いていくのは本当にクオリティーの高い仕事だと思うんですけど、実に細かいディテールまでみごとに描いてますからね。ほんと、谷口さんでよかったです。
大内田 『陰陽師』の安倍晴明は、「今昔物語」に出てきますけれど、お好きだったんですか。
夢枕 「今昔」は中学のころはもう読んでいて。
大内田 かなりの文学少年?
夢枕 そのころが一番そうでしたね。勉強はしませんでしたが、本は手当たりしだい読みました。一番おとなびてたのは江戸川乱歩ですかね、そのエッチな部分をいいのかなあとか思いながら読んでましたね(笑い)。『陰獣』とか、『屋根裏の散歩者』とか。親父が本が好きで、母方のじいさんが浪曲師だったものですから、講談とか物語系の本がたくさんあったんですよ。小説もかなり小さいころに書こうかなーと。
大内田 やっぱり。
夢枕 子どものころって、いろんな妄想があるじゃないですか。宇宙飛行士や月光仮面になりたい、アフリカへ行ってターザンみたいなことをしたいとか(笑い)、明智小五郎みたいに探偵事務所を持ちたいとか、そういうなかで一番現実味がありそうだったのが小説家だったんですよ。弁護士みたいに試験があるわけでもないし、だれでもなれますからね、能力に応じて、志さえあれば。
大内田 そうはいっても。(笑い)
夢枕 一発デビューというのはなかなかでしょうけどね。僕も二十六、七でデビューして食べていけるまでは、なんだかんだいって八年ぐらいかかりましたから。その間アルバイトして食いつないで人並みに苦労しましたけれど、苦労の量でやることを決めるわけではないので(笑い)。やっぱり僕にとって、ものを書いて「面白い!」と、言われるのがなによりの快感だと思ったんです。
でも、いま本を一冊出したぐらいでは食っていけないですからね。本当は作家のためにも今のような状況って、良くないんですよね。ついついたくさん書いちゃったり。僕も多作の方で、多作必ずしもレベルが落ちるというわけではないですけれども。そういう点では手塚治虫さんって、すごいですよ。あれだけの作品を描いていて全部水準作ですからね。よくあれだけレベルの高い作品を、いろんな時代時代に生み出すことができたな、って思うと、やっぱり天才の天才たるゆえんだろうと思いますね。
大内田 昨年のアメリカでおきたテロ事件や報復戦争をめぐる事態をどうみていますか。
夢枕 いま世界は非常にバランスが悪くなっていると思いますね。中東で起こっている出来事を見ても分かるように、問題は殺し合って解決できるようなものじゃない。ところがアメリカは武力に訴え、アフガンでは多くの一般人が空爆の犠牲になった。僕はあのときブッシュ大統領が正義の戦争といったことにすごいうさんくささを感じたんですけど、その後、こともあろうに「悪の枢軸」とかいいだして、イラン、イラク、北朝鮮、と、名前まであげだした。これは、異常だし、こわいことですよ。
大内田 いま世界から大非難を受けています。
夢枕 地球温暖化防止の京都議定書のことだって、アメリカは一度OKしておきながら今、ノーと言っている。これはブッシュ大統領が石油関係の企業を支持基盤にした人間だからですよ。石油事業に関係のある一族なので、アメリカで一日に使うエネルギーを、大気汚染がどうだっていうんで規制されちゃったら困るという、あれはもうアメリカのためというより一族のことを思ってやった、完全な打算だと思うんです。
しかし一人当たりのいろんなカロリーを消費しているダントツはアメリカで、もし全地球に生息する全人類がアメリカ人一人当たりが消費するカロリー量と同じエネルギーを同じように消費したとしたら、あっという間に地球は壊滅するだろうというところまできている。なのにアメリカはこれでいいんだというのでは、おかしいですよ、これはもう。
大内田 そのアメリカに何でも賛成が小泉内閣です。
夢枕 初めは小泉さんって言っていることに矛盾が少ない人と思っていたんです。でもやった結果は言っている事と開いてきて、真紀子事件によってなんだお前もか、結局は自民党なんだな、ということが分かった。僕はもう政権交代しかないと思います。鈴木問題にしても、あ、共産党の追及、生でみましたよ(笑い)、国会中継を。面白かったというと怒られるかもしれないけれど、あの、ドキドキしましたね。すごい迫力で。
自民党の政治って各省庁に鈴木さんみたいな人がいるということでしょう。だから自民党の中の政権交代では何も変わらない。といって、申し訳ないけれど共産党にはまだその力がないし、どこがやればというところがないんですよ。完ぺきな連合政権がつくれればいいんでしょうけれどね。
夢枕 こんど中国の雲南省に恐竜の取材で行くんですよ。江戸時代に恐竜が出没して、江戸城を壊したりする話を書こうと思って。
大内田 そういうアイデアって、寝ていてぱっと浮かぶんですか。
夢枕 ま、そうですね。
大内田 頭の中はどうなっているんですか。(笑い)
夢枕 単純なことですよ。例えばこんどの場合ですと、恐竜とゴジラが好きで、ゴジラの映画を見るといつも不満なんですよ。ゴジラなんて恐竜の多少突然変異したものなら、自衛隊の火力で当然対応できるはずなのに、いつもやられてばっかりじゃないですか。それになんで歩きやすい道があるのに、ビルを壊して歩くのかとかね(笑い)。なんとかしてよ、と思っていたんですけれど、それなら自分で書こうと、ある日思って。
大内田 面白い!
夢枕 その時に、人間と恐竜がある程度対等にたたかえるとしたら江戸時代だな、と。ではだれが迎え撃つか、平賀源内が友達の杉田玄白と一緒に恐竜を迎え撃つ話を書こう。そういうことを考えていたら、雲南省に恐竜の化石が出たっていうんで、これはいいと。
大内田 まったくのフィクション?
夢枕 そうです。しかし江戸の歴史、日本の古代史、いろんなものを集めたり読んだりしないと、なんで江戸時代に急に恐竜が出現するのかということを、リアルに書けないんですよ。ウソができるだけリアルに見えるような歴史的事実をみつけてきて、こういうわけで、恐竜はずっと生きていたんだけれども、江戸時代になるまではだれにも知られなかったんですよ、というようなウソを書くんです。(笑い)
写真 野間あきら記者
ゆめまくら・ばく 1951年神奈川県小田原市生まれ。89年『上弦の月喰べる獅子』で日本SF大賞、98年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。2001年漫画家岡野玲子さんとコンビの『陰陽師』で「手塚治虫文化賞・マンガ大賞」を、02年谷口ジロー氏とコンビの『神々の山嶺』で「文化庁メディア大賞・マンガ部門賞優秀賞」を受賞。恐竜の物語は小学館の『ラピタ』で8月半ばから連載開始予定。
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