2002年2月8日(金)「しんぶん赤旗」
【ポルトアレグレ(ブラジル)で菅原啓】「別の世界(をつくること)は可能だ」―これが五日閉幕した世界社会フォーラムで多くの参加者から発せられた合言葉でした。
一九九〇年代から加速した経済のグローバル化は、民営化や規制緩和など米国を中心にした先進国や多国籍企業に最大限の利益を保証しながら、世界各国でその負担を大多数の国民に押し付けるものとなっています。世界社会フォーラムは、こうしたグローバル化の「負の側面」を懸念する人々が、「別の世界」を求めて声を一つにし、具体的な方向を議論しあったという点で重要な会議となりました。
別の世界とは何か。「グローバル化は資本主義の到達点。反グローバル化は反資本主義、社会主義をめざすたたかいだ」と単純な議論を展開する人もいました。
一方、企業は市民社会の民主的なルールを守る社会的責任があるとの立場で活動している国際非政府組織(NGO)「地球の友」のエルサルバドル代表リカルド・ナバロ氏は「別の世界とは基本的にはより人間性のある世界、持続可能な世界のことだ。私たちは資本主義そのものをなくそうというのではない」と説明しました。カナダのケベック州政府代表は「規制された、人間性のある、協調的なグローバル化が理想だ」とのべました。
こうした発言に象徴されるように、表明された意見の最大公約数は、経済的に強いものが弱者を犠牲にして、貧富の格差を広げる結果となっている「弱肉強食の世界はもうごめんだ。人間が大切にされる世界を築きたい」というものだったといえます。
多国籍企業の活動規制、金融取引への課税措置、対外債務などフォーラムではさまざまな問題が取り上げられました。とりわけ開催地が中南米であることから、南北米大陸全体を米国が支配する自由貿易圏にしようとする構想には、極めて強い拒否の声が上がったのが特徴です。
一九九四年に米国、カナダと北米自由貿易協定(NAFTA)を締結したメキシコでは、比較的高い経済成長率を記録しているものの、米国商品の流入によって六割の中小企業が倒産に追い込まれたという調査結果も紹介されました。
自由貿易反対メキシコ・ネットワークのアレハンドロ・ビジャマル氏は、「こうしたメキシコ国民と同じ苦しみを中南米の兄弟たちに味わわせたくない」と強調。同貿易圏を交渉する会議開催地での連続的な抗議行動が決められました。
世界を見渡せば大多数の国の政府が、米国や国際金融機関の圧力のもと、新自由主義的な政策をとっていることも事実であり、たたかいは容易ではありません。しかし、先進国フランスの閣僚や少なくない途上国の大使館代表も参加したことにみられるように、規制なしのグローバル化への懸念が政治支配勢力にも広がっていることは確実です。
カナダのNGO代表は、「企業への規制という考えは七〇年代に提起されたものの、八〇年代以降ほとんど忘れ去られていた。『グローバル化』の問題点が企業家にも無視できないほど重大になったことで、この考えが受け入れやすくなり、注目されている。いまこそ企業への規制を実現するチャンスかもしれない」と指摘しました。
自由化や規制緩和一辺倒だった時代から、教訓が引き出され、世界が企業活動にたいしても当たり前の民主的な規制を求める方向に進んでいることが示された会議でした。
現状の世界経済秩序を批判するだけでなく、さまざまな改革の方向が議論されたこのフォーラム。何らかの明確な解決策を打ち出したというわけではありません。実行委員会の代表は「参加者の多様性こそわれわれの活力だ。参加者が今後の活動に役立つネットワークや経験交流をすることが重要だ」とフォーラム開催の意義を強調しました。
五万人の参加者たちが今後、各国政府に市民の声を反映させるために、いかに運動を発展させていけるか―「別の世界」実現のカギはそこにあります。
「世界社会フォーラム」は、世界各地から五万人を超える人びとが参加して、ブラジルのポルトアレグレで一月三十一日〜二月五日に開かれました。第一回の同フォーラムは昨年一月二十五日〜三十日に同地で開かれ、一万六千人が参加。今回はさらに規模が膨らみました。
同フォーラムは、大企業の経営者や主要国の政治指導者らが参加して毎年開く「世界経済フォーラム」(通称・ダボス会議)に向け、非政府組織(NGO)による“対抗会議”として開かれたものです。
国際通貨基金(IMF)や世界貿易機関(WTO)など、米国が影響力をもつ国際機関や多国籍企業の手で、世界経済はますます一体化。途上国と先進国とを問わず、市場に最大の自由を与える新自由主義の政策が推進され、雇用不安、貧富の格差の拡大、「カジノ資本主義」と呼ばれるような投機化、が強まっています。
一方、こうした「グローバル化」に反対するNGOも年々、活動を強化。これら諸団体が「別の世界は可能だ」を合言葉に、「世界社会フォーラム」を立ち上げました。
第一回フォーラムの実行委員会は、同フォーラムを毎年、ダボス会議と並行して開催することで合意。また、参加するNGOの活動や傾向の多様さを反映して、同フォーラムを開かれた、民主的なものとすることを、主要団体が確認しています。
(浜谷浩司記者)
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