2002年2月4日(月)「しんぶん赤旗」
小泉首相は一月中旬の東南アジア五カ国歴訪(フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア、シンガポール)で、米国の「アジアの安全保障への貢献」と日米軍事同盟の役割を強調して、新たな「東アジア拡大共同体」構想を提唱しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日本、韓国、中国)という枠組みに、オーストラリア、ニュージーランドをも「中心的メンバー」に加え、米国との連携を不可欠とするというものです。これは、アジアの協力の枠組みに米国を関与させるべきだというもので、アジア各国に疑念を広げています。
この構想は、小泉首相が一月十四日にシンガポールで行った「東アジアにおける日本とASEAN」と題する政策演説で表明したものです。そこでは、「この地域における安全保障への貢献や、この地域との経済相互依存関係の大きさ」をあげて「米国の役割は必要不可欠」として、「日本は米国との同盟関係をいっそう強化していく」と強調しています。
小泉首相のこの構想に対してマレーシアのマハティール首相は、「アジアはASEAN+3で結束するべきだ」と「アジアの結束」を繰り返し主張し、小泉首相の構想に反対したと伝えられます。マハティール首相はこれまでも、オーストラリア、ニュージーランドは「アジアの一員ではない」として「ASEAN+3」に加えることに反対。特に米国が東アジア協力の枠組みに加わることに強く反対しています。
インドネシアのメガワティ大統領も小泉首相の「ASEAN+3」拡大構想に対して、「ASEAN+3の枠組みで協力関係を強めるべきだ」と応じました。
マレーシアの英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズ一月二十六日付は、「米国が含まれるなら、アジア太平洋協力会議(APEC)と似たものとなる。それが最終的に小泉が望むものだ」と小泉構想の狙いを指摘しています。
香港の英字誌『ファー・イースタン・エコノミック・レビュー』一月二十四日号の「日本の東南アジアへの再関与」と題する論評(南山大学のロビン・リム教授が寄稿)も、かつてマハティール首相が提唱した東アジア経済会議(EAEC)の“転身”であるASEAN+3では、「中国に支配されることになる。それゆえ小泉はASEAN+3を弱体化しようとしている」と指摘。小泉首相が“米国は必要不可欠”といい“日米同盟”の重要性を強調したことについて、「彼は、共同体は米国と密接なパートナーシップを持つべきであると提案した」とズバリ切り込んでいます。
マハティール首相が一九九〇年に、東アジアが結束し協力を強化するためのEAECの創設を提唱したのは、米国の介入がベトナム戦争を引き起こしアジア各国が長期にわたって対立した苦い教訓を踏まえたものと受け取られています。
米国は自国を含まない東アジア地域協力の構想に猛反発して、その創設を妨害。マハティール首相がこれに抗議してAPEC第一回非公式首脳会議(九三年)を欠席した経緯もあります。この時期、米国の意を受けてEAECの妨害に努めたのが日本で、その時に持ち出した提案が、今回と同じくオーストラリアとニュージーランドを含めるというものでした。
その後、九七年七月に始まったアジア経済危機は、過度の対米依存を脱却し、域内諸国が協力する必要を認識させました。このことがASEAN+日中韓三国の協力の枠組みを推進しました。
“アジアのことはアジアで”という気運は、平和、経済協力から文化の分野にまで前進しています。九九年に、東ティモールへ多国籍軍を派遣するさいにオーストラリア軍が主体となることにASEAN諸国が強く抵抗し嫌悪感をあらわにしたのも、アジアのことはアジアの手でという考え方に基づくものでした。
小泉首相は先の政策演説で、日本が「地域の安定確保のためにいっそう積極的な貢献を行う」と述べ、テロや東南アジアで大問題となっている海賊など「国境を超える問題」への「共同の取り組み」を強調し「ASEANの海上警備機関の間の協力を強化したい」と述べました。その具体化として、海上保安庁の巡視船をマラッカ海峡などに派遣することを検討しています。
日本のこうした動きについて、中国の北京日報一月十六日付は、日本が反テロの名目で海外派兵を進めていることをあげて、「アジア国家の懸念を引き起こしている」と述べています。シンガポールの華字紙・聯合早報一月十八日付は、「小泉氏が軍事大国の問題に一言も触れなかったのは、それ(軍事大国にならないという約束)を再度保証しようと思わなかったのか、それとも日本はすでに軍事大国になっているということなのか、それを吟味する価値が大いにある」と指摘。香港誌『亜洲週刊』一月二十七日号は、小泉首相が二十五年前の福田首相のマニラでの演説の意義を強調しながら「『福田ドクトリン』の三大原則の中でもっとも賞賛と評価を受けていた『日本は軍事大国にならない』との原則がこっそりと捨てられ、忘れ去られている」と述べています。
日本政府は米国のアフガニスタンに対する報復戦争を機にテロ対策特別措置法を強行採択して自衛隊をインド洋に派遣し、米英軍との共同作戦に従事させました。米国が対テロ戦争をフィリピンなどアジア各国に拡大している時、小泉首相は「東アジア拡大共同体」構想の提唱で、米国のアジアへの軍事介入態勢づくりの先導役を買って出ているのです。
韓国紙・東亜日報一月十六日付は、「歴史教科書わい曲の波紋、小泉首相の靖国神社参拝などで周辺国と外交摩擦を辞さなかった日本が、急にアジアに笑顔を見せ、協調を求めるというのは違和感を感じさせる」と指摘しています。
小泉首相の東南アジア歴訪は、安全保障、経済などの問題で米国の関与を強め、アジアでの日本の軍事的役割を強めようとする小泉内閣の危険な“東南アジア戦略”なるものを浮き彫りにしています。(北原俊文、鈴木勝比古 両記者)
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